第33話
「な、何かご用でしょうか? 俺はこいつらを部屋まで送って行かなければいけないんですが……」
「それでは、先にお部屋で待ってますね」
「な、なんでですか……」
「聞きましたよ? 石崎先生と同室の予定だった、向井(むかい)先生が、親戚の不幸で修学旅行に同行出来なくなって、先生が一人部屋になったって」
石崎は愛奈の顔を見ながら、冷や汗を掻く。
バレてしまった。
そんな表情でいる石崎に、愛奈はグイグイ迫ってくる。
高志達三人はそんな二人の間で、キョトンとしながら二人の様子を見ていた。
「だ、だからと言って、なぜ私の部屋に?」
「そんなの……生徒の前ではとても……」
「アンタは何をする気だ……」
石崎が色々と愛奈に不安を感じていると、話しを聞いた繁村が石崎に向かって口を開く。
「なんだ! 先生も俺を置いて行くのか! 先生も俺を置いて、幸せになってしまうのか!!」
「い、いきなりなんだ繁村……」
「うるさい! この変態教師! 修学旅行で何をする気だ!!」
「俺は何もしねーよ!!」
繁村の言葉に石崎が声を上げると、愛奈が石崎の口を人差し指で抑える。
「みんな寝てるんですよ? 先生が大声出しちゃダメじゃないですか~」
「うっ……と、とにかく! お前らはもう部屋に帰れ。保永先生もです」
「わかりました、先生のお部屋でお待ちしてますね」
「自分の部屋に帰って下さい!!」
石崎は高志達にそう言うと、そそくさと自分の部屋に帰って行く。
後ろを付いてくる愛奈を石崎は振り切ろうと、早足で部屋に向かう。
残った高志達はラッキーと考え、石崎の言葉を無視して女子部屋に向かう。
「よっしゃ! ついに来たな!」
ようやく到着した女子部屋の前で、繁村はガッツポーズをする。
泉は既に疲れ果て、高志は紗弥に会いたいという思いだけでここまで来ていた。
「じゃあ、戸を開け……」
「コラ! 消灯時間は過ぎてるぞ!」
「やべっ!!」
高志達が戸を開けようとした瞬間、石崎とは別の先生が見回りにやってきた。
高志達は咄嗟にその場から逃げ出し、三人は散り散りになってしまった。
「せ、せんせぇぇぇぇ!!! なんで俺を追いかけて来るんですかぁぁぁ!!!」
「繁村! お前が一番の問題児だからだ!」
「そんな馬鹿なぁぁぁ!! ここまで来たのにぃぃぃ!!」
「待てぇぇぇ繁村ぁぁぁぁ!!」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
見回りに来た先生は繁村を追いかけて行った。
高志はなんとか先生をやり過ごし、急いで紗弥の居る部屋の前に戻って来る。
「繁村……お前の犠牲は無駄ではない……」
繁村が逃げて行った方に向かって敬礼をした後、改めて部屋の戸を開けて襖をノックする。
「さ、紗弥? 俺だけど……」
高志がノックをしてそう言うと、戸の奥からドタドタと足音が向かって来るのが聞こえる。 そしてゆっくりと高志の前の戸が開いた。
「高志……ホントに来てくれたんだ」
「おう……まぁ、一人の犠牲で済んで良かった」
「犠牲?」
「何でも無いよ。でも、俺あんまりここに居られ無いからな?」
「うん……ありがと」
紗弥はそう言うと、高志に抱きついた。
扉の向こうにはクラスメイトの女子も居ると言うのに、紗弥はそんな事お構いなしで高志に甘える。
「さ、紗弥……ほ、他の奴も部屋に居るんだろ?」
「うん……でも、なんか……今はこうしてたい気分……」
「だ、誰も襖を開けない事を祈るよ……」
高志はそう言うと、紗弥の体を抱きしめる。
いつもと違い、浴衣姿の紗弥は色っぽく、夜のせいもあってか、高志は紗弥が愛おしくてたまらなかった。
「ん……なんか今日は……強めのぎゅーだね……」
「あ、悪い……痛かったか?」
「ううん……なんか……安心する……」
紗弥も高志の体を強く抱きしめる。
いつもなら、まだ高志の部屋で二人で居る時間だ。
この時間に二人で居ないのは、高志と紗弥にとっては珍しい。
「わがままばっかりでごめんね……」
「だ、大丈夫だって……このくらいなんとも………あ」
高志が顔を上げ紗弥に言い掛けると、紗弥の後ろの襖が開いている事に気がつく。
そこには、クラスメイトの女子二人が高志と紗弥を見てニヤニヤしていた。
「あ、気にしないで~」
「私達に構わず続けて~」
「続けられるかっ!!」
高志は頬を赤く染めながら思わず叫び、紗弥から体を離す。
「あっ………」
高志から引き剥がされ、紗弥は物足りなそうな表情で高志から離れる。
「なんだよぉ~キスしろよぉ~」
「するか! お前らもう襖閉めろよ!」
「えぇ~ここ私達の部屋だしぃ~」
「こ、こいつらぁ~……」
高志は襖から顔を出してからかってくるクラスメイトに苛立っていた。
折角先ほどまでは紗弥と良い感じだったのに、これでは台無しである。
*
泉は高志と繁村と別れて、一人部屋に戻り始めていた。
幸いな事に、先生から見つからず上手く逃げる事の出来た泉は、ため息を吐きながら自分の部屋に戻っていた。
「はぁ……なんで僕までこんな目に……」
肩を落としとぼとぼと歩く泉。
何か飲み物でも買っていこうと、泉は自販機のあるお土産物屋さんに向かって歩いて行く。
「えっと……どれにしようかな……」
羽織の袖から財布を出し、泉が何をの飲もうか考えていると、急に視界が真っ暗になった。
「え? だ、誰?」
「だ~れだ?」
「ん……その声って……」
泉はゆっくりと後ろを振り向く、するとそこには予想通り由美華の姿があった。
「み、御門さん……な、なんでここに?」
「ん? 泉君と同じ理由だよ。ちょっと喉渇いちゃって~」
「そ、そうだったんだ……」
ニコニコと笑いながら、由美華は泉に財布を見せて説明をする。
「お先にどうぞ~、あ、でも飲み過ぎには注意だよ? 漏らしちゃうから」
「この年でそれは無いかと……」
「アハハ~そうだよねぇ~」
楽しそうに笑う由美華を見ながら、泉はズポーツドリンクを購入する。
泉に続いて由美華も自販機にお金を入れて、お茶を購入する。
「そっちはもう皆寝ちゃった?」
「ううん、みんな起きてるよ。高志は今頃、宮岡さんお会ってると思う」
「あぁ……そっか……そうだよねぇ~付き合ってる訳だし」
高志と紗弥の話しになった途端、由美華の声のトーンが下がる。
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