第47話



 高志達は鹿公園を後にし、現在は春日荷茶屋でぜんざいを食べていた。

 

「はい、高志あーん」


「あーん」


「美味しい?」


「美味しいよ」


 最早周囲の目などまったく気にならない様子の高志と紗弥。

 由美華と泉は相変わらずな二人の様子に最早何も言わず、話しをしながらぜんざいを食べていた。

 優一は電話をしに店の外に行っていた。


「優一の奴、電話って誰にだろうな?」


「そんなの芹那ちゃんでしょ?」


「あいつが? 俺は違うと思うけどな……」


「そうかな? 意外と那須君は彼女大事にしそうな感じあるけど」


 そんな紗弥の予想通り、優一は芹那に電話を掛けていた。


「もしもし」


『せんぱぁ~い』


「……なんだよ」


『寂しくて死んじゃいますぅ~早く帰って来てぇ~』


「あのなぁ……明日の夕方には帰るって言っただろ」


『でも! でも、でも! 早く先輩にもう一回ぎゅーってして欲しいんです!』


「やるとは言ってないからな」


『なんでですか!? 彼女のお願いですよ!』


「知らん」


『ぶぅー! 先輩の意地悪!』


「何とでも言えよ……今は昼休みか?」


『はい! 優一さんはお昼は何食べました?』


「ぜんざい。結構美味かったぞ」


『今日は奈良でしたっけ? 鹿公園には行きましたか?』


「あぁ、後で写真送ってやるよ、それじゃあ切るぞ」


『あ! 待って下さい!』


「ん? どうした?」


『あ、あの……えっと……明日の夜……また優一さんの家に行っても良いですか?』


「はぁ? 勘弁してくれよ……」


『お願いしますぅ! 行く前の日みたいに一緒に寝たいです!』


「あ、あの日は特別だ! それに、明日はお袋が家に居るんだよ!」


『じゃあ、ご挨拶しなきゃですね!』


「アホか!! とにかく明日はダメだ! じゃあな!」


 優一はそう言って、電話を切った。

 ため息を吐き、芹那に先ほど送ると言った写真を送信して店の中に戻って行く。


「はぁ……」


「ん? どうした優一?」


「いや……なんでもねぇよ」


 帰って来た優一はそう言って自分の席に座る。

 優一も来たところで、高志達は次に行く場所の確認を始めた。





 高志達は修学旅行四日目の予定を終えて、宿に戻ってきていた。


「あぁー疲れたぁ~」


「風呂行こうぜ~」


 部屋に戻った高志達は荷物を置いて、晩飯の前に風呂に入りに行く話しを始める。

 

「なぁ、土井……」


「ん? なんだよ優一」


「繁村が鬼の形相なんだが……」


 優一の言うとおり、繁村鬼のような形相で赤西を見ていた。

 対する赤西は、なぜか真っ赤な顔でスマホを弄っていた。


「おい、あの二人に一体何があったんだ?」


「あぁ……まぁ、勝ち組と負け組の差だな……」


「はぁ?」


「良いから、風呂に行こう……ほら繁村も!」


「ウゥ……アカニシ……コロス……」


「はいはい、わかったわかった」


「なんか化け物みたいになってるぞ……」






「ね、ねぇ……紗弥……」


「どうしたの? 朋香?」


 入浴中の紗弥に話し掛けてきたのは、頬を赤くさせた朋香だった。

 紗弥の隣に座り、恥ずかしそうに話し始める。


「あ、あのさ……か、彼氏っていうか……その……男子って……何をしてあげたら喜ぶのかしら?」


「え? うーん……高志が喜ぶことなら……」


「な、なに?」


「私がぎゅーってすると、高志は凄く喜ぶわよ」


「ぎゅ、ぎゅーって……その……ハグ的な?」


「他に何があるのよ」


「首じゃなくて?」


「殺すつもり?」


 様子のおかしい朋香に気がつく紗弥。

 紗弥は小さな声で朋香に尋ねる。


「赤西君と何かあったの?」


「う、うん……まぁ……その……なんて言うか……」


「うん」


「わ、私……あいつに助けられてばっかで……なんか何もしてあげられてないから……な、何かして上げたいっていうか……」


「朋香って結構可愛いとこあるんだね」


「どういう意味よ!」


 顔を真っ赤にしながらそんな事を言われては、なんとか協力したい紗弥。


「それならさ……」


「何?」


「ちゅーでもすれば? 絶対喜ぶよ」


「ば、バッカじゃないの!! そ、そういうのは、もっと先の事でしょ! さ、紗弥と八重とは違うのよ!


「でも、男子は凄く喜ぶわよ? 好きな女の子からのちゅー」


「は、ハードルが高すぎるわよ! もっとハードルを下げて!」


「じゃあ、おっぱいでも揉ませてあげたら?」


「雑!? 今度は急にアドバイスが雑!」


「でも、多分喜ぶよ?」


「ま、まさか……紗弥は……」


「でも、私も揉んでもらったこと無いからなぁ……」


「そ、そうよね……な、なんか安心したわ……」


 中々良い案が出ないで二人で悩んでいると、ふと隣の男湯の方から声が聞こえてきた。


『赤西! なんで邪魔をするんだ!』


『俺たちの夢を! お前だってこの前は協力してたじゃないか!』


『そこをどけ! 腕以外にもやられたいか!』


 どうやら、この前同様に覗きをしようと、男子達が色々頑張っているらしい。

 今日は修学旅行での最後の夜。

 これを逃したら、もうチャンスは無いと思ったのだろう、男子も必死だ。


「まったく! 男子ってバカなんだから!」


「こんな高い壁があるのにねぇ……」


「バカなのよ」


 女子は男湯と女湯を隔てている、大きな壁に安心してあまり気にはしていない。

 しかし、声は聞こえてくる。


『赤西! お前そう言えば西城と付き合ったって言ってたな!』


『な、なんだとぉ!?』


『くそぉ! 時間の問題だとは思っていたが……こんな不細工に……』


『う、うるせぇ! 良いだろ別に! あいつがどうしてもって言うから……仕方なくだな……』


 そう言った赤西の声は女湯にも届いており、朋香は顔を真っ赤にする。


「おやおや朋香さ~ん、旦那様が何かいってますよぉ~」


「実際はどうなんでちゅかぁ~?」


「う、うるさいわね!」


 女湯では、男子達の話しを聞いた女子達が朋香を弄り始めていた。

 もうこれ以上変な事を言って欲しくない朋香だったが、赤西の声は止まらない。


『だ、大体なぁ! 覗きは立派な犯罪なんだぞ! それに! あいつの裸なんて見ても面白くねーから!』


『黙れ! この裏切り者が!!』


『自分はいつでも見放題だからってぇ~』


『だ、誰が見放題だ!』


『彼氏なんだらか見放題だろ! 興味が無いとは言わせないぞ!』


『そうだ! そうだ! お前だって早く西城の裸が見たいだろ?』


『さ、西城の……裸?』


『お、動揺したな』


『このまま説得するんだ!』

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