十二作目、零の映写機希構を読んで

 レー・NULL様の作品『零の映写機希構』を読みました。


 独特な世界観を形成された作品でした。

 ファンタジーと呼ぶべきか、SFと呼ぶべきか迷いました。


 

 まずはあらすじを。


 主人公ヌルは見知らぬ場所に佇んでいたことを不意に自覚した。

 真っ黒な虚空の中に浮かぶ浮島の様な小さな世界に。

 そこで出会ったのは、混沌の管理者を名乗るレアル。

 教えられたのは、五人の管理者が管理するこの世界を神聖の管理者が破壊したのだと言う事実。

 その際に世界の核たる『零の映写機希構』にダメージが生じて、世界再生システムに不備が出て、奇妙な状態で世界は再生したのだと言う。

 浮島のような世界が幾つもあるらしいこの世界で、ヌルは何を見つけて、何を知り得るのか……。


 

 以上があらすじです。

 オリジナリティに溢れる世界観であり、中々面白かったです。

 描写が淡々としていて、戦闘シーンなどでは聊か盛り上がりに欠けるところはありましたが、それでも見事に書き切った物だと感心します。


 

 登場人物は個性的であり、それぞれに味がありました。

 ただ、淡々とした描写で話が進むために感情移入をするまでには至りませんでした。

 世界の謎や在り方に対する問いかけを優先した結果、個々人の問題やその心情を深く描写しなかったのかなと思われます。

 世界の在り方についてと書くと非常に重たい話かと思われますが、この点は淡々とした描写が効を奏して、読み難くなると言う事は無かったです。


 戦闘は結構発生しますし、話の流れで必要な物が殆どですが……。

 生憎と、淡々とした描写がここではマイナスに働いており、手に汗握ると言うほどの事を読者は感じないのではないかと思います。

 魔法や能力を振るう際に、宣言が必要なのだとは分かりますが、その攻防の描写があっさりしすぎていると言うのが、偽りなき本音です。

 心理的駆け引きや外見的な描写に力を入れれば、本作はより高い所に向かうのではないかと思うのです。

 とは言え、この位の描写が丁度良いと言う人も居りましょうから、何とも言えませんね。

 

 世界の謎については、真相が明かされると得心でき、そしてその結果にある種の無常感を感じる事が出来ます。

 ネタバレになるので多くを語る事は出来ませんが。


 全体としての感想は、世界観や話の筋は見事なのですが、描写にもう少し力を入れてくれたらなぁ、と言う物でした。

 それが出来たならば、かなり力を持った物語であったかと思うのです。


 感想は以上となります。

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