現在進行形の後日談4

 社長からもようやっと連絡があった。

「ごめんな」と謝ってくれたものの、「謝罪するなら金をくれ!」と往年の家無き子ばりに言いそうになったのは、ここだけの秘密にしておこう。


 内容に関しては、結局Nさんからほぼほぼ聞いていた通りだった。

 債務整理に既に入っている事。弁護士とやり取りをしており自己破産を考えている事。


「払ってやりたい意志はあるんだけど、借金2億近くあるんだよ」


 ―――は?

 おバカ!! 借金2億は幾ら幾つもの飲食店をマグロのように『泳がないと死ぬ』状態で働かせても返せるわけがないだろおバカおバカ!!


 流石に2億はひと桁額が違った。億の借金は予想していなかった。

 頭が痛い。ここまで来ると確かにどうにかして回すしか方策は無いとはいえ、正直言っていつかの死の日を迎えるためだけに働いていたようなものである。

 会社の債務が一口に俺達の借金と同じとは言えないとはいえ、絶句である。


 そりゃバイトの支払いすら遅れるわけである。

 そうなると前年の融資も単純に借金として持っていかれない現金のプールが出来ていただけで、別に天国へのカウントダウンはバリバリに鳴り響いていたのだろう。


「一応、今週末の売り上げや、店舗整理して出来る金額から一部でも出せたら出すつもりだけど、状況がわからないから……。色々確定したらまた連絡する」

「はい。ただ出ないと俺も厳しいし、出せないなら出せないで早く連絡と、国に申請出来るように未納分の何か証明出来るものをください。

 でないと俺も干からびて死にます」


 お互いにこんなことでやりあいたくはないという話はしたものの、出すものは出して頂かないと俺も立ち行かない。

 かといって、ここで訴えるだ何だという話をしても建設的ではない。

 向こうが未納を証明出来るものを出してくれるなら、まだ望みは繋がるかもしれないと言ったところだ。連絡が辛うじて取れる今なら、そういう方策の方が賢いだろう。

 社長が自己破産したら、どの道法的に金銭をかきむしる機会は失われる。


 ……加えて、もう今更なので、初年度の10月~4月分は忘れることにした。

 タイムカードなんて高尚なものもないし、出勤を記録した紙も無いし、俺の生来の甘さが招いたツケだと思うことにしておいた。

 我ながら、ズボラと精神的疲弊と生来のお気楽楽観視が重なって何もしてないのは問題だったと思うが、それを悔やんでも何も戻って来ないので、開き直るしかなかった。みなさんはやはり、法的手段に出れる証拠物件は幾つも残しておいた方が良いよ。うん。


 清々しい始まりから、限りなく詰んでる未来が約束された6月。

「さーて、この詰み状態と比較的やりたい仕事ラインナップという叶わぬ願望をどう擦り合わせて解消するかなー」と、俺は目から光を失って、労基の方角を拝む。


 世間って、本当弱者に厳しい……。

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