第17話
「……あぁ、悪い」
「全く、お前は……」
高志はやれやれと言った表情で優一にそう言うと、軽く背中を叩いて赤西達の元に向かうように促す。
優一は握った拳を下ろし、いつもの様子に戻り赤西達の元に向かって歩き始める。
赤西は気を失っており壁にもたれ掛かっていた。
朋香はそんな赤西の手を握り、繁村はそんな二人の邪魔をしまいと少し離れて、チラチラ二人の様子を見ていた。
「赤西は?」
「かなりボロボロだな……あの馬鹿、柄にもなく格好つけるから……」
「そうだな……まずは病院だが……なんて説明するよ? 下手したら俺らも巻き添え食って停学だぞ?」
優一は乱れた髪を直しながら、繁村と高志に相談する。
「転んで怪我した……で通すしかねーだろ?」
「通るわけねーだろ……優一、お前って本当に腕っ節だけだな……」
「う、うるせぇな!」
高志はため息を吐きながら、優一にそう言う。
優一は赤西に寄り添う朋香を見ながら、ため息を一つ吐いて朋香に言う。
「はぁ……赤西もアホだな……近くに自分を好きで居てくれる奴がいるのに……気がつかねぇんだから……」
「は、はぁ!? わ、わわ私が、なんでこんな馬鹿を!!」
「誰も西城とは言って無いが?」
「うっ……うるさいわね!! バーカ!」
「はぁ、これだから鈍感な奴は……」
「優一はもっと芹那ちゃんを大事にしろー」
「高志……うるせぇぞ……」
「いまだに名前で呼んで上げてないし、手も握ってないくせに……」
「まだ付き合って一ヶ月も経ってないんだぞ! そんなもんだろ! お前らがイチャつきすぎなんだよ!!」
高志と優一が互いの恋愛事情に関して文句を言い合っいる間、繁村はどんよりとした雰囲気で西城と赤西を眺めていた。
「はぁ……結局なんか赤西も西城と良い感じだし……なんか置いてかれた気分だぜ……」
「な、なんで私とこいつが良い感じなのよ!!」
「あぁ、そう言うの良いから……はぁ……俺も彼女欲しい……」
「だから! 違うって言ってるでしょぉぉ!!」
朋香の声が工場中に響き渡る。
その後、高志は紗弥を呼び出し朋香を預け、赤西を病院に連れて行った。
朋香も付いてこようとしたのだが、そろそろ日が暮れるということと、色々あって疲れているだろうという理由で家に帰るように説得した。
紗弥に家まで送って行ってもらい、後で高志が紗弥を迎えに行くという段取りになり、紗弥は現在、朋香と共に薄暗くなった道を歩いていた。
「紗弥と八重はいつも仲良しね……」
「そうね……高志は優しいし……格好いいから」
「惚気ちゃって……良いわね……私も紗弥みたいにあいつに素直だったら……」
「あいつって、赤西君の事?」
「………うん。あの馬鹿、弱いくせに……私ために……」
「ウフフ……朋香嬉しかったんだ」
「な! わ、私はただ……あいつを心配してっていうか……」
「ふーん、そうなんだぁ~」
「な、何よ! 私は別に……あいつの事なんて……」
「少しくらい、素直になったら? そうしないと、赤西君も気づいてくれないよ?」
「だ、だから……私はただ……」
朋香は顔を赤くしながら、紗弥に言い返そうとする。
そんな朋香に紗弥は優しく言葉を掛ける。
「自分の気持ちって、こう言う大きな事があった後は伝えやすいって言うよ? だから……今までの気持ちをぶつけてみたら?」
「今までの……気持ち……」
「うん……伝えられなくなったら、悲しいよ……」
「………」
朋香は無言で紗弥に言われた事を考える。
*
紗弥が朋香を送っている頃、高志達は病院にいた。
医者からは何があったのかしつこく聞かれ、高志達はなんとか医者をごまかし。
赤西も病院のベッドで目を覚ましていた。
「う~……痛てぇ~……」
「随分ぼこぼこにやられてたもんなぁ……」
「全治一ヶ月か……クラスマッチは無理だな」
「あぁ……悪いな……迷惑掛けた」
高志と優一に言われ、赤西は今日の出来事について謝罪する。
そんな赤西に繁村が声を上げる。
「全くだ、あれだけ注意してやったのに……」
「悪い……」
「まぁ、気持ちはわかれるけどよ……」
ため息を吐く繁村。
医者の話では三日ほど赤西は入院が必要との事だった。
「本当に悪かったな……」
「その言葉、西城にも言ってやれよ、あいつが一番心配してたんだからよ」
「あぁ……そうだな……」
「まぁ、とにかく安静にしてろ、もうすぐで赤西の家族も来るだろうし、俺らは帰るぞ?」
「そうだな、じゃあな赤西」
高志達は赤西にそう言って病室を後にした。
*
翌日、赤西は怪我をして少しの間入院する事がホームルームで伝えられた。
美癒も大人しくなり、無事に今回の事件は解決した。
しかし、これからが戦いの始まりである人物が一人いた。
朋香は病室の前で花束を持ってうろうろしていた。
「う……入って何を話せば良いのよぉ~」
扉の前で悩んでいると、突然扉が開き赤西が姿を現した。
腕にギブスを付けていたが、顔色は良く、元気そうな様子だった。
「ん? 西城……」
「あ……えっと……あの……こ、これ!」
「ぶふっ……」
朋香は持っていた花を咄嗟に前に突きだし、赤西の顔面に華を押しつけてしまった。
「あ……ごめん」
「いや……良いよ。入れよ、お見舞い来てくれたんだろ?」
「……うん」
赤西は西城を病室に入れ、椅子を出してそこに座るように言い、自分はベッドの上に座った。
「お前にも色々と迷惑を掛けたな……」
「べ、別に気にしてないし………それにあれは私が勝ってにやったことで……」
いつもと違う互いの雰囲気に赤西も朋香も戸惑い、言葉が続かない。
そんな空気に気がついた赤西は、笑いながらいつもの調子で話し始める。
「いやぁ~、参った参った! あんなに可愛いのにさぁ~、性格はドブスだったなんてなぁ~……やっぱり人って見た目じゃないわなぁ~」
「………」
「ま! これも良い経験になったし、また新しい恋にだな……」
「無理……してるでしょ?」
いつも通りに話す赤西だったが、朋香にはわかっていた。
赤西が無理をしているということが……。
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