第23話.きっかけ

僕が無気力人間になったきっかけ、と言えるほど僕の人生でなにか大きな出来事があったわけではない。


いつの瞬間かはもう忘れてしまったが、ある時急に、思っているような言葉で話すことができない自分というものに気付いた。


他人とうまくコミュニケーションが取れない。


自分の口から出ているはずの言葉が、まるで誰かの言葉を借りているような、そんな不思議な感覚があった。


その感覚は次第に誰かに無理矢理喋らされているような感覚に変わっていった。その感覚がなんとも言えず、ただただ気持ち悪くて、僕は常に必要最低限の言葉だけで会話するようになっていた。


ちょうど高校に上がってから、いや、上がる直前だったような気もする。


なにやら、虚しい、という感情だけが僕の心に残った。


朝起きても、登校してても、授業も、休み時間も、家に帰ってもなにをしてても心の底から楽しめないでいる自分がいた。


このくらいの年頃だったら、誰が誰を好きとか、誰と誰が最近別れたとか、そういう噂話が常に周りにはついて回る。しかし、そういう会話になんの意味があるのか、いつからかそればっかりを求めるようになった。


結局、意味は見出せなかった。


裕介だけじゃない、クラスの連中や中学の同級生なんかと喋っている時、僕はただ相槌を打つだけの機械になったような感覚だった。


それから僕は、自分から話すという行為をしなくなった。


幸いにも中学から高校という人生の分岐路でそういう変化があったため、高校からの連中はきっと、僕は元々そういう人間なんだという印象を持ったことだろう。


中学からの付き合いの連中は、急に喋らなくなった僕に冷たく、痛い視線を投げかけた。唯一、裕介だけが今でも僕と友達を演じてくれている。


1番喋らなかった時期、まだ姉も一人暮らしをしていて裕介も新しい交友関係を作るために僕以外とばかり話していた時期。思えば、あの時もし自分から話しかけるという発想があれば、今の僕はもっと高校生活を楽しんでいたかもしれない。


「なに難しい顔してるの?」


ふと、佐和田さんの声で現実に押し戻された。なんで急にこんなことを考え込んでしまったのだろう。


「もしかして」


「重かった?」 申し訳なさそうに顔を覗き込まれた。


「いや、そんなことないよ。ちょっと考えごとしてただけ」

「本当に?」


それでもやっぱり心配だったのか、レジ袋の片方を持ってくれた。出逢った初日にすることだろうか・・・・? まあ、ある意味前から知っていたわけだしこのくらい大丈夫だろう。

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