第22話.通知
「白線から落ちたら負けなんて昔よくやってたなあ」
佐和田さんが道路の白線に乗ってよろけてみせる。家と変わらず、薄手の長袖にデニムというオシャレの「お」 の字もないような姿で。
もう少し女の子らしくしててもいいのに、顔立ちは整ってるし、もっとオシャレに気を配ればきっとみんな振り向くだろう。
でも間違ってもそんなことは言えなかった。いや、言わなかった。
「ちょっと買い物付き合って」 そう言われたのがほんの5分前。
もう陽は赤くなり始めている。家に帰って寝る予定だったのにすっかり長居してしまった。
ピローンと、僕の携帯の通知が鳴った。自分のが鳴ったと思ったのか、まったく同じタイミングで佐和田さんも携帯を見た。僕も釣られて見ると、あの実況者が動画を投稿したという通知がきていただけだった。
「なにかきてた?」
「いや、なにもきてないよ」
「そう」
気のせいか、残念そうな顔をしているように見えた。
市営住宅から『ドリーム』まではそんなに離れていない。10分も歩かないうちにたどり着いた。
「なに買うの?」
「ネギとか、色々」
「佐和田さん、料理できるの?」
少しの期待を込めて聞いてみた。最近食べることが楽しみだから、このままじゃ太ってしまいそうだ。
「そんなにできない・・・かな、最近、始めたばっかりだから」
「ふーん」
「包丁もまだあんまり使えないから」
見ると、長袖の先の指には2つほど絆創膏が貼ってあった。さっきの言い方からしておそらく包丁で切ってしまったのだろう。
「まあ僕もできないけどね」
「あはは、男の子だもんねー」
「そういう佐和田さんもできないって言ってたじゃないか」
「あ、そういえば言ってたね」
人と話してて笑ったのはいつ振りだろうか。人間の感情が分かった瞬間のロボットみたいな感動がそこにはあった。
少し感動している間に僕が持っているカゴがいっぱいになっている。どれだけ買うつもりなんだ・・・・。
「お支払いは4379円です」
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