輪廻境界域

第二十八章「輪廻境界域・壱~雪降る街で」

輪廻りんね境界域きょうかいいき


 糸が途切れてしまっている。この世界に、ミティアくんはいない。



 第二十八章「輪廻境界域・いち~雪降る街で」


 気がつくと、わたしとヴェドラナは仙台せんだい駅の地下鉄入口に立っていた。


 ここは。現実世界?


 時計を見てみると、セイレキ二〇二一年、十二月二十三日、午後二十三時三十五分。道化師ピエロの姿はない。


 リュヴドレニヤに召喚しょうかんされる前と、まったく同じだわ。時間も全然経ってない。


 リュヴドレニヤでの出来事は、すべて夢か何かだった?


 でも、そんなこと?


乃喜久のぎく

「ヴェドラナ……」


 ヴェドラナとの糸は繋がっている。ヴェドラナは、リュヴドレニヤであった出来事を、出会った人間を、わたしたちにあったことを糸で伝えてきた。ヴェドラナにも記憶はある。やっぱり、わたしたちはリュヴドレニヤにいたんだ。夢じゃない。


 ヴェドラナは雪が降り始めた夜空を見上げてから。


「少し、歩かない?」


 と申し出た。


 考えをまとめる時間もほしかった。今日は藤宮ふじみやていがある荒町あらまちまでは地下鉄で移動するつもりだったけれど、二人で街を歩いて移動することにする。


 少し離れたところに置きっぱなしになっていたキャリーバッグと「箱」を手にして、ヴェドラナはてくてくと歩き始める。寒空の下、わたしも歩き始める。


 夜の静寂せいじゃくと。舞う雪の中を。


 仙台駅から南の方へ向かって。


 二人並んで、歩いて行く。


 曲がった街灯からこぼれるアカリが、みちを照らしている。


 ひび割れた道路も。傾いた電柱も。愛しい。わたし達を傷つけようとなんてしない。


 コンビニでは日常品が売っていて。


 ホテルが、ここで眠れるよって建っていて。


 道路では静かに自動車が流れている。


 今が戦時中じゃないというだけで、こんなにも心が穏やかなんだというのは初めて気がついたわ。


 やがて、荒町へ曲がる十字路のところまで辿り着くと。


 出会えたわ。


 曲がり角のへいに寄りかかって、男が立っていた。


「日常は、どうだ?」


 男は黒いスーツを着ていた。


 正体を隠す必要がなくなったからだろうか。もう道化師の格好はしていない。


言史ことふみくん」

「そうだよ。世界に切り捨てられたものたちの代弁者――『正義の味方』だ」



  /第二十八章「輪廻境界域・壱~雪降る街で」・完

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