裏・裏エピローグ
裏・裏エピローグ~いつかどこかで
その日も、雪が降っていたわ。
家を出て。
わたしは、入り江の方へ向かって駆け出した。
行かなくちゃ。
大事な人が、待ってる気がする。
逢いたくて。
逢いたくて。
街路樹に挟まれた、
こんな場所、
やがて、辿り着く。
辿り着く。
舞う雪の中で、そのヒトは待っていた。
薄紫のローブをまとって。左肩に小さな白い
まるで、魔法使いみたいなヒト。
「へぇ、ヴェドラナと出会わなかった『わたし』、か」
言葉の意味はわからない。
今日、わたしが逢いたかった人とは違う。
でも、なんだか、温かなヒト。
「ようやく、見つけた」
お姉さんは。
諭すように。
「伝えたいことがあったから、ね。ミティアくん達が『外』に出られたんだから、わたしも『外』に出られるんじゃないかって思って。幾星霜、事不思議、物不思議、理不思議、大不思議、大大不思議……と巡って、探しちゃった」
祈るように。
「ねえ、
――そこで、終わりじゃないから。あなたも。世界も。
「なぁに? 何の、話なの?」
「これはね、応援、かな。これから物語を始めなくちゃならない、あなたへの」
妙なことを言う。初めて逢った人に、応援してもらうのは稀有なことだ。
わたしは、尋ねた。
「どうして? どうして応援してくれるの?」
「それはね。コトフミくんと約束したんだ」
「お兄ちゃんと?」
「うん。あなたのお兄ちゃんと、同じではないけどね。そうだなぁ。あなたも
お姉さんは、こう言葉を紡いだ。
わたし。ノギクの十二の秘密のうちの一つ。これは蛇
――わたし。フジミヤ・ノギクは本当の世界ではもう死んでるって。実は自覚してた。
一陣の風が吹いた。
お姉さんの右眼が輝き出す。
「さあ。仇討だよ。わたし達を、亡くしてしまった世界に。いっしょに。愛という武器を手にとって」
お姉さんの右眼の光は、
「わたし達は、この宇宙に全員分の居場所をつくる復讐をとげて。わたし達を亡くした世界を許すんだ」
やがて、お姉さんの右眼と呼応するように、無数の星明りが周囲で煌めき始める。
「そんなことが、できるの?」
お姉ちゃんの言ってることは分からない。ただ、舞う雪明りの中で輝くお姉ちゃんは、いつかアニメで観た魔法魔王少女みたいでカッコいい。
「できるさ。だって――」
お姉ちゃんは、力強くわたしに言葉を伝えた。
「この世界には、ヒミツがあるんだから」
花だった。
星の光、雪の光だと思っていたものは。
華だった。
舞う花びらのそれぞれに、光が、世界が反射されているのだ。
「舞う
この不可思議な世界で。
――補い合う華だけを、あなたに。
言葉を残すと、お姉さんはいなくなっていた。
雪は確かにあったのに、人の肌に触れてあっという間に消えてしまったように。
本当に存在していたのかどうか、もはや確認することができない。
お姉さんがわたしの意識から消滅すると。
代わりに、わたしの胸に宿った気持ちがあった。
――癒したい。
これは、わたしの気持ちじゃない。
いつかどこかで出会った、大事な人の気持ち。
思い出してる。
「糸」を繋いでいた、「たましい」の奥底にあった気持ち。
『約束』を交わした、女の子の気持ち。
いつかどこかで、わたし達はこの気持ちを抱いて何かをなした。
「行かなくちゃ」
わたし――
「わたしを、待ってる人がいる」
けれども、彼女の視力が及ばないのか。この世界の仕組みの中ではそもそも
気がつけば
肌に触れる白の感触で、自分という存在がここにいるんだと明瞭に気づき直す。
――そう。
今日も。
実体であるとも幻であるとも判別がつかないような。
美しい幽性の雪だけが、少女を包み込むようにしんしんと降り続けていた。
/裏・裏エピローグ~いつかどこかで・完
『少女輪廻協奏曲』・始
少女輪廻協奏曲 ノギクとヴェドラナの愛 相羽裕司 @rebuild
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