第8話 勝利の方程式
四月。春。
それは季節としてだけではなく、会社にも訪れる。
もう曖昧になっているが、末頃だったろうか。
我らが店に社長が何度も呼んではタダ飯タダ酒を与えていた投資家の一部と、ついに話の折り合いがついたという連絡があった。
そう融資の獲得に成功したのである。その額、一千万以上。
今すぐ手に入るという話では無かったが、確実に懐に入ってくるという。
俺とNさんは狂喜乱舞した。
この頃には、前の店舗をそのまま引き継いで支えてくれていたバイトのYさんは、俺に「泥船だから早く辞めた方が良い」という言葉を残して会社を早々に去り、他の社員でも離脱者が相次いでいるような状況だった。
なぜバイトの俺が辞めずにいたのかは、最早永遠の謎として貰って良いが、とにかくまさかの春の訪れに、俺もNさんも信じられないという形で、手を取り合って喜んだ。
Nさんのタンス貯金からのおごりで焼き肉も食った。うまかった。とてもうまかった。
色々と問題の多い人でもあるが、こういうところは優しく――下の者はちゃんとかわいがらないといけない、暴言は吐いても手は絶対に上げないなど、筋が通ってる人ではあった。
実際、風向きは少し変わったらしく、新しく女性のスタッフさんOさんも引き入れて、店をしっかり回していこうという話になる。
ただ、その前に他の店舗が落ち着いてない。という話になり、スタッフの足りていない店へと俺は派遣されることとなった。
だから俺はただのバイトだというのに……。
それでも、まあ会社がうまく回っていくためならと俺もまた外の店舗を手伝うことを承諾し、旅に出る。
新人のOさんの胃が、Nさんの罵詈雑言でやられないことを祈りながら……。
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