第15話

「しっかし、なんであんな廃工場にあんな可愛い子が居たんだろうな?」


「さぁな、だけど確かに可愛かったなぁ~、あんなところで何してるんだろうな?」


 大学生くらいの男二人組がそんな事を呟きながら歩いて行く。

 赤西はその話しを聞き、何となく気になり、歩く方向を工場の方に変更する。


「いや、別に可愛い子がいるからとかそういうんじゃないから………俺は誰に言い訳してるんだ?」


 自分で自分にツッコミをいれながら、赤西は廃工場の方に向かう。





「はぁ……はぁ……」


 朋香は工場内を逃げ回っていた。

 敷地内の広い工場の中では、そう簡単に見つかりはしないのだが、見つかるのは時間の問題だった。

 

「誰かに連絡を……」


 そう思は思っても一体誰に助けを求めれば良いのかわからなかった。

 スマホを片手に朋香は連絡先の一覧を見ながら誰に連絡すれば良いかを考える。

 そんな時、朋香の目に映ったのは赤西の名前だった。


「……なんで私……あの馬鹿のために……」


 朋香はそうつぶやきスマホを閉じた。

 こんな危ない事に友人を巻き込めないと感じた朋香は一人でなんとかしようと考え始めた。 朋香は今、工場内の元々事務所だったであろう場所のロッカーに隠れていた。

 朋香は声を殺し、息を潜ませてロッカー無いから、どうやって人目のある通りに逃げるかを考える。

 外からは、朋香を探す男達の声が聞こえて来る。

 どうしようか考えていると、突然部屋のドアが開く音が聞こえた。

 男達が中に入ってきたのである。


「お嬢ちゃ~ん、どこに行ったのかなぁ~?」


「俺らと遊ぼうよ~」


 朋香の心臓は破裂するのではないかと言うほどに、バクバクと動いていた。

 このままでは捕まってしまう。

 そう思った朋香はなんとかしなければと焦っていた。

 ロッカーの隙間から男達の姿を確認し、朋香は恐怖を感じる。

 逃げなければ!

 焦ってそう考えてしまった朋香は、ロッカーから飛び出しそのまま外に走る。


「あ! 居たぞ!!」


「追いかけろ!!」


 朋香は再び工場内を逃げ回る。

 しかし、朋香の体力も限界が近かった。

 そのため直ぐに追いつかれてしまう。

 もうダメだと思ったその時……。


「アダッ!」


「あうっ!」


 曲がり角を曲がろうとした瞬間、朋香は誰かにぶつかってしまった。

 この工場に居るのは、朋香の他は男達と美癒だけ。

 諦めに似た感情で朋香はぶつかった相手を見る。

 そこには、朋香が今一番会いたかった男が尻餅をついていた。


「イテテ……おい! 気を付けろよな! 西城!!」


「あ、アンタ……なんでここに……」


「たまたま通り掛かっただけなんだが……なんだか取り込み中みたいだな……」


 赤西はそういうと、朋香を庇うように前に立つ。

 

「なんだよ、厄介な男にでも引っかかったか? そんな派手な格好してるからだバーカ」


「う、うるさいわね!」


「あの、何があったか分かりませんが……こいつはやめた方が良いですよ? 病気をもらっちゃいま……ぎゃん!」


「そんなの有るわけないでしょ!!」


 赤西の言葉に朋香は思わず蹴りを入れる。

 赤西は前のめりに倒れ、眉間にシワを寄せながら朋香に言い返す。


「いてぇんだよ!! 助けてやろうってのにそんな態度があるか!」


「助けるにしてもやり方があるでしょ! この馬鹿!!」


「お前も馬鹿だろ!! こんな大勢の男に襲われるなんて一体……」


 そう言いかけて、赤西は男達の後ろにいる美癒に気がつく。


「えっと……なんで美癒ちゃんが?」


 動揺する赤西、そんな赤西に美癒は可愛げたっぷりに言う。


「その子がねぇ~いきなり美癒に突っかかってきてさぁ~、お兄ちゃん達に助けて貰ってたところなんだぁ~」


「そ、そうなんだ……はぁ……」


 赤西はため息を吐き、そして乾いた笑い声を上げる。

 

「ハハハ……俺はさ……高志みたいに鈍感じゃねーから……何となくわかったよ……」


 どの口がそれを言うのかと思いながら、朋香は赤西の言葉を聞いていた。


「あぁ……信じたく無かったけど……あいつらの言ってた事って、本当だったのか……」


 赤西はそう言って美癒を睨み付ける。

 

「えぇー何その視線~、まさか彼女を疑うのぉ~?」


「西城はなぁ……理由無く人を疑ったりしないんだよ……それに……ダチを信じないなんて……本当に恋ってやつは周りを見えなくするな……」


「なに言ってるのぉ? あぁ~あ、折角付き合ってあげてたのにぃ~」


「うるせぇ!! この性格ドブス!!」


「ど、ドブス!? わ、私が!?」


「あぁそうだよ! てめぇ見たいな奴はこっちから願い下げだ!!」


 唇をひくひくさせながら美癒は額に血管を浮かべる。

 

「お、お兄ちゃん……」


「わかってるって、言われなくてもなぁ!」


 美癒が兄にそう言うと、男達は一斉に赤西に飛びかかる。


「こっちだ!」


「う、うん!」


 赤西は朋香の手を引いて、工場内を逃げ始める。

 正面から向かって行ってもダメだと感じた赤西は朋香を連れて工場内からの脱出を計る。

 しかし、直ぐに周り込まれてしまい、赤西達は囲まれてしまった。


「おいおい……勘弁して下さいよ、年下虐めて楽しいですか?」


「悪いなぁ~、こっちも妹からの頼みだからな!」


「仕方ない……俺も本気を出す時が来たようだ……フン!」


 赤西は殴りかかってくる男達に立ち向かって行く。

 朋香もそんな赤西の男らしい態度に一瞬ドキッとする。

 しかし……。


「あひんっ!!」


「な、なんだこいつ……」


「クソ……弱い……」


「………期待した私が馬鹿だった………」


 まさかの一発KOで赤西は地面に倒れ込む。


「アンタ……本気出すんじゃなかったの……」


「う、うるせぇ……俺は漫画の主人公じゃねーんだ……喧嘩が強いわけねーだろ……」


 ボロボロになり、地面に顔を付けながら赤西はそういう。

 そんな赤西を放って、男達は朋香を捕まえる。


「ちょ、ちょっと! 離してよ!」


「まぁ、男の方はもう動けないだろうし……後はこの子に楽しませてもらうか……」


「や、やめてよ……へ、変態!!」


 男の手が朋香の元に伸びて行く。

 男達はいやらしい笑みを浮かべ、そんな視線に朋香は恐怖を感じる。

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