第8話



「はぁ……最悪」


 朋香は家に帰ってベッドに横になっていた。

 ただでさえ、しつこく交際を申し込まれ不機嫌だったのによりにもよって、赤西から助けられてしまった。


「ムカつく……」


 しかもあの助け方は正直気にくわない。

 下手をしたら、自分の悪評が広まってしまうと考えながら、朋香はスマホを取り出し友人にSNSで愚痴を溢す。


「……昔か……」


 友人達からの返信を見ながら朋香はそんな事を呟く。

 朋香は立ち上がり、机の引き出しにしまった一枚の写真を取り出す。


「………馬鹿」


 写真には小学生の時の朋香と赤西が写っていた。

 二人とも楽しそうに笑っており、今の関係からは想像も出来ない写真だった。





「ふあ~あ、眠いなぁ……」


 赤西は鞄を持って学校に向かっていた。

 昨日は夜遅くまでゲームをしていたせいか、いつも以上に眠気が強く、赤西は大きな欠伸をしていた。


「よーっす赤西」


「おぉ、繁村か。おはようさん」


 学校に向かう道すがら、赤西は繁村とバッタリ会った。

 繁村も眠そうな顔で、背中を丸めて登校している。


「来週はクラスマッチだな」


「あぁ、そのときに絶対活躍して彼女を!!」


「だな!」


 そんな話しをしながら、赤西と繁村は闘志を燃やす。

 昇降口に到着し、どうやったら活躍しているところを女子にアピール出来るかを話していると、内履きを取ろうとした赤西の下駄箱から、小さな手紙がひらりと落ちた。


「ん? なんだこれ? ……はっ! も、もしかして!! これってラブ……」


「不幸の手紙だろ?」


「なんでそうなるんだよ! ラブレターかもしれないだろ!」


「いや、不幸の手紙か果たし状だろ? お前にラブレターなんて届いてたら、俺は失神しちまう」


「う……た、確かに否定出来ない……」


 今までの人生を考えると、赤西は否定出来なかった。

 赤西は恐る恐る手紙を拾い上げ、封を開けて中身を見る。

 繁村も横からニヤニヤしながらのぞき込む。


「えっと……『初めまして赤西先輩。突然のお手紙でごめんなさい、よろしければ放課後、屋上に来て下さい、伝えたいことがあります』」


「は……ははーん……これは屋上でリンチにするって事だぜ? お、俺は騙されねーぞ!」


「いや、どう考えてもラブレターだろ!? とうとう俺にも春が……」


 手紙を握りしめて涙をにじませる赤西。

 繁村は顔を歪ませながら、信じられないと言った様子で赤西の手紙を読み返す。


「お、俺は信じない! 信じないからな!!」


 赤西がラブレターを貰ったという噂は瞬く間にクラス中に知れ渡った。

 

「大変だぁぁぁぁぁ!!」


「え!? 赤西が!?」


「そんな馬鹿な!!」


「情報は確かなのか!?」


 クラスの男子はその事実に驚愕し、同時にこんな考えも出始めた。


「誰かのイタズラなんじゃないか?」


「あぁ~それだわ」


「可愛そうに……舞い上がっちまって」


「まぁ、あの赤西がラブレターなんてあるわけないか!」


 赤西のラブレターが偽物説が浮上し、クラスの男子はそこまで事を大事にはしなかった。

 その話は当然朋香にも入ってきた。


「え? あの馬鹿にラブレター?」


「らしいよ? でも、男子は絶対に誰かのイタズラだって言ってるけど」


「ふーん……まぁ、そうなんじゃない? あいつモテそうにないし」


「だよねぇー。でもさ、赤西の事を知らない他のクラスの女子とかならもしかして……」


「無いわよ、あの赤西よ?」


「まぁ、それもそうね」


「赤西だし」


 朋香も他のクラスメイト同様に、誰かの噂だと思っていた。

 しかし本人は……。


「フフ……フフフ……」


「おい、高志」


「なんだ優一?」


「あの気持ち悪いの……赤西か?」


「そうみたいだな……」


 当の本人である赤西は浮かれまくっていた。

 顔をニヤニヤさせながら、何かを考えている様子だった。


「ラブレター……赤西にねぇ~」


「まぁ、内容は呼び出しなんだろ? まだラブレターだと決まったわけじゃ……」


「そういうお前は、宮岡に呼び出されて告られたんだろ?」


「いや、まぁそうだけどよ……」


 高志と優一が話しをしていると、泉がやってきて話しに入ってきた。


「なんで、赤西君がラブレターを貰うとこんなに大騒ぎなるの?」


 泉はまだ転校してきたばっかりで、赤西の事をよく知らない。

 その為、なぜこんなにも騒ぎになっているのか泉は不思議だった。


「あぁ、赤西はな………」


 高志は赤西の事を泉に説明する。

 赤西は以前から彼女が欲しくて欲しくてたまらなかったのだが、毎回彼女持ちの男やカップルを嫉んできた事から、女子にあまり人気が無く、さっぱりモテ無い。

 だから今回の事がこれだけの騒ぎになっているのだ。


「……っと言うわけでな……赤西に限らずだが、うちのクラスはそういう奴らばっかりだから、前提としてこのクラスの男子はモテない」


「ふーん。でも八重君も那須君も彼女いるよね?」


「あぁ、だから俺たちはこのクラス男達からは、常に命を狙われている」


「そんなクラス嫌じゃない?」


 泉は苦笑いをしながら高志と優一に尋ねるが、高志も優一もそんな生活に慣れてしまっていた。


「ち、ちなみにさ……八重君の彼女の宮岡さんって……」


「紗弥に何かようか?」


「おい高志、顔が怖いぞ。泉が怯えてるだろ」


「え? あぁ……ごめんごめん」


「まったくお前は……で、宮岡がどうかしたのか?」


 紗弥の名前をだし出しただけで、表情を一変させた高志に泉は若干怯えながら、続きを話す。


「あ、いや……聞きたかったのは宮岡さんの友達の御門さんの事なんだけど……」


「え? 御門?」


「なんで御門の事なんか聞くんだよ?」


「そ、それは……なんて言うか……」


「ん? お前もしかして……」


 泉の気持ちに気がついたのは優一だった。

 しかし、優一はそんな泉を気の毒そうに見つめ、一言言葉を掛ける。


「あいつはやめといた方がいいぞ?」


「え! な、なんでそんな事を?」


「いや……なぁ、高志?」


「え? なんの話し?」


「あぁ、お前はもう良い。お前はこういうのは鈍感だもんな……」


 優一はため息を吐き、泉にだけこっそりと耳打ちをする。

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