第4話
*
「んで、ここが視聴覚室。まぁ、そこまで使わないけどな」
「あ、ありがとう……」
「なんか疲れてないか?」
「う、うん……少しね」
高志は昼休み、泉を連れて学校内を案内していた。
泉はクラスの異様な雰囲気に慣れることが出来ず、既に疲れきっていた。
「まぁ、少しうちのクラスは変わってるからな」
「少しどころじゃない気が……」
二人がそんなことを言いながら、教室に戻っていた。
その途中、高志と泉の前を優一が猛ダッシュで駆け抜けて行く。
「ん? 今のは優一か?」
「えっと……確か同じクラスの人だよね? あんなに急いでどうしたんだろ?」
「まぁ、なんとなく察しがつくけど……多分もうすぐ……」
「優一さぁぁぁん! なんで逃げるんですかぁぁ!!」
「ほら来た」
「?」
高志がそう言うと、目の前からまたしても猛ダッシュで誰かがやってきた。
今度は女子生徒のようで、手にはないかを持っている。
「よう、芹那ちゃん」
「あ、八重先輩! こんにちは!」
走ってきたのは優一の彼女の芹那だった。
高志が声を掛けると、芹那は立ち止まりしっかりと挨拶をする。
「あれ? 今日は紗弥さんじゃなくて、男の人と一緒なんですね!」
「いや、いつも紗弥と一緒って訳じゃ……無いことも無いな……」
よくよく考えると芹那の言うとおりでことに気がつく高志。
ぽかんとしている泉を見て、高志は芹那を紹介する。
「あぁ、ごめんごめん。この子は一個下の一年生で、秋村芹那ちゃん。んで、こっちは今日転校してきた泉だ」
「秋村さん、よろしく」
「よろしくお願いします! 泉先輩!」
「そう言えば、優一を追いかけなくて良いのか?」
「あ! そうでした! 今日こそは……ウフフフフ」
どこからともなく取り出した荒縄を持って、芹那は不気味に笑う。
優一の逃げていた理由を何となく察した高志は苦笑いをした。
「それじゃあ、私はこの辺で!」
「お、おう。ごめんね、呼び止めちゃって……」
「いえ、大丈夫です! 優一さんの行くところは、このGPS昨日で分かりますから!」
「それって発信機……」
「それじゃあ、先輩方! 私はこれで!」
芹那はそう言って、再び優一を追いかけ始めた。
「ね、ねぇ八重君……彼女はなんで荒縄を?」
「いや……その……気にしない方がいいよ?」
「えっと……那須君は彼女と付き合ってるの?」
「う、うん。まぁ……」
「なぜ目を反らすんだい?」
芹那がかなりのドMなんだとは言えず、高志は話しを反らして教室に戻る。
そして、教室に戻ったら戻ったで、待っていたのは男子と女子の熾烈な戦いだった。
「おいコラ西城! いい加減にしろよ! 俺たちのどこが馬鹿で気持ちが悪いんだよ!」
「いや、全部だけど? 屈み貸してあげようか? 不細工が写るから」
「あ、本当だ……じゃ、ねーだろ!! そういうことを言ってるんじゃねーんだよ!!」
またしても朋香と赤西らしい。
毎回よく懲りずにやるものだと高志は思いながら、そーっと泉を連れて教室の自分の席に戻る。
「あの二人は仲がメチャクチャ悪くてな……この喧嘩も日常茶飯事なんだ」
「そうなんだ……でも、なんで仲が悪いの?」
「それは俺も知らないんだが……昔かららしい」
高志と泉はそんな二人の様子を教室の隅で見ながら、食事を始める。
「はぁ……お前も昔はなぁ……」
「何よ」
赤西はため息を吐きながら、朋香を見て何かを思い出す。
そして肩を落としながら話し始める。
「女ってもんは、歳を重ねるごとに……」
「何が言いたいのよ、煮え切らない男ね」
「別にぃ~、年取るごとに可愛げが無くなると思っただけだよ~」
「はぁ!? アンタ、そんなにぶん殴られたいの?」
「可愛い女子はそんな事いいませんー! これだから可愛げの無い女は……」
「うるさいって……言ってんのよ!!」
「あうっ!! あぁ……お、お前……俺の息子を……」
「うわー痛そ……」
朋香は赤西の言葉にとうとう我慢できづ、赤西の玉を蹴り上げる。
男なら誰でも一度は経験したことのある激痛に、その場の男子は顔を曇らせる。
「ふん!」
朋香はそのまま教室を出て行ってしまい、今日も勝者は朋香で幕を閉じた。
クラスの生徒達は、何事もなかったかのように食事に戻る。
そんな光景にも泉は違和感を覚える。
「み、みんな慣れてるんだ……」
「まぁ、泉もそのうち慣れるさ……」
「そ、そうなのかな……」
とんでもない学校に転校して来てしまったと考える泉であった。
*
放課後、高志は帰宅の準備をしていた。
いつものように紗弥と一緒に帰ろうと、紗弥に声を掛けたのだが……。
「え、委員会?」
「うん、ごめん……」
「いや、謝ることないよ、そりゃあ実行委員だもんな……」
「うん、今日から忙しくて……」
「いや、気にしなくて良いって、そっかそっか、じゃあ待ってるよ」
「え! 遅くなっちゃうよ?」
「いや、大丈夫だよ。どうせやることもないし」
「本当に?」
「あぁ、紗弥を暗い夜道に一人にするほうが心配だよ」
「高志……」
「紗弥……」
見つめ合い、いつものようにイチャつく高志と紗弥。
クラスの男子はそんな姿を嫉み、嫉妬の炎を燃やし、女子はそんな男子に軽蔑の視線を向ける。
「くそ! 高志のやつ!!」
「相変わらずイチャイチャしやがってぇ~」
「うらやまけしからん!」
「アホね」
「ホント男って馬鹿よね」
そんな教室の状況を見ていた泉も、嫌でも高志と紗弥の関係には気がつく。
「八重君も結構大変なのかもな……」
イチャイチャする高志と紗弥を見ながら、泉も肩を落とす。
そろそろ帰ろうと、泉は鞄を持って教室を出る。
すると……。
「きゃっ!」
「うわっ!」
教室の入り口で泉は誰かとぶつかってしまった。
泉は少しよろけただけだったが、ぶつかった女子生徒は倒れてしまった。
「ごめん! 大丈夫?」
泉は直ぐさま倒れた女子に手を差しのばす。
「あぁ、ありがとう。ごめんねぇ~」
そう言って顔を上げたのは由美華だった。
笑って答える由美華を見て泉はドキッとした。
「おぉ、転校生君じゃん! 学校早く慣れるといいねぇ~、じゃあまた明日ね~」
「う、うん……また……」
泉は廊下を駆けて行く由美華の背中を見つめながら、少しの間ぼーっと立ち尽くす。
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