九作目、生きる悲哀と臨床家を読んで

 神木 清隆様の作品『生きる悲哀と臨床家』を読みました。


 一言で言い表せない作品でした。

 児童施設編、番外編、附録、あとがきまで読ませていただきました。

 いやぁ、何と言うか読むのが少ししんどい個所がありました。

 文体に問題は無い所か読み易かったですし、専門的な話ではありましたが補足もあり然程悩むところはなかったのですが。

 問題は、その内容にありました。

 妙にリアルな所に対する身構えや、自身の過去の反芻、そして息子への思いなどが浮かんでは消えて、話を読み進めるのを邪魔しました。


 それらが何に起因しているのかは後に語るとして、まずはあらすじから。


 大学、大学院と臨床心理学を学び、児童養護施設に心理職として就職した主人公。

 しかし、学ぶ過程で凄腕の臨床家に出逢い、とんでもない力を手に入れてしまった。

 そんな主人公の臨床家としての旅路。


 はい、またもや作品のあらすじをそのまま持ってきました。

 これは私が下手に弄れないと思ったからです。

 それほどまでに、この話はリアルさが息づいているように思います。


 一言では言い表されない作品と申しましたが、面白いのか否かも正直言えば良く分からない作品でした。

 それは、私の志す物が嘗てあったパルプマガジン誌『ウィアード・テイルズ』に載って居た様な大衆娯楽小説であり、娯楽の為に消費される物語を書きたいと思っている身だからかもしれません。

 この作品は、娯楽の為に消費され忘れ去られて良い作品ではないと思います。

 この作品を読んで胸に去来した幾つかの事は、個人的な事に過ぎません。

 しかし、どの様な形であれ誰もが抱えている物ではないかとも思うのです。


 これ以上は無駄ない自分語りになり、作品の感想から大きく外れてしまいますので、書く事はしませんが、酷く揺さぶられた気持ちになります。


 あとがきを読むと何故小説として書かれたのか分かります。

 それでは、小説として読んだ際の感想は如何であったかと言えば、真に迫るものがあるとはいえ、起きた出来事を淡々と綴られているようであり、通常の意味で感情移入はし辛いです。

 どちらかと言えば、ルポタージュを読んだような、そんな感覚でした。


 私はこの分野には全くの門外漢、何処まで事実でどこからが虚構か分からないからかもしれませんし、主人公の神木先生の芯の通った行動が淡々と綴られているのでそう感じただけかも知れません。


 物語的な解決など全くなく、事実に即して書かれているような気がしてなりません。

 状況の良くない児童施設、そこには分かりやすい悪人が居る訳じゃなく、現実的な問題が積み上げられているのです。

 神木先生の行動で多少の風通しが良くなったかな? と言う所で、神木先生が新天地に向かうと言うのも、非常にリアルです。


 それでも、主人公の神木先生と子供たちが触れ合い、徐々に療法が成功して、状況が改善していく様子は純粋に嬉しいです。

 それでも、きっちり続けていかねば元の木阿弥、そもそも外科手術じゃないんだから、ぱっとやってぱっと治る筈は無いのです。

 日々子供達と向き合い、どの治療法が良いのか、試行錯誤しつつも、関係性を作り治療を進める事の重要性。

 医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲すと言う言葉を言った何某かの医者が江戸時代に居たと言いますが、それはそのまま当てはまるのだなぁと感心しました。


 橋田先生や神木先生の持つ力は、フィクションなのかなと思うのですが、人の心は良く分からない物ですから、実際には似たような事をやっているのかも知れないと考えると、ますます何処までが虚構なのか気になってしまいました。


 ひどく取り留めのない感想になってしまいましたが、纏める事も難しいので、この辺で。

 ただ、そうですね。

 こういう企画でも無ければ、私はこの作品を読まなかったと思います。

 それがこうして作品を読み、考えさせられながら感想を綴っている。

 それだけで、今回の企画を行った意味があるように思うのです。


 

 それでは次の感想は……8.なはこ様、参加作品は『グリムハンズ』

 12日までには投稿したいと思います。

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