第18話.繋がった

なんでこうなったんだろう。僕は今、香山先生の軽自動車に乗って、しばらくクラスの話題を持ちきりにした当本人の家に向かっている。佐藤さんは成宮中出身だと裕介が言っていたから、成宮町までは大体車で30分くらいか。途中、15分くらいのところにある西嶋町で降ろしてくれないだろうか。


「ごめんね井上くん、無理を言ってしまって」

「あー、まあ、でも特に用事もないので」


30分、僕は無言でも平気なのだが香山先生の方から話題を振ってきた。


「夏休みはなにか予定とかはないの?」

「えーと、8月2日にクラスのバーベキューに誘われました」


「ないです」 なんて言ったら妙な心配をしてきそうなタイプの先生なので、この時ばかりはバーベキューに誘ってきた裕介に少しだけ感謝した。まあ、それでも面倒なイベントなことに変わりはないのだが。


「本当? 良かった! 井上くんいつも1人でいるから馴染めているか少し心配だったの」


余計なお世話だ、と心の中で思いつつ愛想笑いをした。先生も、次の話題を探しているのか、少しの間沈黙が流れた。


「そうだ、井上くん」

「はい?」

「なにか私のことで質問はない? なんでも、給料とか以外なら答えるよ」


これまた面倒なことを言い出したものだ。別に他人に興味なんてないし、そもそも香山先生は結構プライベートのことをオープンに話すので、嫌でもそこそこの情報は知っている。


「じゃあ、香山先生のことじゃなくてもいいですか?」

「う、うん! 私に答えられることならなんでもいいよ」

「なんで、僕なんですか?」


今この世で1番疑問に思っていることをそのまま口に出した。職員室では勢いに押されて思わずオーケーしてしまったが、あの時から今まで、ずっと疑問を持ち続けていた。


「あー、それはもう少し家に近付いたら言おうと思ってたんだけど」


「予定が狂ったなあ」 なんて調子で額に手を当てた。


「佐藤さん、今井上くんと同じ市営住宅に住んでるのよ」

「え、ええ?」


そんな話は聞いたことがない。一応産まれてからずっとあそこに住んでいるので、他の住民の名前は一通り把握している。


「あとね、今は佐藤さんじゃなくて佐和田さんに名前が変わってるのよ」

「さ・・・・」


そこまで聞いて言葉を失った。


佐和田さん? ちょっと待ってくれ、脳が情報を処理し切れない。


姉ちゃんの話では、最近市営住宅に引っ越してきたのがサワダサン。


『ドリーム』 で逢って、この前ゴミ捨て場で少しだけ話したのもおそらくサワダサン。


僕の隣の席で、1週間で来なくなったのが佐藤さん。


佐藤さんは今僕と同じ市営住宅に住んでいる。


そして今は佐藤ではなく佐和田。


全てが、僕の頭の中で繋がった。

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