第11話 「SDガンダムワールド ガチャポン戦士2カプセル戦記」

 


 1989年3月発売のファミコン・ソフト。


 だが、ぼくがこのカセットを買ったのは、中古のゲーム屋であり。そのときすでに黒い箱はぼろぼろで、縁のところは印刷が剥げていた。中古の中古である可能性もあったが、中身も知らずに安い値段で購入したこのゲームに、あのころのぼくが夢中になったのは言うまでもない。


 SDガンダムというと、一時期めちゃくちゃ流行ったのだが、いまの人たちはどれくらい知っているのだろうか? 

 SD、すなわちスーパー・デフォルメは、本来8頭身くらいのキャラを3等身にしたり、おなじ比率で戦艦なんかを丸くデザインしたもので、あらゆるアニメ作品にこのSDが施されたものだ。


 「超時空要塞マクロス」の再放送で、オープニングが一部書き換えられて、バルキリーが3等身化したり、「バーチャファイター」の別バージョン「バーチャファイター・キッズ」なんかがそれにあたる。

 現在はチビキャラとして、もう普通のこととなっているが、むかしはスーパーなデフォルメだったのだ。


 で、このSDキャラであるSDガンダムが、ガシャポンで売っていたのかどうかはよく知らないが、とにかくSDガンダムがガシャポンから出てくるゲームであり、それをマップ上で移動させて、戦闘になったらモビルスーツ同士のアクションバトルで戦わせて、赤軍と青軍で戦争させるゲーム。それが「SDガンダム ガチャポン戦士2カプセル戦記」なのである。


 ただ、曖昧な記憶として、この前作のディスク・システムのソフトも買ったような気がするのだが、どうにもはっきり思いだせない。確か全然勝てなくて諦めたような気がするのだが。



 ちなみに、ガチャポンだったりガシャポンだったりするのは、誤記ではなく版権の問題で、当時は一般名称がガチャポンだったものが、いまはバンダイの商標がガシャポンだからだ。


 のちのシリーズも、ゲームキューブ版までやるのだが、今回はこのファミコン版、スーパーファミコン発売前のツイン・ファミコンでプレイした旧作について語る。





 「機動戦士ガンダム」。RX78モビルスーツの名称は宇宙世紀0078年を意味するが、放映当時の1978年の意味もある。


 当時は、アーケードはもちろん家庭用ですら、ガンダムのコンピューターゲームなどというものはなく、辛うじてパソコンのゲームでそれが存在したくらいだ。


 モビルスーツを操縦して、敵のモビルスーツを撃破する。そういうゲームはじつは、全然なかったのである。唯一この「ガチャポン戦記」だけが例外だった。



 本作は、SDではあるが、好きなモビルスーツを生産して、それを操り、敵のモビルスーツを撃破し、拠点を占拠し、収入をあげ、より強いモビルスーツを生産して、最終的に敵の本拠にいる強い『武者ガンダム』を倒してクリアである。


 マップ上の敵のモビルスーツアイコンにこちらのモビルスーツを隣接させて、あとはバトルスタート。


 戦闘はアクションバトル。8方向に動くモビルスーツに、コントローラーのAボタンとBボタンに割り振られた武器を使って攻撃する。ボタン同時押しで、特殊兵装が使えた。


 モビルスーツは結構新しいものまで登場していて、サイコガンダムなんかもいた。ただし、そこはファミコン。サイコガンダムは立方体の身体に頭がついただけの代物。実物とは似ても似つかないデザインだったりしたが。




 ガンダムを操縦したいという夢を叶えるため、さっそく生産したガンダムでザクに挑む。


 が、そこに待っていたのは、厳しい現実だった。


 アニメの世界では無敵だったガンダム。が、ゲームの世界では決して主役メカではない。ちょっとコストの高い1ユニットに過ぎない。


 「モビルスーツの性能が戦力の決定的な差ではないのだよ」とばかりに、ぼくのガンダムを攻撃しまくるザク。アニメでは喰らってもなんともなかったザクマシンガンが、痛い。痛すぎる。がりがりとHPを削られて、あえなくガンダム撃墜される。


 嘘だー! 嘘だと言ってよ、バーニィー!


 あ、いや、バーニィーはザクでガンダムに挑んだジオンのパイロットだから、彼にいっても仕方ないか。


 なんにしろ、モビルスーツの実戦は、アニメとちがう! アニメじゃない! ほんとのことさー!





 もう、CPUにぼこぼこにされました。


 このゲームは一応シミュレーション的なマップ構成、ただし六角桝ヘックスではなく正方形で仕切られているのだが、実際にはアクションゲームであり、戦略もくそもありゃしない。バトルで勝たなきゃ、絶対勝てないゲームなのだ。



 最初のころは、正直きつかった。


 まず、ビームライフルが当たらない。8方向、機体の向いた方向へ撃つのだが、これが当たらない。対して敵のモビルスーツは、「当たらなければどうということもない」と言いたげに華麗に動き回り、向こうはばんばんビームを当ててくる。


 じゃあ、ビームサーベルで、とBボタンに指をかけるのだが、これがまた、なかなか斬る瞬間に正面にいてくれない。


 とにかく、ジオンのサイコガンダムとか、デザインはアレなくせして、すげー強い。ジオングなんて、足がないくせに市街地にいて、やっぱ強い。


 すぐに連邦軍は諦めて、ジオン軍で挑んだのだが、がんばって作ったサイコガンダムは、敵にするとあんなに強いのに、自分が使うと頭のあるサイコロ。

 ジオングの有線式のアームなんて、射線軸がずれていて、なんとも使えなかった。


 ただ、後年ラングの弟さんが、ガチゲーマーだったらしく、聞いた話ではこのジオング、障害物に腕をひっかけて固定し、本体は障害物の向こうから敵を射撃するのがいいらしい。


 そして、敵が使うと異様につよいガンダム・ダブルゼータ。なんであんなに強いんだよ。




 ところが、ぼくはこのジオン軍のなかに、一筋の光明を見出す。




 と書くと偉そうだが、たぶん結構な人たちがこれに気づいたと思う。



──ゲルググが強い!



 連邦のモビルスーツの近接武器はビームサーベル。ジオンの場合はいろいろあって、ヒートホークとかヒートロッドとか。そして比較的高性能な量産型のゲルググの武器はビーム・ナギナタ。アニメでは石突のない、両端に刃のついた特異な武器。

 それをゲーム化するにあたって、Bボタンを押すと、ビームの刃がゲルググの周囲で、ひゅんひゅん回るのだった。切断方向は8方向。つまり360度。


 このゲルググで、ビーム・ナギナタを振り回しながら敵に接触すると、とにかくナギナタは当たるのだ。


 ここからはもうゲルググ様様だった。



 これを手がかりにバトルに勝ち始めるぼく。


 一度感じがつかめると、あとはどうにかなるものだ。


 やっているうちに、バトルのコツを掴んできた。


 最初はまったく当てられなかったビームライフルも、だんだん当てられるようになってくる。最初は勝てないと思ったCPUも、なんのことはない、人間様の学習能力には及びもつかない。どうやらファミコンは、学習型コンピュータではないようだ。



 慣れてくると、ガンダムはなかなか強かった。


 距離が離れているときはビームライフルで攻撃し、動き回る敵が接触する瞬間だけBボタンでサーベルを出す。そのために、コントローラーの右手の持ち方を裏返しにして、本来ボタンを押す親指ではなく、人差し指と中指でそれぞれのAとBのボタンを操作した。こうすれば、いちいち持ち替えなくてすむし、同時押しにも対応しやすい。


 いま思えば、画もがちゃがちゃだし、システムもへぼい。CPUの思考時間はあまりにも長く、敵のターンになったらトイレにいったり、お茶入れたりするようなゲームだったが、あそこで手に入れた操縦技術は、そののちもしばらくはこのシリーズで役に立った。


 そして、なんといってもモビルスーツ同士のバトルを味わうことができた、当時唯一のゲームであったのだ。

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