第49話.怖いお姉さん

幸一くんの家のリビングに通されて、怖いって聞いてるお姉さんと2人きり・・・・。なんで? 私なにかしたっけ?


怖いよ、なにされるんだろう。幸一くん私のことお姉さんになんて言ってるんだろう。助けて、幸一くん。


「さっきはごめんね」


怖いと聞いてるお姉さんの口から出たのは意外な言葉だった。


てっきり「お前何者だよ、ああん?」 とか言われるのかと思ってたからちょっと気が緩んだ。


「あ、あの、えと、わ、わ」


気が緩んだと言ってもまだ緊張してる。思ってることがうまく言葉にならない。


「あはは、緊張してる? 無理もないか」


あれ、思ってるより、全然優しい? よくよく考えたら幸一くんのお姉さんだから優しくないわけがないよね。


思い切って喋ってみよう。大丈夫。相手は幸一くんのお姉さん。大丈夫。大丈夫。きっと優しい人。いざとなったら壁を挟んだ先に幸一くんもいる。大丈夫。


「あ、と、佐和田りえ、です」


言えた! よかった。「あー佐和田さんか、弟がお世話になってます」 お姉さんもとっても良い人。なんかちょっと、喋れるような気がしてきた。


「私井上みづき、歳は離れてるけどあいつの姉ちゃんだよ、そんなに緊張しなくて大丈夫。私、優しいから」


自分で優しいという人はだいたい優しくない。今まで私の中の小さな世界で培ってきたひとつの法則。そういう人たちは自分の優しいと思ってる部分を相手に押し付けて自己満足に浸りたいだけ。


一気に緩めていた気持ちを引き締める。この人はまだ信頼できない。


「佐和田さん、あいつの彼女?」

「かっ」


私が幸一くんの? 全然想像できない。そもそも私と幸一くんじゃ、住む世界が違いすぎる。


「ち、違います。幸一くんとは、ただの、友達で」


友達で? なんだろ、仲良くしてもらってます? なんかどの言葉を選んでも自分の言葉じゃない気がする。


「友達で・・・・よく遊んでもらってます」


「ふーん」 相槌の打ち方が幸一くんそっくり。やっぱり姉弟なんだなあ。ちょっと羨ましいや。


幸一くんに似ていると思うとさっきは上手く見れなかったお姉さんをじっくり観察できた。


ショートヘアーがよく似合うやや褐色の肌。半袖短パンの先から出てる腕や足は手入れされてるのかすごく綺麗。胸は・・・・・・私の方がありそう。


「最近幸一が珍しく出歩くなあと思ったらこんな可愛い子捕まえてたなんてね、佐和田さんあいつと仲良くしてやってよ」


可愛い? 私が? 私はいったいお姉さんの目にどう映ってるんだろう? もし普通の女の子に見えてるのなら・・・・。それはそれで嬉しいけど。


「い、いえ、こちら、こそ」


「でも」 お姉さんの視線が私の体に移る。それは一瞬だったかもしれないけど、私の全部を見透かされたような、そんな不思議な視線だった。


「少し優しくされたからって簡単に心を開いちゃダメだよ、特にあなたみたいな女の子はね、その上であいつと仲良くしてくれてるんならありがとう。あいつが最近明るくなったのは佐和田さんのおかげかもね」


たった今言われたことと矛盾しているけれど、それを聞いた瞬間確信した。この人は信頼できる、と。

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