五作目、貌の無い仏を読んで
鬼灯朔の作品、貌の無い仏を読みました。
和風クトゥルフ小説ですね、市販のクトゥルフアンソロジーの一編を思い出す出来でありました。
まずは、あらすじを。
主人公弥七が茶屋で行きずりの侍から以前体験したことを話して欲しいと請われる所から話が始まります。
団子五本の報酬と引き換えに話を始めた弥七。
彼が語る内容は、貌の無い仏にまつわる一連の話、そこに登場するのは弥七と弥七の兄助蔵、そして質屋の
兄、助蔵が手に入れたと思しき貌の無い仏を見つけた弥七。
兄の放蕩にほとほと困り果てていた弥七は、その仏に気味が悪いものを感じて、売り払ってしまおうと質屋の駿河観柳を訪ねる。
駿河は弥七の持つ仏を見れば、表情一片。
この仏は元にあった寺に戻さねばと言う。
弥七は、愚兄が盗んだかと思い、謝る為にも自分もついて行くと駿河に告げて、揉めた挙句に一緒に行くことに。
そして、仏を返した弥七と駿河であったが、夜分も遅くなり寺に泊まらざる得なくなり……。
結構な部分を語ってしまった気もしますが、あらすじはここまでです。
感想ですが……これは上質な和風クトゥルフ物です。
怪談のテイストでありながら、しっかりと意味の分からぬ怪異が蠢いています。
一見普通の生活に混じる様に存在する邪教は、一部の識者にのみ知られていると言うのも、何処かラブクラフトの『レッド・フックの恐怖』を想起させます。
さて、より深く感想を書き記すためには、ネタバレせざる得ないのは、私の能力不足かも知れません。
ふわっとした感想のみで、あまり語らずに終わらせると言うのも手かもしれませんが、あえて踏み込んでいきたいと思います。
ネタバレが嫌な方は、貌の無い仏を読んでから、この感想を読んでください。
さて、この貌の無い仏ですが、序盤から並ぶキーワードでどんな話か分かってきます。
貌の無い仏、謎の寺、浅黒い肌ににやけ面の侍……。
これだけで何を示しているのか、クトゥルフ物を読んだ事がある方ならば察しが付くでしょう。
これは無貌の神、或いはそれの信仰に関する話であることは明確ですね。
あまりに有名になり過ぎて下手に出せば、ネタにしかならなくなる可能性すらあります。
それに、ニャル子さんなどのラノベ、アニメのイメージは強く、ニャルラトテップの名を出すとそのイメージに引っ張られる方も多いかとい思います。
別の読み方(クトゥルフ神話の神は読み方が幾つもある)にすれば、そのイメージも軽減できるとは思いますが、今作でこの名が出された箇所は、ナイアルラトホテップを称える言葉として有名な一文の訳であり、日本語表記は基本的にTRPGであるクトゥルフの呼び声のシナリオ集『ニャルラトテップの仮面』を訳した物で統一されているようです。
そう言う意味では、ニャル表示は避けようが無いところです。
話題がそれました。
今作でまず、私が感心したのは茶屋の名前です。
赤村屋、それが示すのはアーカムであろうと私は思うのですが、いっそ潔く感じます。
和風クトゥルフにおいて、アーカムの名を漢字で当て込み地名として作中に取り込むと言う手法はよく見ます。
ある種の遊びであり、各作者が無理なく如何に組み込むかを楽しんで様にも感じます。
その最たるは、朝松健の『夜刀浦領異聞』であろうかと個人的には思っています。
今作に出てくるの赤村屋は、そこまで凝っている設定ではないでしょう。
しかし、変に捻らずに分かり易い漢字でアーカムを当て嵌める、そしてそれが地名では無く茶屋であると言うと所を、非常に感心したのです
描写については、基本的に過不足無いかと思います。貌の無い仏の造形描写も確りと何処となく不安を煽る説明をしながらも、くどくはなく丁度良い塩梅に感じました。
ついつい装飾過多になりがちな所をきっちりと要所だけ抑えて書かれたのは作者様の力量による所であろうと思います。
物語自体は面白いし、上記の通り描写も過不足無いのですが、個人的におしいと思った点はただ一つ。
最後の、クライマックスの兄を貪り食らう者の表現が淡白であった事が少しだけ残念でした。
あの状況下で、恐ろしい物をまじまじと見る者は居ないと言うのは当然の事ですが、敢えてそこはもう少し描写して欲しかったなと言うのが、私の偽りない本音です。
オチを含めて、楽しめただけに其処が惜しいと思ってしまいました。
この辺は個々の感性や趣味に左右される所だと思いますが。
以上が、今作貌の無い仏の感想です。
さて、次の作品は……11.六連 シロク様、参加作品は『亜人の行進』
遅くとも今週末には感想を投稿したいと思います。
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