十一作目、ルビヤの石を読んで

 星十里手品様の作品『ルビヤの石』を読みました。


 癖は非常に強いですが、恐るべき作品でありました。

 

 あらすじは作者様が書かれた物からの抜粋です。


 旅をして石を拾ったら、ドラクロワと名付けて育てよという占いによって、多くの占い師が集まり、占い族の村が作られた。十九年後、大公妃から占い族の村に奇妙な書簡が送られてきた。

「飼っていた猫が急に立ち上がり、二足歩行を始めて踊り出したので、猫が大公の跡取りになるかもしれぬ、是が非でも占ってほしい」。

 横笛占い師のブザーは猫を占いに大公邸に赴いたが、肝心の猫は逃げてしまっていた。ブザーは大公妃の怒りを買って、地下牢に囚われてしまった。族長ドラクロワをはじめとした占い族の村人たちは、流血占い師プーの父親のブザーを救うために、一族総出で様々な占いと計略で猫を探したが……


 猫が二足歩行を始めて踊り出した意味を知った時の、究極の絶望、そして…



 良く分からない? そうでしょうね、読み始めるまでは私も良く分からなかったです。

 そして、読み始めると非常に奇妙な感覚を覚えます。

 かみさんの書棚にあるエリアーデの世界宗教史を読んだ時の様な衝撃を受けたり、夢野久作のドグラ・マグラを思い出したりしました。

 エリアーデの方はともかく、ドグラ・マグラの方と内容が被って居ると言う訳では無いのですが。

 あの虚構と現実とが混ざったような、何とも言えない奇妙な感覚は、本作にも通じるものがあります。

 本作では、それについての説明も行われておりますが、それが余計だと思わぬでもない位に、幻想的で複雑な構造の小説でした。


 ただ、語られる真相の中で、ドラクロワのみが正し事をしたように思います。

 それまでの彼の行いは、我が強すぎる所があり、ジャイアニズムを感じさせる行いが見て取れたのですが、真相の中のドラクロワは僅かに違う印象を与えてくれます。

 私は、彼の行いがとても尊いものに思えるのです。


 正直に言えば、これはネタバレするべき話ではありません。

 ですが、最後までたどり着くのも大変な小説であろうと思います。

 文章能力の問題ではなく、敢えて行われている複雑な物語の構造が、壁の様に立ちはだかる為です。

 

 どの様な意味かと言うと、ドラクロワの未来の息子の話を不意に混ぜ込んだり、序盤のメゾン大公国の大公妃からの依頼の話が来る頃に、不意にオゾン創世神話を語りだしたりするのです。面白い話ではあるのですが、場面が急に飛ぶと混乱する読者も居るので、この辺は完全に読み手の感性が合うかどうかにかかってきます。


 無論、これらは後に有効な情報となって巡ってくるのですが、最初に飛び出した時は面食らいました。同じ名前の登場人物が全く別の行動を行っている場面も結構混乱しました。それでありながら、彼らの行いにはきちんと意味があるのです。この複雑な構造を物語としてきちんと描き切った作者様の力量は恐るべき物であり、ただただ感心します。


 タグにスピリチュアルとある通りに、中々不可思議な話ではありますが、その真相を含めて非常に興味深い物語でありました。


 その最後が、例え破滅であったとしても。


 しかし、また違った真相であったならば。或いは、中盤までの複雑で奇妙で不可思議な物語のまま推移していたならば……と思わずにはいられない部分もあった事は事実です。

 

 全てが明かされずとも、良いのではないかとも感じた力作でした。

 以上が私の感想となります。


 外伝も読みましたが、今回は本編のみの感想とさせてください。

 外伝も外伝で、幾つかの神話をモチーフとしながらも、人の脆さ、運命の移ろいやすさを、そして神話なのか、遠い未来なのか判別し難い独特な世界観を構築された作者様の力量が伺える出来であると思います。




 それでは、最後の感想を書く作品は、6.レー・NULL様、参加作品は『零の映写機希構』です。


 長らくお待たせしました。日曜日には感想を書いて投稿したいと思います。

 ルビヤの石を読んだキロールは明日の夜辺りに更新します。

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