第七章「癒しの雨」

 第七章「いやしの雨」


 三十秒が経過。


 ここで、ミティア君との糸をもう一度オン。


 わたし達の願う世界ばしょに辿り着くためには、ミティアくんの協力も必要になるわ。


 わたしを媒介にしてヴェドラナの情報が伝わってきたミティアくんから、僅かな混乱が伝わってくる。


 だけど、ミティアくんはゆっくりと立ち上がり、もう一度聖剣を発動させてヴェドラナに向かって正眼の構えを取ってくれた。


 糸を通してわたしに伝わってきた、ミティアくんの言葉は……、


(ノギク。俺には、何が正しいことなのかまだ分からない。でも、糸を通して、ノギクを経由して伝わってきた「聖女」の心の清らかさが、何故だろう、俺は無視できない。そんなのは綺麗事だって、分かってるはずなのに。もしかしたらこの世界に、どこかの世界には、俺やイナ・・みたいな人間も「見つけて」くれる人がいるんじゃないかって。そんな気になってくる。だから、今は――)


 ミティアくんが聖剣でヴェドラナに向かって斬りかかる。


(今だけでも、綺麗な何かを消えないようにする!)


 偽物の斬撃がヴェドラナに向かう。これは、演技だ。表面上は、敵であるユーステティア帝国の「聖女」に、スラヴィオーレの騎士隊長であるミティアくんが攻撃しているようにしか見えない。


 短い攻防から、ヴェドラナの力量を察したミティアくんは演技といえども凄まじい力とはやさを斬撃に込めた。


 そのタイミングに合わせて、ヴェドラナはミティアくんの攻撃を避けるフリ・・をして、バックジャンプでわたしから間合いを放す。


 糸を通してわたしが伝えた最後の言葉には、ヴェドラナはちょっとだけはにかんだ。


 微笑びしょうも、敵に向けるにはおかしなものだから、すぐにヴェドラナはりんほおを引き締めて、敵に向けるのには正しいキリっとした表情になった。


 そうして。


「この世全ての、毒を、傷を、痛みを、優しい姿へ返す!」


 ヴェドラナは両腕を左右に広げて、呪文を唱えた。ヴェドラナの体がまばゆく輝き始める。


「『ナイチンゲール・アミターユス』!」


 ミティアくんが、宗教画に描かれた聖者ようなたたずまいのヴェドラナに対して、何か神聖な存在を見るように目を細めた。


「『究極の魔法』だ……」


 うん。ヴェドラナがわたしに伝えてくれた情報にもあったわ。ヴェドラナを中心に広域の全ての存在をいやすことができる、破格の魔法。


 空から、たくさんの光が降り注いでくる。


 光の一つ一つは星のようで。


 星が優しく降り続ける様子は恵みの雨のようだったわ。


 光に触れた存在は、あまねく傷が癒されていく。


 負傷した兵士も、街の人も。竜も。「きゅう」から生まれたモンスターでさえも。


 戦場で傷ついたことは何かの間違いで、それぞれの存在が、本来のあるべき状態に戻っていくみたい。


 そんな、万物を癒す「究極の魔法」なんだけれど。


 でも、ヴェドラナの「究極の魔法」には弱点があって。


 ヴェドラナの「究極の魔法」には回数制限があるの。生きている間に七回しか使えないわ。


 この後、帝国軍とスラヴィオーレ軍に戦闘がある度に、両軍の傷ついた人たちを回復するとして。


 ヴェドラナは「究極の魔法」を二日前に一回、今回一回使ってる。


 つまり、敵にも味方にも犠牲を出さないで戦闘ができるのは、あと五回ということだわ。それまでに、何か両国の戦争を終わらせる作戦を考えないといけない。作戦を考える以前に、世界のヒミツを解き明かさないといけない。


 戦場の全ての存在を癒し終えると、ヴェドラナはジャンプして、再び黄金竜にまたがったわ。撤退していく。帝国の竜騎士ドラグナイト部隊の指揮権も、ヴェドラナにあったみたい。今回の戦闘はこれまでね。


 去りゆく竜たちの後ろ姿を眺めながら。


 わたしは、ヴェドラナが伝えてくれた情報から、わたしがやるべきことを見出していたわ。



  /第七章「癒しの雨」・完

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