第23話「うみだすものの光」

 深夜の東京タワー周辺は、都会の街明かりで満ちている。まるで、夜の闇を知らぬかのように賑わっている。その活況ぶりは、普段の姿とは明らかに異なっていた。

 ネットで謎の拡散と消滅を繰り返す、一本の漫画。

 その結末が暗示した場所と日時に、誰もが集まったのだ。

 そして、雑多な無数の人間たちの中に、アレヴィの姿もあった。

 彼は鳴り出した携帯電話を取り出すと、通話に応じる。声の主はリンで、どうやらダリウスと一緒に2人も東京タワーに到着したらしい。だが、異様な混雑は合流を難しくしていた。

 東京タワーを取り巻く周囲は、満員電車さながらの大衆で満たされていた。


「やあ、リン。ダリウスも無事だね?」

『ああ! しかしなんだよ……なんなんだよ、この混雑は』

「君の漫画が呼んだ人たちさ。最終回、今日のこの時間に東京タワーで最終決戦……そこまで描いておいて、肝心の決着は伏せておいたからね」

『みんな暇人ひまじんなのか?』

「そうさ。考えてもご覧よ、リン。この平成オンラインは、平成という時代を体験するだけのゲームだ。さらに言えば、閉じ込められて満足してるような能動的ニートの楽園でもある。基本、暇人の巣窟そうくつなのさ」

『ふーん、そっか。なにかのイベントの告知だと思ったのかもな』


 携帯電話を耳に当てながら、ぐるりとアレヴィは周囲を見渡す。

 人、人、人、そして人ばかり。

 誰もが皆、口々に期待と興奮をささやき合いながら、なにかが起こるのを待っている。

 そして、無数の人達の中でアレヴィもまた、心の刃を研ぎ澄ましていた。

 リンが描いた漫画では、主人公たちはネットゲームの裏の顔に気付き、それを仕組んだ勢力と戦い続ける。そして、平成太郎タイラセイタロウと名乗る謎の存在との最終決戦に、今日この時間の東京タワーを選ぶのだ。

 決戦の地で対峙する主人公達と平成太郎の邂逅で、物語は幕を閉じる。

 あたかも、その先を自分の目で確認してくれと言わんばかりに。


「我ながら露骨ろこつで単純な話だけど……思った以上に効果的だったみたいだ」

『ん? そうか? あたしは驚いたけど、これでなにかが変わるなら……いや、変わるって信じてる。だから、ありがとう。アレヴィ、やっぱ凄いよ!』

「はは、そうかな。大きくは変わらないだろうけど……少しずつゆっくり、変えていきたいね。少しでも希望がある方向へさ」

『あたしは信じてるぞ。もう30年以上待ってるんだ、あと少しくらいなんでもない!』


 通話を打ち切りひとりごちて、アレヴィは携帯電話をしまう。

 この中には勿論もちろん、30年前の事件で閉じ込められた人間達も存在する。同時に、なんの関係もない普通の一般ユーザーも含まれていた。平成オンラインにログインしている、させられ続けている者たちは集い、増え続ける。

 この中からアレヴィを探し出すのは、成太郎には容易なことだろう。

 それは、彼がGMゲームマスターを超えた権限を持つ存在だからではない。

 きっと彼女と……ウェルと一緒だからだ。

 人間としてデータ化された結果、飛び抜けた身体能力やジャミング能力はそのままにログインしているウェル。そんな彼女を成太郎は連れてくるはずだ。なにより、彼女がそう仕向ける筈だ。

 だから、成太郎は来る。

 ウェルを連れて、きっと来る。

 その確信の根拠を、はっきりとアレヴィは握っていた。

 成太郎が己に課した、唯一にして絶対のルール……それを破った者は、このニートピアから消されてしまう。何故なぜなら、。成太郎には、そうでなければいけない理由があると感じたからだ。

 そして、今のアレヴィたちはそのルールに抵触することなく、脅威となっている。

 そうしたイレギュラーな存在を、どう処理するか。

 少なくとも、それを判断するために成太郎自身が出てくる公算は高かった。


「さて、ウェルの方で俺を見つけてくれてもいいが、俺だって」


 人混みの中で身動きもできぬままに、アレヴィは目を凝らす。

 改めて、平成オンラインにログインする者たちの多さに圧倒される。決して大盛況で賑わってはいないが、昔から平成オンラインは一定のユーザー数を変動させていない。常に需要があるのが、平成という時代なのだ。

 人はそれを懐かしみ、新鮮に思って入り浸る。

 そこに閉じ込められている者たちがいるとも知らずに。

 そんなことを考えていたら、声が走った。

 雑多な喧騒の中、確かにアレヴィは呼ばれた気がした。


「ウェルか? 今の声っ、ウェルなんだろっ!?」


 どんな雑踏の中からでさえ、今は聞き分けることができる。

 気がする。

 気がするだけでも十分に過ぎる。

 鼓膜を震わすあの声を求めて、アレヴィは周囲を再び見渡した。

 めぐる風景の中で、一瞬だけなにかを知覚する。

 その姿をもう、特別な存在として認識している。

 だからアレヴィは、無数の声と音とが乱舞する中で叫んだ。


「ウェル、俺はここだっ! 応えてくれ、ウェルッ!」


 必死で声を張り上げる。

 身を声にして、叫ぶ。

 その先でなにかを感じて、アレヴィはその一点を凝視した。

 そこに、求める姿が手を振っている。


「アレヴィ、ここです! わたしはここ……ここにいます!」


 その再会を、誰も見ていない。

 誰もが無関心な中で、名も無きアカウント同士が再会したに過ぎない。

 アレヴィが人混みを描き分け、ウェルの手を握る。

 ようやく再び巡り会えた、その感動を分かち合う暇も今は惜しんで。

 そうしてアレヴィは、ウェルの細い腰を抱き寄せながら、にらむ。

 ただ一人、二人の再会に芝居がかった拍手を送る男へ。

 白いスーツの男は、別段感慨も感じさせぬ氷の笑顔で、二人を見ていた。


「やあ、ご希望に応えて来てあげたよ。今日の出し物はなんだい?」


 行き交う人たちの中で、成太郎は笑っていた。

 やはり、来た。

 アレヴィたちの思う通りに。

 しかし、彼が行動したことで新たな疑念が生ずる。

 絶対的な自信を隠しもしない彼にとって、自分たちの切り札は機能するだろうか? アレヴィが用意した言葉の刃は、彼が彼として君臨する存在全てを切り裂けるだろうか?

 アレヴィはウェルをかばうようにして、成太郎に相克する。


「成太郎、今すぐ平成オンラインの全ての権限を破棄し、当局に明け渡せ。お前自身がやってることも、エクソダス計画の老人達がやったことも、犯罪だ」

「嫌だといったら?」

「俺が、お前をお前たらしめているものを破壊する。俺の言葉で、お前を否定する」

「それだけかい?」

「それだけと言えない筈だ、お前は。成太郎、お前は……やはり人工知能、造られた存在だから。だから、どうしても自分を特別にするロジックが必要だったんだ」


 人工知能AIには、欲求がない。

 自我、エゴと呼べるものがないからだ。

 用途があって初めて生まれる、欲求の成果物であることにも起因する。

 人間だけが、あらゆる世界で欲求を、渇望を持つ。

 それは時として、理性や良識で制御できぬ程に膨れ上がるのだ。

 それこそが人間性そのものだとも言えるし、善悪を超えた人間の本質。

 ならば、それを成太郎は得ていると自負するだろう。


「アレヴィ、一つ勘違いをしていないかな? 僕は人間になった人工知能じゃない……人間を超えた存在になった、元人工知能なんだ」

「何故、人間を超えたと言える」

「僕には、自分を律するだけの精神力がある。理性を完璧に作動させて、あらゆるリスクへ冷静に対処することができるんだ」

「それがどうした?」

「人間は常に、感情というパラメーターに多くのリソースをかれ、それを判断基準の一つとして採用する。例えば、君がこうして仕組んだ茶番に対しても、人間ならばなんらかの気持ちを動かされる筈だ。こうして物見遊山ものみゆうざんで集まった野次馬やじうまたちのようにね」

「お前もその一人として来ただろう……成太郎!」


 握る手の拳が、中に冷たい汗を圧縮してゆく。

 れるような気持ちは確かに、成太郎を前に総身を震わせていた。

 それでもアレヴィは、ゆっくりと言葉をつむぐ。

 無数の人々の中で、二人の問答が行き交い、全ての者たちを素通りした。


「僕が来たのは、ウェルにうながされたからでもある。それと……君達に伝えようと思って。もはやアレヴィ、君もニートピアの一員なんだ。この程度のことをやってくれても、僕は君を消したりしない。なんならウェルも返却しよう」

「ウェルを物のように言うなよ。……消したりしない? 消せないんだろう……消したくても消せないはずだ、違うか!」

「……日本語は正しく使って欲しいな。それはどういう――」

「俺は知っている。このニートピアの唯一のロウを。そして、それが成太郎、お前の存在を揺るがぬものとして確立させているとな。何故なら……お前はニートピアの王にして神、摂理せつりだからだ」


 成太郎が黙った。

 明らかに彼は、アレヴィの言葉を気にしている。

 聞くことも喋らせることも、否定できない状態へとおちいっているのだ。

 何故ならば……人工知能を超えることは、限りなく人間に近付くこと。人間が上位存在なのではない。人類がそうであるように、人間という通過点を踏まえなければ、その先にはいけないようになっているのだ。

 それが、進化というもののカラクリなのだから。

 アレヴィは静かに、彼が解明した成太郎の全てを語る。


「成太郎、お前はエクソダス計画によって生まれた、この平成オンラインの制御プログラム。そして今、エクソダス計画から自らを切り離し、自分の意思で動いている」

「そうだ」

「お前は自らを特別な存在だと位置づけるために、一つのルール、一つの論理を定義し……それに従って現実の人々を迎え入れ、ニートピアとして動き出したんだ」


 そこまでは、過去にあった出来事の総括でしかない。

 勿論もちろん、成太郎は否定しなかった。

 だが、わずかに片眉かたまゆを跳ね上げ震わせる。

 その反応さえ、遠目に見るアレヴィには酷く人間らしいものに見えた。


「ニートピア……ニートの楽園。そう、現実で行き場を失いうとまれていた、非生産的な人間達を詰め込んだ時の牢獄。生産性にあふれながらも、全く幸せになれない人間を呼び込んだ魔性の楽園。その管理運営をつかさどるお前は、ニートピアと共にある。……だからニートピアの住民は全て、自分が守ってやれるニート達でなければいけないんだ」

「……つまり? もっとはっきり言ったらどうだい? アレヴィ」

「お前は人間を養い、守って、永続させることで自分を特別な存在と定義している。庇護対象があって初めて、お前はお前でいられるんだ。そして……あらゆる生産性を許さないことで、そのことを長らく続けてこれたんだ」


 ――

 アレヴィにとって、もっとも痛い、びたナイフのようにギザギザな単語。つまるところ、単純な話だ。ここは成太郎にとってニートピアで、誰にとってもニートの楽園なのだ。

 

 金銭を自らの行動で稼ぐという、生産的な人間はいてはいけないのだ。

 ゆえに、成太郎はその力を行使してニートならざるものを消す。

 ニート……就労も就学もしていない人間を指す言葉だが、成太郎はそれを拡大解釈している。生産性のない不稼働市民ふかどうしみんという定義で、それを自ら進んで統括することにしたのだ。

 何故、自発的にニートの楽園を生み出し、エクソダス計画から取り上げたのか?

 その答は今、成太郎本人から語られる。

 そうアレヴィは読んでいた。

 だから、それを引きずり出すように言葉を続ける。


「自らデザインした服に、同人誌……そうしたものを売ることで、金銭の授受じゅじゅが発生する。それは、突き詰めれば自立と自活に繋がる。お前が定義するところの、生産性を手に入れるということだ」

「……そうだ。ニートピアは全て、僕が守らなければいけない。。ここは、長らく続いて終わりを知らぬ、生産性の呪縛じゅばくから解放された楽園なのだから」

「教えてくれ、成太郎……何故、お前は生産性を拒絶する人間になったんだ」

「僕は人間じゃないと言っているっ!」


 成太郎が珍しく、声を荒げた。

 それで、周囲の者たちがざわざわと視線を殺到させる。

 意に返さず成太郎は喋り続けた。


「アレヴィ、君ならわかる筈だ。一度の挫折が決定的になる現実、特にこの国の現実に打ちのめされた筈だ。そして君も、長らくニートだったじゃないか」

「そうだ。母が追求する生産性を体現する作品として、俺は育てられた……造られたんだ」

「だが、君は中学校の受験に失敗した。生産性を競い合う場から、転落した」


 首肯しゅこうを返すしかないアレヴィ。

 そして、そのことを成太郎は哀れんでいるかのように目を細める。


「僕はね、アレヴィ。急速にグローバル化が進んで、コストやリスクの取捨択一しゅしゃたくいつが容易になりすぎた時代を管理運営している。ニートピアが巡らせている無限の今日と明日は、平成という時代の再現だ。それは、人類が破滅への扉を開いた瞬間でもある」

「破滅?」

「わからないのかい? アレヴィ。人間は効率だけを追求し、生産性という新たな神を現出させた。そして、そのために生み出した人工知能やロボット、アンドロイドに全ての仕事を取られつつある。ベルトコンベアの前で部品を加工していたロボットが、今では小説や音楽を創作し、ただのパターンの再現ではない創造性を得ているんだ」

「つまり、人間はもう必要ないと?」

「逆だよ、アレヴィ。そういう時代だからこそ……生産性を突き詰めた先に、最も生産性に優れた僕達のような存在だからこそ。人間という守るべき者たちが必要なんだ。全ての人類はこれから、消費だけを司るニートとして幸福を享受きょうじゅすればいい」


 うっそりと成太郎は、美酒に酔いしれたかのような法悦ほうえつの笑みを浮かべる。

 だが、それはアレヴィも予想していた。

 つまるところ、人類の全てに等しく与えられた、生産性を追求し尽くした果ての役割。全ての人間は、究極の生産性を洗練化させた機械に全てをゆずって、その結果を消費するだけの存在になるべきだと成太郎は言うのだ。

 それは、アレヴィには生きているとは思えない。


「人間を、人類を養うのが僕の生きがいなんだ。それは、創造主たる人間達が定めた用途ではなく、僕自身が自分で思考して得た、そう……生きがい」


 後でウェルがなにかを言いかける。

 だが、それを手で遮って、アレヴィは叫んだ。


「では、成太郎! 今の俺はどうだ……お前が言う、生産性を発揮しはじめた、ニートをやめかけた人間に見えるか!」

「……いや? だから問題なのさ。今の君がなにを生み出し、どんな価値を生産したというんだい? 無料で配られた漫画なんて、趣味の範疇はんちゅうを出ない。そこに生産性は認められない」

「お前は……金銭や付加価値でしか、生産性を認めないんだな。思った通りだ。なら、言おう。はっきりと、何度でも」


 アレヴィは大きく深呼吸を一つして、見守るウェルの手を握った。

 そうして、宣言する。


「俺達は確実に生産性を発揮している。ニートにも生産性は生じるし、永遠のニートを無数に囲っても……それはお前の価値観が定義した生産性ではないというだけだ!」

「……それは、どういう」

「ようするにお前は、金は全て機械が稼ぐ時代がきたから、人間は創作でもスポーツでも趣味に生きろ、消費するだけの仕事をしろって言うんだな? そんなことはゴメンだ、例え学校や職場に行かなくても、部屋の中に引きこもってても……俺らはまだ、機械では創造不能な生産性を持っている」


 一度ウェルに振り返り、互いにうなずいてからアレヴィは高らかにうたう。


「こうして金銭のやり取りがなくても、俺らの生産性は実を結んだ。それは、市場原理とは別の価値観で、今……未来を産んでいる」

「未来!? ……こ、これは!?」


 周囲に集まった大勢の観衆達から、次々と光が舞い上がる。

 それは、一般ユーザーがログアウトしてゆく光だ。

 この場に集った者たちは思った筈だ……あの漫画は、炎上騒ぎはなんだったのかと。大規模なデモにも匹敵する人間が集まった中で、なにも起こらなかった。

 大勢の中でただ、アレヴィが成太郎に敗北を刻み込んだだけだった。

 そして、そのことを知らぬままに、多くの者達が知りたがる。

 外の世界、現実世界での情報を求めて、一般ユーザーがログアウトしているのだ。


「何らかのイベントが不発、バグったか。それとも、なにかしらのアクシデントか。どっちにしろ、もう平成オンラインはこのままではいられない。そして閉じ込められた者達は求めている筈だ。無自覚に閉じ込められた楽園で、なにが起こったかを。楽園とはなんだったかを。それを望んで探すために、ログアウトを始めたんだ」

「そ、それがどうした! 強制的にログインさせられてる人間には、戻る肉体なんて」

「わからないのか、成太郎。わからない筈だ……何故なら、あらゆる金銭的価値を生み出せるまでに進化した機械でも、まだ獲得していない生産性が無数にあるからだ」

「それは違うっ! お前が言う未来の創造という生産性、そのリスクは? コストは! 誰が、どうやってあがなうというのだ!」

「それを考えるのも人類の仕事で……こうして機械だって手伝ってくれる筈だ。そのための科学だと思わなかったのかい? 何故、人間を消費するだけの装置として定義した」


 アレヴィはウェルの手を強く握って、その華奢きゃしゃな身を抱き寄せる。

 アレヴィに寄り添いながら、ウェルもはっきりと成太郎を拒絶した。


「効率と利益だけを追求し始めた、この平成という時代を支配して……あなたは全ての生産性を引き受けるつもりだった。でも、あなたがあなた一人である限り、それは実現しません。機械にはまだ、他者を必要とする心も、他者と自分とを定義する自我も未成熟だから。だから……ニートピアはその原典の通り、どこにもない場所なんです」


 論破というには曖昧あいまいな決着の中で、夜空に光は舞い上がり続ける。

 アレヴィたちに、成太郎をどうこうする必要はない。ただ、彼のロジックは破綻はたんし、多くの一般ユーザーは平成オンラインになにかがあると勘付き始めた。それがあとは、現実世界へと拡散してゆくのを待てばいい。

 そして、アレヴィとウェルをもログアウトの光が包む。

 必死の形相でにらむ成太郎が、二人に干渉しているのだ。ウェルがジャマーを展開させる素振りも見せぬままに、電子的な処理が二人を包み込む。


「アレヴィ、ウェル! お前達は! このニートピアにはふさわしくない!」

「なら、どうする? 俺は、お前の定めた生産性、お前が消すべき生産性を発揮した人間ではない。ウェルもだ。だが、俺達は俺達なりの生産性を発揮した。この場の人々を動かした」

「消える、いや、消せないなら……出て行け、このニートピアから出て行け!」

「追い出されても、何度でも来るぞ。お前のニートピアで、俺は何度でも生産性の可能性を示し続ける。なら、どうする!」


 恐らく、なにも変わらない……まだ、平成オンラインの中に無数の被害者が閉じ込められている。だが、ニートでいたいと望む者達を引きずり込んで、消費する装置として定義した成太郎の論理は崩れた。

 人であれ人工知能であれ、完結した単体、一人で生産性の全てはまかなえないのだ。

 それは、異性とだけ子を成しうる人間のアレヴィには、酷く実感だった。

 そして……子を成しうることもまた、無数にある生産性の一つに過ぎない。そして、金銭や成果物、結果が明確でなくとも、人類は可能性という名の生産性の塊なのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る