第2話 うまい話には……
俺が正社員の話に失敗したのは知人のせいでもなんでもない。
俺のせいである。大体にして、何もしてこなかった人間が簡単に美味い蜜を吸えるわけが無い。
ただし問題となるのはその後だった。
流石の俺も、話として美味しいものの、自分に全く自信が無かったので、「不採用もあるのではないか?」と知人には切り出していた。
その際に親子ほどの差で年上になるだろう彼は、「今手伝っている飲食のプロデュースがある。そこで社員として事務と飲食の仕事をやってみたらどうだろうか?」と言ってくれた。
接客業に飽き飽きしていた俺は、「事務なら、まあ……」という感じで気楽に考えて返事をしていた。
彼は失敗した後、ちゃんとその仕事を紹介してくれた。
失敗に対しては不機嫌そうなのが見て取れたものの、自分の仕事の助けに他でなるならいいやという考えだったのだろう。
そこで俺は今のバイト先の社長を紹介される。
めちゃくちゃガタイの良い強面のアロハシャツの社長だった。
今でこそニックネームで呼ぶくらいに親しんで交流しているが、当時はかなりビビッてた。
そこで幾らか空く予定の飲食店の内観を調べる作業をともにしつつ、そのまま面接へと向かった。
某ファミレスでタバコを吸いながら、適当な面接をこなしつつ研修バイトとして時給900円からということで手の足りてない店舗で働いてもらうということで、スムーズに話はついた。
どれくらいの規模の店でどれくらいの展開をしててなどは話に無かったし、ぶっちゃけ聞いてもわからない気がしたので聞かなかった。過ち1+である。
そもそも、社員登用としての話で持ってきておいて、時給900円とかいう東京の最低賃金を割っている内容にしている時点でおかしい。
ただ、当時は話の成否も決まらない内に早々にバイト先も辞めていたことと、失敗で親を心配させたくないこと、今からまたバイト先を手ずから探す気力が無かったことなどが合わさって、深く考えずにお願いしますと頭を下げるばかりだった。
***
で、この後、更に本面接というのが入る事となった。
働いてもらう先の店長への面通しみたいなもんである。社長はあくまで社長である。
東京某所。電車で一時間かかる働き先へと来た俺を待っていたのは、めたくそ不機嫌そうでめたくそ恐い店長だった。
これがともに辛苦を分かちながら何度もマジ切れされ、俺もマジ切れしそうになりながらも、一年間と少し、一緒に頑張ってくれることとなる兄貴分のNさんである。
彼は不機嫌そうに俺の面接をしながら「社員になりたい? ふーん、そんなに?」「ゲーム好きなんだ? 世〇樹? へぇ」という感じで圧迫面接をかましてくれた。
勿論、俺に他の選択肢はその時点では見えてなかったので、一生懸命頑張りますと言えそうなことだけ言っておいた。
面接に関しては特に問題も無く、「じゃあその内連絡するから」ということで解散。二週間後から働いて欲しいと言われた。
勿論、バイト。そしてホールスタッフである。
―――事務やないやん……。
騙されたと思った時には遅かった。
俺の目が死んだ日の始まりである。
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