第11話 誰がために
ついに再びの給料難に直面した二月の末。
元々激動の一年を過ごした反動で、十一月辺りから精神的に荒んできていた俺は、金が入ると使ってしまう癖を抑えきれなくなっていた。余程ストレス自体は感じていたのだろう。
めちゃくちゃ使い込んでいたわけではなかったが、流石に家の更新や引っ越しに給料無くして堪えうるだけの手持ちは無くなっていた。
わかっておったろうにのう、ワグナス……ではないが、見えていた結末に対して、やはり甘さが先行するのは、悪いところである。
俺、反省。
勿論、反省しても金は降って来ないし、戻ってこない。
流石に社長達もそれでも尚給料を払えんとは言わなかったものの、分割でギリギリ満額近くなんとか……という危ない橋を渡るハメとなる。
この頃には、「ああ、あの夏の旅行とか十二月の誕生会とか、諸々の資金がどう考えても会社にダメージ与えてるじゃん……」とか、俺は遠い目でやっと得られたはずの普通の日々を懐古していた。
それでもどうにかこうにか引っ越しを済ませ、なんとか憂い自体は断ったものの、残すのはOさんのさよならと、不安しか残らない四月である。
三人時の体制では、俺はキッチン兼ホールヘルプでOさんに予約対応やホール対応をお願いしていたのだが、これが二人になるとOさんの仕事が全てこちらへ戻ってくる上、俺がここまでしていた仕込みの仕事も全て俺がこなすことになる。
こんな状況で、更に給料も出ないとなれば、当然俺のモチベーションは完全に死ぬ。というか死んだ。
ここで倒れなかったのはNさんを放っておけなかったのと、なんとなく店をここで放り投げられなかったからだ。
俺が脱走すれば、Nさんが色々困りそうである。そう考えると、流石になんのかんの言っても面倒を見てくれた兄貴分を捨て置けない。
まあそうは言っても、仕事が増え、今まで大分おざなりになってたホール業務が増えると、元々器用さは全く無いせいかミスやアラが増えてくる。
そうなるとNさんがやはりキレる。
しかし、俺は俺で「こんなん無理だから」というので不貞腐れる。
その上、Nさんは俺に仕込みやらの大体を任せて開店時間ギリギリに来るので、更に俺の怒りが倍率ドン。
そのやる気の無さで俺を責めてくるわけだから、俺の怒りのボルテージがマックスハートしてしまうというものだ。
悪循環とはまさにこのことを言うのだろう。
生来怒り慣れてない俺なので、結局そこら辺の怒りをぶちまけることこそなかったが、ここに来て遂に俺も全ての限界に到達しようとしていた。
四月の暮れ。当然のように給料の入らない月末。
落ちるクレジットの金と、落ちなかった奨学金の呪い。
独立支援機構からの魔の督促が迫る中、俺の爆発のカウントダウンも進む。
四月とは春。だが、春は遠く、芽吹くものは、未だ何もない―――。
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