第40話.二人乗り

「ふーん」

「ごめんね、こういう話されても困るよね」

「僕は別に」


夏休み初日こそりえと過ごしたが、その後は3日ほど気だるい時間を過ごした。課題もいっぱい渡されたがまだ時間はたっぷりあるので何も手を付けず、綺麗なまま保管してある。


今日はりえから1人は寂しいとLINEがきたので朝食も食べずに3号棟まで遊びに来た。


話というのは概ねりえの今まで歩んできた人生のことだった。小学校からこの市営住宅に入居するまでの話。


ひどい人生だ。君は悪くない。途中途中でそんなことを思ったが言葉にするのはやめておいた。こんな時の同情がなんの役にも立たないことを僕は知っている。


「幸一くん」


少しなにかを期待しているような目で僕の方を見つめてくる。見ていると吸い込まれそうな大きい黒目にちょっとだけ胸がドキッとした。


「どこか連れてって」

「え」


どこかと言われましても・・・・・・。まだ高校生だから車もないし公共機関を使ったところでお金もないから行けるところまで行ったとしてたかが知れてる。


仕方なく、中学以来使ってなかった自転車を引っ張り出してきた。


「ちゃんと捕まっててね」


コクリとりえが頷き恐る恐る僕の腰に手を回す。「せーの」 かけ声と同時に自転車を漕ぎ出した。


二人乗りなんて初めてだ。中学の連中はよく恋人同士でやってたみたいだが、彼女がいるかどうか以前に運動神経が悪い僕には無縁のものだと思っていた。


やってみると意外とそうでもない、スピードが出てくると車体は結構安定してペダルを漕ぐとドンドン加速していく。なんだ、簡単じゃないか。


「気持ちいい」


後ろでりえが呟いたのが聞こえた。僕も気持ちいい。田畑のど真ん中に通ってる少し広い道を二人乗りで駆け抜ける。風になってるみたいで気分が高揚する。


「ねえ幸一くん!」


自転車は風切り音が直に聞こえるので必然と大声になる。いつもの声量にプラスビックリマーク1つ分くらいの声量で話しかけられた。「なにー!」 釣られて僕もつい大声になる。


「ここから!」


なんだ、まさか行けるところまで行こうってんじゃないだろうな。


「学校まで! どれくらいかかるの!」

「自転車だと1時間弱くらいかな!」

「遠いね!」


遠いよ、と思った。


「今度連れてってあげる!」


なに言ってんだ、こら、僕の口。


「本当? 行くなら夜がいい!」

「わかった!」


言っちゃったものは仕方ない。夏休みの面倒なイベントがもう一つ増えた。

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