第二十一章「不思議なピアノ」
第二十一章「不思議なピアノ」
決戦の時まで、あとわずか。
ミティアくんがコぺリアに行っている間、わたしはスラヴィオーレ城の地下でピアノを
この、不思議なピアノについてのわたしの考察を少し。
ピアノは、入力装置であり。
演奏することは、プログラミングなんだと思う。
プログラミングは、やってる?
初級の教本で、簡単な絵を動かすプログラミングをやったりするよね?
あれって、まずわたしの心の中に絵を動かすイメージがあって。次に、プログラミングを通して画面上で、実際にその絵を動かす。これって、最初にわたしの心の中にあったイメージが現実になったってことだわ。
言いかえると、プログラミングというのは想像を創造する行為だわ。
わたし、入力はキーボードを使っていたのだけれど、これは心の中のイメージを実現するまでの時間が一番速かったから。
わたしの場合、スマートフォンやウェアラブルを使うよりも、キーボードで指を動かすのが一番速かった。
でも、そうして現実になるまでの速さを追及していくと、もっと速いプログラミングが可能性としてはあり得ることに気づくわ。
そう。わたしが心の中でイメージした瞬間に、もう現実化しているようなプログラミングができる環境。そういったものが、技術の進歩と共に近い未来現れるとわたしは予想していた。
その未来の技術を、わたしは仮に「思考量子コンピュータ技術」と呼んでいたわ。
この
ミティアくんが聖剣の柄に魔法石をはめたら、光の剣が現れた。あれは、ミティアくんがイメージした最高の剣なんだわ。
魔法石は、想像を実現化する力をもっている。
そして、リュヴドレニヤの地下には魔法石のかたまりが繋がり合ってサーバーを形成している。
入力装置は地下のピアノ。
プログラミングという行為は演奏。
そして、プログラミングした内容が映し出される
エネルギー源は? 仕組みは? 誰がこんな環境を?
まだ、すべてを解明できたわけではないわ。
解明できない状態のまま、間もなく決戦の時はおとずれてしまう。
それでもわたしは、わたしの仮説に基づいて準備していた。
確証がない状態だとしても、悲観的に想定して準備しておくのは大事じゃない?
少なくとも、このピアノで
だとするならば、わたしはあらゆる危機を想定して、プログラミングはやっておこうと思うの。
軽やかな演奏に乗せて、わたしの心の中のイメージが瞬時に世界に反映されていくと、不思議な気分になってくる。
伝わるかしら? 怒りにしろ、愛にしろ。ああ、世界っていうのは、心の中の反映なんだな、みたいな。
だったら、わたしは愛で世界を見たい。
どうして?
分からない。たぶん、この温かい気持ちは、わたしだけのものじゃなくて、昔誰かに貰ったものだから。
もうすぐ、ユーステティア帝国とスラヴィオーレの大規模な戦闘が始まる。
世界が争いへと向かう中で。
わたしは、静かに音楽を奏で続ける。
わたしの「心」に関する考察は覚えている?
ヴェドラナの心の井戸の奥は、スロヴェニアの歴史に繋がっていて。
ミティアくんの心の井戸の奥は、何処にも繋がっていなかった。
じゃあ。わたしの心の井戸の奥は、何処に繋がっているの?
「たましい」の井戸の、ずっと、ずっと、奥。
わかってる。
響いている。
響き続けているのを、知っている。
音楽が、響き続けているのよ。
「たましい」の底の向こう側の世界から、その音楽は聴こえてくる。
子供の頃から、ずっと聴こえ続けている。
二つの旋律が重なり合い、補い合うその音楽は。
――
「わたし」と音を重ねているのは誰?
共に響かせているのは誰?
わかってる。
それは……。
「たましい」から響き出す音楽が「世界」を変えて。
変わった「世界」から影響を受けて、わたしの「たましい」のカタチもまた変わって。
変わった「たましい」の奥から、また次のカタチの音楽が聴こえてくる。
つまり、
協奏曲は、
本当に、不思議。
世界とは、わたしとは、何なのだろう。
答えなどわからないまま、わたしは「たましい」の志向性に存在を委ねて、湧き出す音楽を奏で続ける。
(できるだけの、準備はしたわ)
子どもの頃の
湧き響く音楽にのせてヴェドラナを想う。
だって、わたしが抱き続けてきた空想は。
――全員分の船は。
わたしとヴェドラナの、二人で抱いた空想なんだから。
/第二十一章「不思議なピアノ」・完
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