第21話 ロスト! その言葉に、すべてのハンターが震え上がった
PSOでは本発売の前に、ベータテストが行われた。
そのときのプレイヤーの一人が、ソフトに、ある問題があることをソニック・チームに報告したそうだ。
オンライン・ロビーで、所持しているアイテムを床に置き、そのままデータをセーブせずに切断。そして、ふたたびログインすると、ロビーにはそのアイテムがまだ置いてある。
と同時に、ドリームキャストのメモリーカードには以前のセーブデータにより、床に置いたはずのアイテムはまだキャラクターが所持していることになっている。
すなわち、アイテムが2つに増えてしまうわけだ。
そこで、ソニック・チームは対策を考え、オンライン・モードでセーブをしないでゲームを終了させると、すべてのアイテムが消失してしまうペナルティーが発生する仕様にした。
これが悪名高い、通称ロスト。
ただしこのロスト。オンライン上での通信障害やドリームキャストの読み込みエラーでも頻繁に起こった。つまり、何も悪いことなんかしていないのに、ペナリティーだけが暴走を開始したのだ。
特に夏。
熱暴走したドリームキャストは頻繁にフリーズを起こし、ステージ移動時のローディングが永遠に続いたり、戦闘中に画面が止まったりした。
もうそうなると電源を切るしかないのだが、それをやると、そのまますべてのアイテムが失われるという事態に陥るのだ。
そのためよく言われたのが、ドリームキャストを縦置きすると放熱し易いという噂。
また、もしローディング・フリーズしてしまったら、ワンチャンぶっ叩くと動き出すかも知れないという対処法。
おいおい、ドリームキャスト……、おまえは昭和時代の真空管テレビかよ。
このロスト。長くプレイしたハンターたちは、二度や三度、もしくはそれ以上の回数経験しているはずだ。
長い時間をかけてプレイし、やっと集めたレアアイテムやお気に入りの武器が、ある日突然消えてなくなる。この精神的ショックは計り知れない。ぼくもこのアイテム・ロストは何度か経験した。いやまじ、ソニチふざけるなと思った。
が、良いこともあったのだ。
フリーズして、落ちて、ロストしてもどると、みんな心配してくれて、いろんなものをくれるのだ。中にはなかなか良いものもあって、ちょっと得した気分にもなる。
実際に得することは少ないんだけど。
それでもプレイヤーたちの助け合い精神には胸が熱くなった。
ロストしたときには、みんなに助けてもらったし、ロストした人がいたらぼくもできる限りの協力はした。
あれは良かった。あのころPSOにいた人たちは、本当に気持ちのいい人たちばかりだった。
だからぼくらは何年も潜り続けたし、そこでの出会いを大事にした。
そして、他のゲームに行って嫌な奴らに遭い、つくづく良いゲームはプレイヤーが作るものだと痛感させられたのだ。
ちなみにこのロストという仕様。バージョン2からなくなる。
また、PSO以降のゲームでは、アイテム・データはサーバーの方で管理されるようになり、自宅のメモリーカードに保存されることもなくなった。
これもぼくらの屍の上に築かれた平和な世界のひとつなのだろう。
と思ったら……。
後年『PSO2』がスタートして、ゲームデータはすべてサーバ保存。ハードはPCやPS4だったのだが、ある時のデータ更新でバグがあり、この『PSO2』がPCハードディスク内のデータをつぎつぎと消去してしまう事件が起きた。
どうやらロストという妖怪だけは、死霊のようにネットの海に生き残っていたようだ。
恐ろしい話だ。
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