現在進行形の後日談

現在進行形の後日談1

 現在、完全引きこもり体勢を構築し、「働きたくないでござる」状態へと移行した俺。ありがたいことに、ネットの人から職の紹介の連絡もあったりした。

 まだ正直どうするかはわからない。同じ業界に飛び込むべきかもわからない。という感じである。

 出来れば本当にやりたかったことに挑戦したい――ゲームのシナリオライターだったりゲームの制作活動だったり、もしくは活字媒体関係だったり、その辺りの仕事を本気で探そうか。そういう気持ちの狭間で揺らいでいる。


 取り敢えず保留だとかいうのも虫のいい話なのだが、やはりこの一年の経験が響いているのか、安直に自分のやりたくない職種に就こうとすることに忌避感を感じてしまうのが悲しいところだった。

 

 まあ、そういう報告は置いといて、実はNさんとは連絡を取れた。


 社長に世話になった連絡をどうしたもんかと思ってたところに、Nさんの彼女から、Nさんが今どういう状態なのかという連絡が俺へと入ってきたのが、今回の発端である。

 正直、俺も全く状況は把握して無かったものの、彼女さんにも連絡してなかったのかい。となって、速攻で連絡を取りに行ったら、あっさり連絡がついた。

 俺と同様、やる気無くして家でゲームをしていたらしい。

 似た者同士かい! 変なところでシンパシー!

 結局キャンプには行く準備だけ完遂して、別途色々動きつつ休養していたようだ。


「いいからさっさと貸したメ〇テン3クリアしろよな!」

「いやー、勿論やっときます!」


 お互い笑いながら、わざわざ貸してくれたPS2のゲームの話をした。

 まあ別に仕事を抜きにすれば、俺達の関係は特に悪いものではない。

 仕事で相手するのは疲れたというだけで、良好な仲だ。でももう仕事で一緒は勘弁な(切実)


「で、今日連絡したのはさにあらず……」


 という切り出しから、諸々近況報告となった。

 大体は上の状態の説明と、仕事がほぼほぼ内定しているという話だった。

 これに関しては本当に良かった。彼自身もう店の売り上げから生きる分だけ引くという方策で食いつないでいたので、兄貴分にはしっかりとしたところで生きて欲しい。


「俺は内装含む感じで色々やるつもりだけど、料理とか作れるヤツ募集してんだ。

 お前も来るか?」


 そう問われたものの、これは丁重にお断りした。

 Nさんの下になるわけではないだろうが、Nさんの下、周辺で働くのは、恐らく疲労の方が先に立つだろう。

 それに出来れば自分のやりたい職種を探してみたいという、無理な願望を今はまだ掻き消すことが出来なかった。


 折角、丸っきり自由になったのだから、少し考えたい。


「そっかー……まあ何かあったら連絡しろよな」


 もしもの時は連絡すると返す。こういう面倒見のいいところは、良い人だと思う。

 まあ、ただこの後に続く話が、微妙にこの人のダメさを感じさせるところでもあるのだが。


「ついでに会社の連中に連絡とったら全員から着拒されてたわ。

 なんでだろうな?」

「当たり前や!」


 いや、もう本当。そりゃ着拒の一つや二つされるだろう。

 会社をかなぐり捨てたわけだし、この人の連絡を受けたら完全に面倒なことになること請け合いである。この人全ての非ではないにせよ、向こうからしたらそりゃ厄介ごとの種にしかならない。

 至極当然な帰結である。


「いやー、でもなー……まあ、社長の嫁さんの番号も知ってるし、まあ連絡についてはどうにでもなるんだけどな。

 俺もお前も先立つものがないとダメだからな」


 連絡云々に関しては、どうやら給料に関して連絡を取るつもりだったようだ。

 またこの時今更ながら土曜の朝揉め切った理由を知ったのだが、どうやら俺の給料の出る出ないに関して、社長が連絡を怠る事にNさんが完全にキレたらしい。


 まあ実際、五月分の給料はつい先日給料日を過ぎた頃に見に行っても入ってなかった。

 入ってなかったが先んじて連絡があったかというと無かった。

 ……うん、まあキレて当然だな!(笑顔)


 Nさんの下の者ならバイトでも給料が遅れても大丈夫、というブラックならではの激甘体質に対して、つきあい切れなくなったと語った。


 ただ、これは前年、みんな苦しんでるからと俺達もまたそれを許容して、なんとか店の収入などからやりくりしつつ、ある程度の現金売り上げも客に頼み込んで無理やり作っていたのも悪かったのだろう。

 それでやっていけるでしょ? と彼らに印象づけたのはよくなかった。

 みんな苦しんでるから、君らも苦しんで何とか現金を捻出して欲しい。という発想が、実に虫が良くて、実に間違ってることに、社長達もまた気づいていないのだ。

 気づいてて、目を逸らしているのかもしれない。


「悪かったな。ゆっくり休んでくれ。社長との給料関係は俺がまずどうにかしとく」


 俺が諸々キレて、しばらく休むことを決意したことにNさんは謝罪した。

 まあ彼の罵倒だ何だが俺のキレたことの一因だったことは、全く理解してないかもしれないが、それでも少しは溜飲が下がる。

 俺は社長への連絡を一旦やめて、Nさんに託し、その内一緒にキャンプに行こうという話をして、連絡を終わらせた。


 まあ、人間模様というのは、複雑怪奇だ。

 どんな人かなんて、一面だけでは測り得ない。

 このエピソードをまた連載中に変えて綴ったのは、度々記しているが、ただそこにある一面だけ見て人間を判断するのはよくないと思うからだ。

 一方で、どんな人間にもダメな面があり、それが目に余り、合わないようなら逃げ出すべきだと思う。

 俺も実際、仕事では絶対にこれ以上ウマが合わないと判断し、彼の下から離脱することを決意した。

 ただ、その仕事でウマが合わないからと、俺はNさんを全否定する気は無い。苦言はもっと呈すべきだったとは思ってる。


 6月1日。月の始まり。

 俺は今までの上司への情を捨てて、仕事の師弟からただの弟分へとなった。


 思いの外、清々しく、気が楽な6月のスタートとなったのだった。

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