第二部「世界の秘密と真犯人」
赤髪の女子のプレリュード
第二部「世界の
赤髪の女子のプレリュード/
私。ヴェドラナ・スヴェティナは、ユーステティア帝国の王の寝室で
ノギクと再会したスラヴィオーレへの
私の子守唄は、私の能力でもある。
癒しの「究極の魔法」とは違う、現実世界にいた時から持っていた私の能力がこれ。
私の
私の唄を聞いた人は、心地よく眠れるという、それだけの能力なんだ。
ノギクは、私のことをとても尊敬してくれているのだけど。
私に言わせると、ノギクの方が全然すごい。頭の良さも、可愛さも、
皇帝の発作は、私が判断するにパニック発作だった。
パニック発作、もといパニック障害というのはね、心の状態と体の自律神経っていうところの調和がうまくいかなくなっちゃう、私がいた現実世界でもよくある病気の一つでね。強い不安を感じたり、頭が混乱してしまったり、息苦しくなっちゃったりするの。
発作がおこっても、現実世界だとお薬でだいぶ治まるのだけれど、この
その時、寝室のドアが開いて、一人の男が入ってきた。
「世界が終わる時、
皇帝の寝室に堂々と入ってくるなんて、
本来なら
帝国の政治、経済、教育、そして宗教の中心人物で、帝国は心が不安定な皇帝に代わって、実質この男が動かしているようなものだと私にも分かっていた。
「『究極の魔法』で星を降らせる
私は、うつむきながら。
「天使とは、美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者である」
と、返した。
「ほう。
「私の言葉ではありません。私がいた世界で、もっとも有名な
「ふむ。異世界か。未だに信じられないが、こうして貴女は存在しているわけだしね」
「歴史に名を残すような
私の世界の歴史上の人物。クリミア戦争で、看護で沢山の人を助けたフローレンス・ナイチンゲールは、私のヒーローなの。
ディーレッジ卿は、私という存在の全てを見透かすように、
「でもヴェドラナよ。本当のあなたは、あなたの
私の呼吸が乱れる。
「
ディーレッジ卿は、私を女として見ている。
おかしい。私、そんなに
確かに私は、ノギクほど人間や世界を信用していないところがある。
私自身が苦悩する者なのに、みんな私に善性を求める。
聖女なんて、違うのに。
どんなに、大変だったか。
世界は、私に健康なお兄ちゃんを与えてくれなかった。
私の苦悩のためには、私の代わりに誰かが戦ってくれるの?
そんなことを思ってしまうこともある。
ううん。でも。
戦うとか。攻撃するとか。勝利するとか。強い人間がやるような、分かりやすいことをしてくれたわけじゃなかったけれど。
ノギクが、苦悩する私に手を貸してくれた。
一緒にいてくれた。
子どもの頃にノギクと糸で心を繋いでいた一年間が、私の中心にまだ温かく残っているんだ。
ディーレッジ卿がおもむろにローブを脱ぎ去った。
ローブの下は、上半身が裸だった。皇帝が眠っている横で、本当に不敬な。
誘惑するように、ディーレッジ卿は私の
いよいよ、私の胸は高鳴ってしまう。
逃れるように視線を落とすと、ディーレッジ卿の胸に、大きな傷が刻まれているのが目に入った。
(この人も、傷を負っているのか)
私は少し冷静になる。
大きな傷は、竜のかたちをしていた。
この
現実世界の私の故国、スロヴェニアの
スロヴェニアは、平和を勝ち取った国だ。
ノギクだったら、その辺りの歴史を私より詳しく説明してくれると思うのだけれど。
平和、ということについてはずっと考えてきた。
帝国が拡大して世界に安定をもたらすなら、それが平和だという考え方も分かる。
でも、ただ強い国が大きくなれば、全てそれでイイという理屈を飲みこめと言われたら、私は心がざわついてしまう。
ざわつきの源は、ノギク。
ノギクだったら、たぶんもっとすごい解決方法を考えてくれる。
そう、どこにも
小さい国も、
弱い人間も、ありのままで生きていけるような。
だから、私が手に入れたこの世界の秘密の鍵となりそうなものを、残らず伝えてきた。
私の『究極の魔法』が使えるのはあと五回。犠牲者を出さないで戦争を続けられるのも、あとわずかだ。それまでに、解決方法を見つけ出さないと。
考えるんだ。想像するんだ。
ノギクだったらどうする? この世界のために、私がノギクに提供できるものは何?
「ディーレッジ卿、失礼します」
逃げ出すように、皇帝の寝室から立ち去った。
(ノギク……、私の最愛の友だち)
――落ち込んだ時、
/赤髪の女子のプレリュード・完
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