第二十六章「セイレキ二〇一九年~仙台」
第二十六章「セイレキ二〇一九年~
十六歳の夏の日。
仙台駅のペデストリアンデッキで、久しぶりに
言史くんが京都の大学に進学してからは、少し疎遠になっていたのだけれど。
半袖のワイシャツに、
「大学の勉強はどう?」
「がんばってはいるさ。科学の発達が目覚ましい時代だからな。やりがいはある。これで研究資金がどーんとあれば、色々できるんだけどね。このご時世。貧乏学生だからな。そこはなんとも」
「わたしもさぁ、今けっこう楽しい。コンピュータ科学はロマンあるよね」
「
言史くんは雰囲気も何だか落ち着いて、口調もちょっと大人っぽくなっていた。
何気ない会話を交わして、お別れしようという時、言史くんはちょっと改まって。
「乃喜久。あのさ」
「うん?」
「ユーレって、どうなったんだ?」
と、自然を装って聞いてきた。
でも、わたしはすぐに言史くんにとって大事なことなんだと気づいたわ。
ユーレさん。
「あ。うん」
わたしは、とっさに上手い言葉が出てこなかった。
遠くに、セミの音が聴こえてくる。
「大震災の日以来、ヴェドラナのことは時々話すのに、ユーレのことは全然話さないだろ? どうしてるのかな、って」
わたしは、沈黙してしまう。
ユーレさんのことはヴェドラナから聞いている。でも、言史くんには話せない理由がわたしの方にもあったの。
わたしが黙っていると、言史くんは。
「そうか、みんな、ユーレのことは『なかったこと』にするつもりなんだな?」
ってわたしじゃなくて、もっと遠くを見るようにして言ったの。
涼しそうな顔で笑っているのが、ちょっとこわかった。
ちがう。それはちがうわ。言史くん!
「いや、うん。アイツ、もともとそういう立場の人間だったしな。別に、乃喜久のことを責めないさ。ああ。困らせて、悪かった」
「ちがう。ちがうからね、言史くん!」
言葉が、届かなかった。
わたしにも迷いがあったし。言史くんの方も、彼なりに積み上げてきたものの見方で、ユーレさんのことを捉えようとしていた。
あるいは糸を繋いでいれば、この時、わたしは本当の気持ちを上手く言史くんに伝えられたのだろうか?
その時の言史くんは、何か大きなことを一人で抱え込もうとしてる感じだった。
――お願い。孤独にならないで。
って伝えたかったのに。
すべて、言葉にすることができなかった。
それ以上何も語らずに、言史くんはわたしに背を向けた。
立ち去ってゆく言史くんの背中を見つめながら。
わたし自身の気持ちじゃなくて、糸を繋いでいた頃にずっと伝わってきていた一番大事な友だちの気持ちを思い出していた。
わたし。ノギクの十二の秘密のうちの一つ。これは
――ヴェドラナは、言史くんのことが好きだった。
子どもの頃に大岩の中の
/第二十六章「セイレキ二〇一九年~仙台」・完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます