第50話


「……」


「……」


 二人の間に沈黙が訪れる。

 泉は、別に買う気は無かったが、自販機で飲み物を選びお金を入れ始める。

 何か言わなければと頭をフル回転させ、一枚一枚自販機にお金を入れて行く。


「い、泉君も……飲み物買いに来たの?」


「う、うん……の、喉渇いちゃって……」


 先に口を開いたのは由美華だった。

 由美華は無理にいつも通りに振る舞おうとしており、少し様子もおかしい。

 対する泉も鹿公園ではあぁ言ったが、昨日の今日でいまだに立ち直れていないため、話し方がぎこちない。

「わ、私達って、良く自販機で会うわね!」


「そ、そうだね!」


 無理にテンションをあげて話そうとする二人だが、変に上げたテンションが長く続くはずも無く、会話は直ぐに終了する。


「あ、あのさ……」


「な、なに?」


 泉は自販機のボタンを押し、由美華の方を振り向かずに話す。

 

「もう……お互いに昨日の告白の事は……無かったことにしようよ……」


「え……それってどう言う……」


「うん……だって……その方がお互い気が楽だし……それに……告白する前の……友達だった時の方がお互いに良いだろ?」


 泉はそう言って由美華の方に振り向く。

 その時の泉の表情は、寂しげな笑顔だった。

 泉はそう言って由美華の前を去り、由美華はそんな泉の表情が頭から離れなかった。


「……泉君」


 泉へからの思いを自分が踏みにじってしまった。

 由美華はそんな事を考えながら、一人自販機の前に座る。

 修学旅行の間、このベンチには必ず泉と座っていた。 しかし、最後の夜は一人だけ。

 

「なんだか……寂しい」


 由美華はそんな事を考えながら、買った飲み物を飲み始める。





『お兄ちゃん大好きだよ』


「うへへ~、俺も大好きだよ~」


「おい高志」


「何?」


「あの気持ちの悪い生き物はなんだ?」


「繁村という生き物だ」


 高志達の部屋では、繁村がスマホの画面を片手に恋愛趣味レーションゲームをしていた。

 

「うへへぇ~可愛いなぁ~」


「おい、繁村どうしたんだ?」


「馬鹿が更に馬鹿になったぞ」


 薄気味悪く笑う繁村を見ながら、高志と優一は部屋の隅でコソコソ話していた。

 そんな時、外に出ていた土井が帰ってきた。


「ただいまぁ~……ってどうしたの?」


「土井! 繁村をどうにかしてくれ! さっきから一人でスマホにブツブツ何か言ってんだ!」


「寝るときまであんなだったら不気味で仕方ねーしな」


「あぁ……まぁ、原因は何となくわかるけどね」


「「わかるのか!?」」


「ほとんどお前らだよ……」


 土井は呆れた表情で高志と優一にそう言うと、繁村の元に行く。


「繁村」


「なんだ土井? 俺は今、妹と俺の間に出来た子供にタワーマンションをせがまれているんだ」


「お前は一人っ子だろ……どんな内容のゲームしてるんだよ……」


 土井はそう言って、繁村からスマホを取り上げる。 

「あ! コラ! 何しやがる!」


「修学旅行に来てまでゲームなんてするなよ」


「う、うるせぇ! 俺だってなぁ……本当は……」


「はいはい、いくらでも愚痴には付き合うから」


 土井と繁村はそのまま何かを話し始めた。

 高志と優一は、そんな二人の様子を見ながら布団の上に座り話しを再開する。


「あ、そうだ……高志」


「ん?」


 少しして土井が何かに気がつき高志に声を掛けてきた。


「なんだよ」


「いや、これを渡して欲しいって頼まれて……」


 そう言って土井が差し出して来たのは、一枚のメモ紙だった。

 折りたたまれており、中に何か書いてある様子だった。


「なんだこれ? 誰からだ?」


「知らない奴だったな……残念ながら女子ではない」


「知ってるよ、何が書いてあるんだろ?」


 高志はそんな事を話しながら、メモ紙を開く。

 するとそこにはこう書かれていた。


【旅館・中庭・21時半】

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