これは、俺が現実（リアル）に毒されていくお話

第20話 これは、俺が……

「おい、栖須もか」

　俺は今回のターゲットを睨みつける。

「あら、青春ごっこは終わったの？」

　対してもかも、こちらに鋭い眼差しを向ける。流石に怯みはしないか。

「いや、まだだな」

「あら、まだなにかキモイことをするの？」

「まあな」

「あんたもバカね」

「嫉妬してる奴程じゃあねぇよ」

「……っ！」

「誰かを蹴落とすことでしか自分を高められないなんて、哀れだな」

「……哀れなのはそっちでしょ」

「はあ？」

「どうせまた、清水に頼まれたんでしょ？　あの女に『助けて』って言われて、勘違いさせられてこんなキモイことしてるんでしょ。あんたのほうがよっぽど哀れ――」

「やっぱりお前は馬鹿だな」

「はあ!?」

「だから、お前は馬鹿だって言ってるんだよ」

　もか、お前は無知すぎる。

　あの環奈が「助けて」などと言うはずがないだろう。そんなことを言っていたら苦労しない。

　それに、俺は勘違いなどしていない。俺は、確固たる意思でここにいる。

　致し方ない。

　そのことを、もかにわからせてやろう。

「いいか、よく聞け」

　いや、やはり止めよう。

　もかだけでは駄目だ。何も変わらない。

　だから、この教室にいる人間全員にわからせてやろう。

　いじめに加担したやつにも、見て見ぬフリをして傍観者を気取っていた奴にも、わからせてやる。

　そして、この教室に漂う淀んだ空気をぶち壊してやる。

　俺は、すうっと息を吸って。

　そして――叫ぶ。

「俺はァ！」

　そういえばふと、わかったことがある。

「馬鹿で自分勝手で鬱陶しくてェ！」

　いつか環奈が言っていた。恋愛は面倒臭いと。なるほど、確かにその通りだ。なんせ、そのせいで俺は今、こんな柄にもないことをしてしまっているのだから。

「腹黒くて計算高くてェ！」

　でも、なるほど。もう一つわかった。

「強くて脆くてェ！」

　いつか環奈が言っていた。恋愛は面倒臭い、だが決して嫌じゃあないと。なるほど、確かに嫌じゃあない。むしろ、今はとても清々しい気分だ。

「優しくていつも笑っている環奈がァ！」

　そして恐らく、俺がこんなふざけたことを思ってしまうのは――。

「好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ！」

　俺が現実（リアル）に毒されているせいだ。