第6話
紗弥の部屋に入った高志は緊張していた。
あまり入った事の無い、紗弥の部屋。
紗弥は飲み物を取りに一階のリビングに行っており、部屋には高志一人だ。
あまりジロジロ見ないでと言われたが、やっぱり気になって見てしまう。
(あ、俺との写真……)
本棚の上には、高志と紗弥がデートに行ったときの写真が飾られていた。
その隣には、チャコの写真やクラスの友達と撮った写真も飾ってある。
ベッドの上に座りながら、そんな事を考えていると紗弥が飲み物を持って部屋に入ってくる。
「お待たせ」
「あ、あぁ……全然待ってないよ……」
紗弥は机の上に飲み物を置き、高志の隣に腰を落とし、高志により掛かる。
高志は紗弥のそんな仕草にどきっとし、顔を真っ赤にする。
四ヶ月経った今でも、紗弥のこういう仕草には高志も慣れない。
「なにぃ?」
「え! あ、いや……別に……」
気がつかないうちに、高志は紗弥の事を見つめていた。
そんな視線に気がついた紗弥は、うっとりした表情で高志に尋ねる。
高志は元々赤かった顔を更に真っ赤にする。
(か、可愛い!! なんなんだこの生き物は!?)
高志はそんな事を思いながら、紗弥から視線を反らし、顔の火照りを冷ます。
「なんで顔反らすのぉ? 寂しいなぁ……」
「い、いや……今顔を赤いし……」
「恥ずかしいの?」
「そ、そりゃそうだろ……」
「ウフフ、そんなの気にしなくて良いじゃん。私も真っ赤だもん」
「そう言って、紗弥も俺の腕で顔を隠してるじゃないか!」
「あ、バレた?」
「バレるよ!」
「でも、もう二人とも顔会わせちゃってるよ?」
「あ……」
高志の前には顔を真っ赤にした紗弥の顔があった。
真っ赤な顔で優しく微笑む紗弥に、高志の視線をは釘付けだった。
「あ、あのさ……な、なんで今日は紗弥の部屋なんだ? いつもは俺の部屋なのに……」
「た、たまには良いじゃない」
「い、良いんだけど……なんでかなって……」
「あ、いや……その……なんて言うか……高志の部屋でね……その……高志にくっついてると……高志のお父さんとお母さんが……」
「あぁ……すまん」
何となく理由のわかった高志。
高志の両親は変なところでタイミングが悪い、そのため今日はそんな心配の無い自分の家を選んだ訳なのだが……。
「ん? そうなると……紗弥は俺に一体何をするつもりなんだ?」
「へ!? あ……いや……その……」
耳まで顔を真っ赤にし紗弥は口ごもる。
「えっと……な、なんて言うか……今日はお昼別だったし……最近色々あったから……その……あ、甘えたいっていうか……」
「あ、甘える!? そ、それって何するの?」
「こ、こういうことかな?」
紗弥は高志の首に手を回しそのまま抱きつく。
高志は突然の事で体を支えきれず、そのまま後ろから倒れ込む。
「え……あ、あの……」
高志が戸惑っていると、紗弥は更に抱きつく力を強め、高志の胸に顔を押しつける。
「さ、紗弥! これは色々とまずい!! 一回離れよう!!」
この状況は高志にとっては非常にまずかった。
紗弥の香りや感触が直に伝わってくるので、自分の理性を抑えきれるか高志は心配だった。
「それは……嫌かも……」
「え! な、なんで!?」
「ねぇ……高志……」
「え?」
「私達ってさ……もう付き合って四ヶ月だよ?」
「そ、そうだな……」
「キスも何回かしたよ?」
「そ、そうだな……」
「そろそろ……良いんじゃない?」
高志は紗弥のその言葉にもう限界寸前だった。
まさかそんな事を言われるなんて、思ってもいなかった高志。
高志の頭は既に許容量を超え、混乱しつつあった。
「い、良いって……な、何がだ?」
「………わかるくせに」
「うっ………」
顔を上げ上目遣いでそう言う紗弥に、高志の理性は限界寸前だった。
高志はとりあえず落ち着こうと、頭の中で素数を数え始める。
(えっと……そもそも素数ってなんだっけ?)
混乱しすぎて高志の頭はまったく機能しない。
しかし、紗弥は止まらない。
紗弥は高志の唇にキスをする。
紗弥の顔の熱さが、高志にも伝わってきた。
「高志……今日はさ……お父さんは出張だし……お母さんはソロソロ出かけるの……だから……」
「い、いや待ってくれ紗弥! 申し訳ないが俺はまだアレを買っていないんだが……」
「大丈夫……わ、私が持ってるから……」
「なぜに!?」
紗弥はスカートのポケットから、小さくて四角いとある物を取り出す。
高志はなぜ紗弥がそんな物を持っているのか疑問だった。
「な、なんで持っているんだ?」
「えっと……も、貰ったの……友達に」
「いやいや、なにがどうなってそれを貰うことになるんだよ!」
「よ、四ヶ月でやってないのは……遅いって言われたから……」
「お、遅くないよ! お、俺たちには俺たちのペースが……」
「でも……私は……高志ともっと……あの……」
紗弥は顔をリンゴのように真っ赤にして恥ずかしそうに高志に言う。
高志はそんな紗弥を見て思った。
(このまま紗弥に恥を掻かせるわけにはいかない。それに据え膳食わぬはなんとやらとも言う! 良し!!)
高志は覚悟を決めた。
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