第2話



 繁村祐樹(しげむら ゆうき)は高志のクラスの男子生徒で野球部に所属している。

 部活も勉強もまぁまぁの成績であり、どこにでもいる普通の男子生徒なのだが、一つだけ悩みがあった。


「あぁ……彼女欲しい」


「お前はそればっかりだな」


 繁村のつぶやきに横から口を出したのは、高志のクラスの赤西健輔(あかにし けんすけ)だ。

 赤西はサッカー部の所属しており、部活終わりが一緒なので、一緒に帰宅する事が多い。 たまに卓球部の土井も加わるのだが、最近はあまりない。

 繁村と赤西はユニフォーム姿のまま、鞄を持って帰宅している。


「さっきさー、高志と宮岡が手繋いで一緒に帰ってるの見たんだよ……」


「俺も……良いよなぁー」


 繁村の言葉に、赤西はため息交じりに答える。

 二人とも彼女居ない歴が年齢と同じであり、彼女というものに憧れがあった。

 しかし、この二人……全くモテない。


「なぁ、高志にあって、俺に無いものってなに?」


「え、不細工だからじゃね?」


「赤西……それは言わない約束だろ……」


「じゃあ、エロいから?」


「そんなん男全員だろ」


「じゃあ……キモイから?」


「お前は心にぐさっとくる事を平気で言うな……」


 しょうもない話しをしながら、繁村と赤西は道を歩く。

 夏も結局恋人は出来ず、二人は寂しい夏休みを過ごした。

 しかし、クリスマス前にはなんとか彼女を……と思っている二人だが、そんな兆しも一切無い。

 しかし、二人には希望があった。

 それは二週間後にあるクラスマッチである。

 運動部の二人にとっては、これ以上ないイベントであり、得意分野を生かして女子にアピール出来る絶好の機会なのである。


「二週間後のクラスマッチ……がんばらないとな!」


「あぁ! 女子にアピールする絶好の機会だ……絶対に活躍するぞ!」


 夕焼けの傾いてきた空の下で、繁村と赤西はやる気に満ちあふれていた。

 流石は運動部、体育会系特有の根性論で気合いを入れている。

 しかし……。


「そう言えば、お前のとこの野球部は夏の大会どうだった?」


「初戦敗退! お前のサッカー部は?」


「初戦敗退!」


「「………」」


 本当にこんな自分たちが活躍出来るのか、二人は少し不安になってきた。





 放課後、教室には数名の女子生徒が残っていた。

 部活に入っている訳では無く、女子生徒はお喋りをするために、遅くまで教室に残っていた。

 その中の一人に朋香は居た。

 短いスカートに、バッチリのメイク。

 紗弥や由美華に隠れてあまり目立たないが、美少女と言って間違いのない顔立ちをしている。



「ねぇねぇ、朋香と赤西って小学校から一緒なの?」


「いきなり何よ?」


 ショートカットのクラスメイトに尋ねられ、朋香は不思議そうな表情で尋ねる。


「いや、なんか仲良いし。本当は付き合ってるのかなって」


「はぁ? なんで私があんな男と……」


「いや、喧嘩するほど仲が良いっていうし」


「そんなわけ無いでしょ、変な誤解しないでよ」


 呆れた表情でそう言う朋香。

 朋香と赤西の関係は、クラス中が知っていた。

 女子の中心にはいつも朋香が、男子の中心には赤西が居た。

 だから、クラス中が二人の中の悪さを知っていた。


「大体、あんなモテない男のどこが良いっていうのよ」


 朋香はそんな事を言いながら、スマホを操作する。


「まぁ、朋香はモテるからね、赤西なんて眼中に無いわよね?」


「そうよ……あんな男」


 そういう朋香のスマホの連絡先には「赤西健輔」の名前があった。





 高志と紗弥が家に帰宅し、二人で高志の部屋に居た。

 相変わらず仲の良い二人は今日も共に帰宅し、そのまま部屋二人の時間を過ごしていた。 そんな二人が何をやっているかと言うと……。


「チャコちゃ~ん、よしよ~し」


「次はこれを着せてみようぜ」


 愛猫のチャコに服を着せて、記念撮影の真っ最中だった。

 体も段々大きくなってきたチャコ。

 猫用の洋服があると知った高志と紗弥は、前の休みに二人で買ってきたチャコ用の服を代わる代わる着せて、スマホの写真で撮影しまくっていた。


「にゃ………」


 着せ替えされるチャコは少し迷惑そうに短く鳴いた。

 紗弥の膝の上に座りながら、チャコはなされるままに服を着る。

 

「そういえば、高志ってクラスマッチはソフトボールとバスケに出るの?」


「そうだけど、なんでだ?」


「ん、帰宅部なのに頑張るなーって思って」


「まぁ、これでも中学は運動部だったから、少しは頑張れるかと思ってさ」


「そっか、じゃあ応援に行くから、頑張ってね」


「お、おう……俺も紗弥の事応援に行くから」


「ありがと、優勝出来ると良いね」


「そうだな……ま、繁村達は別の理由で張り切っていたが……」


 繁村達が張り切る理由を高志と紗弥も知っていた。

 繁村のやる気の出しどころに呆れつつも、そういう時のクラスの男子の団結力の高さを知っている高志は、結構良いところまで行くのではないかと予想していた。


「でも、高志には関係ないもんね」


「あぁ、俺には紗弥が居るし……」


「そうだよ。私が居るのに浮気なんて許さないから」


「しないって、俺は紗弥が……一番……だからさ」


「高志……」


「紗弥……」


 良い雰囲気になり見つめ合う高志と紗弥。

 部屋には二人と一匹。

 夏を経て更に仲の深まった二人の愛は更に強くなっており、自然と二人の距離が近くなって行く。

 顔を赤らめながら、紗弥は目を閉じ、その意味を理解した高志が少しづつ紗弥の唇に自分の口を近づける……そして……。


 きぃ………。


「………」


「………」


「……親父」


「………すまん」


 あと数センチと言うところで、部屋のドアが鳴り、ドアの隙間から部屋を覗いていた高志の父親と高志の視線が合う。


「覗いてんじゃねぇよ!! なんなんだ! うちの両親は!」


「ご、誤解をするな息子よ! 私は息子の息子が暴走して、息子が紗弥ちゃんを傷物にしないか心配で……」


「余計なお世話だ! 出て行けぇ!!」


 今日も八重家は平和であった……。

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