第9話 「電脳戦機バーチャロン」前編

 

 当時、ゲーム会社の新入社員にゲームの企画をさせると、毎年必ず出してくるものがあったそうだ。


 『巨大ロボット物』。


 しかし業界の常識として、巨大ロボット物は作るのが難しく、鬼門であった。そのため、巨大ロボット物のゲーム企画は必ず失敗することを分からせるために、セガが開発に踏み切った企画、それが「電脳戦機バーチャロン」である。


 ところが会社の思惑を裏切って、完成した作品は現在も続編が作られるほどの名作となる。今回のお話は、その第1作目の物語だ。




 1995年12月発売。第2作「電脳戦機バーチャロン2 オラトリオ・タングラム」が1998年3月に発売されるまで、現役として稼働し、その人気はまったく衰えなかった。「2」が出たときは、「1」の方が良かったという声も少なからずあったほどの名作アーケード・ゲーム。


 ジャンルは3Dアクション・シューティング。ただし対戦ゲームでもある。


 プレイヤーは、バーチャロイドという巨大ロボットを操作して敵を撃破する。自機であるバーチャロイドは画面中央におり、後方視点でのプレイになる。


 操作は双操縦桿ツイン・スティック。トリガーとターボ・ボタンが計4つついている。


 攻撃はバーチャロイドが手にした武器。バズーカだったりビームライフルだったり鉄球だったり。右のトリガーで右手の武器。左のトリガーで左手の武器が発射される。また両トリガー同時押しで、センターウェポンという特殊武器が使用できた。


 また、近距離(機体によって距離が違う)では敵に対してダブル・ロックオン状態となり、ここでトリガーを引くと近接武器に自動的に切り替わり、殴る斬るなどの近接攻撃が発動した。


 近接攻撃に対しては、両方の操縦桿を内側に倒してのガードが可能であり、逆に両方の操縦桿を外側に倒すと、機体はジャンプした。このジャンプにより、機体は自動的に敵の方向を向く仕様であった。



 個性豊かなバーチャロイドたち。ロボット・アニメのお約束を踏襲したシステム。美しいグラフィック、リズムのいい対戦、ド派手な演出。

 ゲーム空間内を走る色とりどりのビーム。ミサイルの爆光、炸裂する手榴弾、鋭く走るぶっといレーザー。背中のバーニアから火を放ち、青い炎の残像を曳いて亜音速で走るバーチャロイドが放つ効果音は、なぜか「装甲騎兵ボトムズ」のローラーダッシュ音!


 離れた相手に銃器で攻撃をしかけながら、距離が縮まったらサーベルを抜いての白兵戦に移行するさまは、まさに「機動戦士ガンダム」の戦いの流れ!


 こんなもん見せられて、プレイしたいと思わない男の子がいるだろうか? いやいない!

 もちろん女子もプレイしてました。



 そしてバーチャロイドのラインナップも素晴らしすぎる。



●テムジン

 白地に青(1Pカラー)、もしくは赤(2Pカラー)の主人公機的デザインの汎用機。大型のビームライフルは、近距離では大型のビームソードとなる。サブ・ウェポンは手榴弾。ゲージを全消費しての必殺技『グライディング・ラム』を持つ。



●ライデン

 重装甲に重火器を持つ大型機体。戦車のようなごついフォルム、両肩に強力無比なレーザー砲を装備している。



●バイパーⅡ

 朱色の高機動型。高い運動性能を持つ反面、装甲は紙のように薄い、別名エースの機体。シューティング・ゲームの自機をイメージして作られており、パイロットには敵の攻撃を全弾回避する操縦技術が要求される。この機体も必殺技の『SLCダイブ』が使えた。


●バルバスバウ

 脚のない機体。腕から放たれるリングレーザーは敵の攻撃を相殺する。主武器は、フローティング・マイン。また両腕を飛ばして上空から反射衛星砲的な攻撃をしかける。右手の近接攻撃は弱く、左手にいたっては不具合との設定。ダッシュ速度は低く、距離も短い。ただし飛翔能力は高い。


 とまあ、全機解説していくと長くなるのでここらでやめておくが、このバルバスバウは、実はちょっとだけ乗ってみたことがあるけど、ほんとうに難しかった。

 リングレーザーはダメージないし、フローティング・マインは、名前は格好いいが、ふわふわ浮いて漂っているだけの機雷だ。しかも反射衛星砲は滅多に当たらないし。

 これで対戦するのは、正直きつかった。





 バーチャロンは、リリース前からゲーム雑誌『ゲーメスト』で紹介され、話題のアーケードゲームになっていた。機体ラインナップが発表された段階で、みんなもうやる気になっていて、ログ夫くんはバルバスバウを、恥辱王ラングはバイパーⅡを使うと宣言していた。


 ただ一人、ぼくだけテンション低く、そんなに興味がなかった。ロボットのデザインで気に入ったものがなく、消去法でアファームドという機体にでもしようかと思っていた。


 アファームドは、下半身が迷彩、上半身が裸、頭がクルーカットという、なんか某格闘ゲームの軍人キャラみたいな機体。射撃武器はショットガン、サブウェポンは手榴弾。ただしこの機体は近接格闘専用機であり、その最大の武器は両腕に装備された『ダブル・トンファー』だった。


 バーチャロンでは、機体ごとに近接格闘に武器が切り替わる距離がちがう。近接格闘専用バーチャロイド・アファームドの間合いは広く、なんとスタート位置ですでに正面の敵機にダブル・ロックオン表示がされている。


 ここでセンターウェポン、すなわち両トリガーを引くと、アファームドは音速を超えるダッシュで敵にホバーしてゆき、左右のトンファーを右、左と横に薙ぐ。そのダメージ、全機隊の近接武器中最大。軽装甲のバイパーⅡなんぞは、九割のヒットポイントを持っていかれる。


 だが、対戦を始めた当初のぼくは、極めて勝率が悪かった。


 そりゃそーだ。アファームドが近接格闘専用バーチャロイドであることは、みんな知っている。当然誰も近づいて来ない。じゃあってんで無理やり間合いを詰めても、敵は横ダッシュしつつ、ミサイルを連射してきて、飛び込んだぼくへの置き土産にボン!ボン!ボン!と痛い砲撃を食らわせて去っていくのだ。


 飛び込もうとするぼくに対して、対戦で出会うライデンなんぞは、大抵は横ダッシュ攻撃をしかけてくる。

 それにあわせてこちらも横にダッシュして距離を離さず、右トリガーの横ダッシュ攻撃を仕掛けるのだが、これをやるとお互いの弾がお互いに全弾着弾したりして、もの凄い消耗戦に陥る。


 ただし、相手は重装甲な上に武器はバズーカ。こちらは中装甲ではあるが、武器はショットガン。ダメージ力に差があり過ぎる。しかもショットガンは距離が離れるとダメージが下がるらしい。なんだそりゃ。


 が、ある日、そこらのゲーセンで対戦してたときだ。ライデン相手に横ダッシュ攻撃の応酬を繰り返していたぼくは、天啓のようにはっと気づく。


 こちらが前に出ると、だいたいのライデンは横に逃げて撃ってくる。このとき、ぼくはいつも、間が開かないように同じ方向へダッシュしていたのだが、もかしてこの瞬間、同じ方向ではなく、さらに前へ出てトリガーを引けば、こちらの弾が当たるんじゃないか?と気づいたのだ。


 のちにゲーム雑誌で「交差法」として紹介される対戦技術だが、このときぼくはこれに気づき、対戦での勝率をあげた。


 すこしのち、仲間とゲーセンにいって、恥辱王ラングをぼっこぼこにしたのが、この技術である。恥辱王ラングはこのときすでに上級者用機体バイパーⅡを諦め、最強機体ライデンに乗り変えていたが、ぼくのアファームドは彼のライデンの弾を一発も喰らわず、こちらは全弾ぶちあてて撃墜しまくった。


 これは戦闘機の空中戦とおなじ理屈である。横に動く相手に対し、その六時方向、すなわち進行方向の背後から銃撃するとよく当たるという理論。つまり、敵機のベクトルとこちらの弾のベクトルが合っていないと、着弾しないという理屈だ。


 だが、同時に、すぐにこれではダメだと気づいた。



 アファームドでこれをやると、おっそろしく時間がかかるのだ。


 そう。近接格闘専用機体アファームドは、近接武器のダブル・トンファーを当ててなんぼ、なのである。


 そこからぼくは徐々に、戦い方をセンターウェポン・キャンセルでの高機動高速度戦闘へとシフトさせていく。


 センターウェポン・キャンセルとは、ダッシュ中にトリガーを引くダッシュ攻撃をした直後にセンターウェポンを撃つことにより、ダッシュ攻撃後の機体硬直をキャンセルできるのである。しかもアファームドは、距離が近ければセンターウェポンのソニックリングというほぼダメージのないビーム攻撃が、長距離超音速ホバーのついた近接攻撃ダブル・トンファーになる。これを利用して、ダッシュ攻撃と近接攻撃を連続させ、とにかく敵を追い詰めてゆく戦闘スタイルに切りかえていった。


 センターウェポン・キャンセルを行うと、アファームドはビーム・トンファーを出したまま敵を追いかけてダッシュする。止まると再びトンファーを抜き放つモーションからダッシュするため、延々ビーム・トンファーの青い光芒を引いての高速機動を繰り返す。


 まさに、青い彗星。近接格闘のVマックスだった。

 バーチャロンが現役引退してからのち、何年も経って秋葉原のゲーセンでこのゲームを見たとき、そのあまりの美しさとリズムの良さに感動したものであった。


 アーケードでの人気を経て、のちにセガサターンでこの「電脳戦機バーチャロン」が発売され、当たり前のように周辺機器としてツイン・スティックも発売され、ぼくらは当然のように購入した。




 楽しい時代だった。だが、家庭でバーチャロンがプレイできるようになっても、ぼくはゲーセンへ出向き、まだ見ぬ凄腕パイロットを求めて、出撃しまくっていたのである。



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