第25話



 修学旅行当日、高志達は朝早くから駅前に集合していた。

 新幹線で京都まで行き、その後バスでホテルに移動する流れなのだが、早朝のなのにも関わらず、みんなテンションが高い。

 その理由は簡単で、今日が修学旅行だからだ。


「おはよう」


「やあ、おはよう高志」


「ん……うぃーっす……」


 高志は紗弥と共にクラスメイトが固まっている場所に向かい、泉と優一に挨拶を交わす。

 いつもながらのさわやかな笑顔を浮かべる泉に対して、優一はなんだか眠たそうだった。


「眠そうだな優一」


「ん? あぁ……まぁな」


 目を擦り、何度も欠伸を繰り返す優一。

 昨日は楽しみで眠れなかったのだろうか?

 などと高志が思っていると、由美華もやってきた。


「おはー! いやぁ~、朝の六時はキツいよねぇ~」


「おう、おはよう」


「由美華、おはよ」


「紗弥ぁ~おはよう!」


 由美華は紗弥を見つけると、直ぐに側に寄ってきて、紗弥に抱きつく。

 普通なら女子同士のじゃれ合いなのだが、由美華が紗弥にやると、高志は不安で仕方なかった。


「お、おはよう……御門さん」


「あ、泉君もおはよう!」


 泉は顔を少し赤くしながら、由美華に挨拶を交わす。

 高志はそんな泉を見て、なんで頬が赤いのか気になったが、あまり深くは考え無かった。

 周りは修学旅行当日とあって、いつも以上に盛り上がっていた。

 中でもより一層盛り上がっていたのは、繁村と赤西を始めとする高志達のクラスだった。


「いいか、修学旅行は女子と自然に会話が出来る!」


「しかも、いつもは見ることが出来ない女子の姿も!!」


「このチャンスを逃す訳には行かない!」


「そうだ! これを機会にみんなでかの……イデデデデデ!!!」


「朝っぱらから何馬鹿やってるのよ……」


 赤西がクラスの男達を集めて、何やら話しをしているところに朋華がやってきた。

 朋華は赤西の耳を引っ張り、話しを中断させて自分の方を向かせる。


「何すんだよ!」


「アンタ怪我人でしょ!? あんまり馬鹿な事やってないで……その……わ、私の側に居なさいよ……心配でしょうが……」


「え? なんでお前なんかの側に?」


「…………フン!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 痛い! 足が痛い!!」


 朋華は赤西の足を思い切り踏む。

 赤西はその場にうずくまる。

 朋華はそんな赤西を放って、友達のところに戻ってしまう。

 

「おーい、お前らさっさと集まれ~」


 そんな高志達を石崎は声を掛けて一カ所に集める。

 出欠を取り、校長の話しや学年主任の話を経て、高志達は電車の中に乗り込んでいく。

 高志は紗弥と隣同士で座った、通路を挟んだ隣の席には由美華が座り、泉と優一は高志と紗弥の前の席に座った。


「楽しみだね京都」


「そうね、清水寺とか金閣寺とか、楽しみだよね」


 高志と紗弥はパンフレットを見ながら、楽しそうに話しをする。

 男子はそんな高志の姿をいつもの三割増しで嫉み、女子は紗弥と高志を羨ましそうに見ていた。


「おのれぇ~リア充が!」


「爆発しろ!!」


「いいなぁ……彼女持ち」


「私も彼氏とイチャイチャしたーい」


 優一は眠気があったのか、電車に乗って直ぐに寝てしまい、泉は音楽を聴きながら本を読み、由美華は他の女友達と話しをしていた。


「ねぇ高志」


「ん? どうした?」


「少し眠いから、高志の肩に頭乗っけて寝ても良い?」


「うん、いいよ。朝早かったもんね」


「ありがとう、じゃあお休み……」


 紗弥は高志の肩に頭を乗せ、イヤホンを耳に付けて目を閉じる。

 高志はそんな紗弥を見ながら頬を緩ませ、高志は外の景色を楽しんでいた。

 そんな高志にクラスの女子生徒は興味津々に尋ねてきた。


「ねぇねぇ八重君!」


「ん? えっと、何?」


「紗弥と付き合って、もう四ヶ月以上だよね?」


「えっと……そうだけど、それが?」


「「「どこまでいったの!?」」」


「は、はい?」


 高志は一体何を聞かれているのか、一瞬わからなかったが、直ぐに理解した。

 

「ど、どこまでって……いや、それは……」


「良いじゃん! 良いじゃん!」


「教えてよぉ~」


「紗弥って全然、そういうの言わないんだもん」


 たまに高志は、こういうことを聞かれる事はあった。

 修学旅行と言う雰囲気だからか、いつも以上に女子生徒はしつこく聞いてきた。

 そんなクラスメイトの女子達に、高志はなんと返答したら良いかを考える。


「ひ、秘密って事じゃダメかな?」


「折角の修学旅行じゃな~い」


「毎日のように学校でイチャつかれてるこっちの身にもなってよ~」


「率直に言うと、気になって仕方ないのよ! だって、あの紗弥よ! あのクールビューティーなんて言われてた紗弥がよ! 八重君にだけはベタベタじゃない!」


 そんな事を言われても、高志だってあまり話したくはない、恥ずかしい。


「そ、そう言うのは夜に旅館で紗弥に聞いてくれないかな? お、俺からはなんとも……」


「「「えぇ~~~~~!!」」」


 なんで女子はこんなにも恋バナが好きなのだろうか?

 なんてことを考えながら、高志は横で眠る紗弥の方を見る。





「なぁ……」


「なによ?」


「なんで、俺は西城の隣に座ってるんだ?」


「アンタが腕を折ったからよ」


「いや、だからなんで俺が腕を折ってると、お前がいつも以上に付きまとってくるんだよ!」


「その腕じゃ不便でしょ……それに……私のせいじゃん……」


 赤西と西城は隣通しで新幹線の座席に座っていた。

 西城は赤西の腕を自分のせいだと責任を感じており、赤西の左腕の代わりになろうと、最近は赤西の隣に居ることが多かった。


「お前のせいじゃねーよ……俺が馬鹿だったからだっての」


「でも……」


「そんな顔すんなよ、いつも通りワーキャー騒いでおけ」


「どう言う意味よそれ!」


「おぉ! それだよれ! やっぱりお前はそうでなく……いっでぇぇぇぇ!!」


「うるさいのよ!!」


 赤西の言葉が気に障り、朋華は赤西の足を踏みつける。

 周りはそんな二人の姿を見て「あぁ、いつも通りだな」と、思わず和んでしまう。

 当の本人達はそんな事は知らず、喧嘩を続ける。

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