八作目、エルジェイムで ~城勤めの兵士と菜園の魔王~を読んで

 転ぺん様の作品『エルジェイムで ~城勤めの兵士と菜園の魔王~』を読みました。


 率直に言えば、話の筋は嫌いではありません。

 ですが、説明不足の個所が多く、物語にはのめり込めませんでした。

 所々、盛り上がりも感じただけに、勿体なく感じました。



 まずは、あらすじから。


 サボり魔のアルフォース=ルビーが、幼馴染で騎士団長を祖父に持つ堅物ヴィルナリア=ロイ・レイブンといつも通りの日常を過ごしていた。

 偶々、序列一位の勇者ヘイルのパーティーを見かけると、魔法使いらしき少女が話しかけてあしらわれていた。

 

 あしらわれた魔法使いの少女カナデは、苛立ちを抱えたまま街を歩いていると、黒衣の錬金術師に出会う。

 それは僅かな邂逅に過ぎなかったが、後の出会いに意味を残していた。


 アルフォースはヴィルナリアを伴い、野菜を売る錬金術師であるリリーの元を訪れていた。

 野菜嫌いなヴィルナリアが、野菜を食べる事を確約させられたが、まだ日常の中の光景でしかなかった。


 勇者ヘイルが酒場で横柄に振舞っていると、黒衣の錬金術師が声を掛けた。

 まるで挑発するかのような物言いではあったが、人目を気にしてかヘイルは暴れるような事は無く、店を変えるにとどめた。

 その背を、嬉しげに見送る黒衣の錬金術師……


 アルフォースはヴィルナリアは、勇者にあしらわれていた少女の家を訪れた。

 魔法使いであり、生活の為に勇者のパーティーに参加したかったカナデの家である。

 初対面ながら意気投合(?)した彼らは、祖父以外は読まないと言う家の蔵書を読みに来てはと勧めた。

 その後はアルフォースの作ったトマト多めの魚介のスープで宴会となった。

 

 そして、日常を破壊する出来事が起きる。

 黒衣の錬金術師は眠る勇者の部屋に忍び込んだ。

 性格は歪んでいても一流のヘイルは目を覚ますが、既に黒衣の錬金術師の術中に嵌っていた。

 彼は、生きながら植物と変貌を遂げてしまったのだ。

 思考する事すらままならない存在に。

 その勇者を見ながら黒衣の男は名乗った。

 「私の名は、リリー――菜園の魔王・リリー=プリズナーだ」



 以上があらすじです。

 と言うか、ほぼほぼ第一話の概略です。

 私は一話を読むのが一番難儀しましたが、話が進めばそこまで苦労する事は無くなりました。

 作者様の書き方に慣れて居ない所為もあったとは思いますが、物事が大きく動かないと話の吸引力が働かない物だなとも感じますね。


 さて、上記あらすじで分かるように一話で多くの事が起きていますね。

 それもそのはずで、17万字強の作品なのですが、全六話の為非常に一話の文字数が多くなります。

 序章にあたる零話は二千字未満なので、17万字を残り五話で配分する形ですね。

 

 読むと分かりますが、一話の中で場面が変わるたびに副題がついています。

 この形式ならば、一話を一章として、各副題ごとに話を分けた方が良かったかと思うのです。

 一話で切られたら……と考えた末の詰め込みなのか、そう言うスタンスなのかは分かりませんが。

 ただ、あまり詰め込み過ぎても逆効果になると思います。

 読者は、ページをスクロールして最後まで読んでくれるとは限らないのですから。



 話は盛り上がるべき所では盛り上がりますし、主要メンバーは個性的であると思います。

 勇者が植物にされたところは私的には大分盛り上がってきた感じがして嬉しかったです。

 と言うのも、個性的な面々なのですが色々と情報が足らず、それで日常だけを綴られるのかと思うと私のモチベーションが心配だったもので……。


 それも杞憂に終わり、物語を読むぞと思った矢先に、少し首を捻る事が出てきてしまい、没頭しきれませんでした。

 最初から提示されていた事でもあるのですが……。

 

 そりゃ、作者様の作ったファンタジー世界ですから西洋風の名前のキャラが大福食っていても良いんですよ。

 和洋折衷の世界なんて今では結構ありますから。

 でもね、『インペリアルガード』の仕える相手が『王』なのは如何なの? と思ってしまったのです。

 細かくてすいません、でも、帝国を治めるのは皇帝、王国を治めるのが王。

 そこは『キングダムガード』でも良かったのではないかと。

 或いは、ここではインペリアルは王国を示すのだと一文あれば、良かったかなと。

 


 あと、既存のファンタジー世界に対するアンチテーゼだと思うのですが、幾つか気になった点があります。

 無論、勇者がクズなのは割と多くの作品でもあるので一向に良いのです。

 魔王が悪でないからと言って文句を言う人は今時いないでしょう。


 ただ、宗教の扱いは解せないと言うか、これじゃ信徒が増えることなく先細りで、権力を失うだけの連中にしか見えないのです。

 堅物のヴィルナリアすら『その信仰をあまりよく思っていない』と書かれています。

 作中にはそれ以降描写など出てこない部分でありますが、そんな状態なのに王家以上の力があると信徒たちが錯覚できる何かがあるとは到底思えなかったのです。

 それに、政治事に宗教を利用した方が統治も容易いとか考えてしまいました。

 魔王を討つのが人々の願いであるのならば尚更に、です。


 また、エルジェイムの政治に関しても、まともなのが騎士団長と王のみでは早晩に滅びるんじゃないかとか。

 忠誠心が低すぎると言うか、何と言うか。

 話の流れにはあんまり関係ないですけど、流石に王を舐めすぎな奴が多いのは如何な物でしょう?

 と言うか、この王様も若い男と書かれているにもかかわらず、何だか子供みたいな喋り方をすので仕方ないのか……。


 重箱の隅を突っつく様な物に過ぎませんが、そんな感じの物が幾つか出てくるとやはり気になってしまうのです。

 細かい事は百も承知しています、それでも気にせずにはいられないのです。



 はっきり言えば、主人公達の一人、私がアルフォースは苦手なキャラです。

 年齢が幾つくらいかはっきりしませんが、十代半ばか其処らでしょうか?

 男としか表現されていなかったので、もしかしたら二十代?

 女顔で、美形なようで、自身も自覚的にそれを利用している。

 何より、サボり魔だが才能はピカ一で、決める時は決める。

 でも、普通に「にゃ」とか言う……。

 何歳でも、ちときついです。

 

 正直、厳しい。読めるのか……。一話の冒頭を読み、本当に恐れました。

 一話目は会話のやり取りが主体であり、外見や表情に関する情報は少なく、言葉選びも私とは違うセンスでした。


 それでも、物語が動き出せば物語の力が私を読ませたと言っても過言ではないと思います。

 料理が後半は何だか現代的でも、不意に浴衣とか出てきても、例え苦手なキャラが主人公の一角でも、この話の力には敬服します。


 もう少し情報を……。町や国の全体像やどういう文化、世界なのかが分かれば、バルドの行いとその結果に余韻が持てたかと思うと、本当におしいと思うのです。


 長々と書いてしまいましたが、私の感想は以上です。


 次の作品は……12.神木 清隆様、参加作品は『生きる悲哀と臨床家』。

 多分八日くらいに更新だと思います。

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