第15話 『グランツーリスモ2』前編


 ソニーが「プレイステーション」を発売し、その直後に自社で出したソフト。それが『グランツーリスモ』である。

 後年そのゲーム画面を見ると、映像ががちゃがちゃて驚くのだが、当時はまったく反対の意味で驚かされた。


 美麗過ぎたのである。

 もう、実写映像かと思うくらいのCGのできだった。これは画質だけの話ではないのだ。走る車の挙動が、実車そのままだったのも大きい。とてもとても、ゲームの画面には見えなかった。それくらい、当時としてはグラフィック的に進んでいたのである。




 一作目のグランツーリスモは、それほどハマらなかった。コントロールが難しいのだ。

 なにせ、これ、レースゲームではない。ドライビング・シミュレーターと称していた。


 タイヤの摩擦だけは少し底上げさせていたらしいが、あとはすべて物理計算で車が走っていたらしい。細かいことをいうと、対戦のときは少し挙動がちがったけど。



 ぼくが強烈にハマったのは、『グランツーリスモ2』だった。

 1999年12月発売。



 プレステ2が発売され、ただしまだまだソフトはそろっていない当時、プレステ1のソフトばかりを新型ハードのプレステ2でプレイしていた時期があった。


 プレステ2のすごいところは、プレステ1(もちろん当時は1とは言わなかったが)のソフトもコントローラーもメモリーカードも2で使えたところである。ただし、メモリカードは、1のカードを2で使用するとデータ破損する欠陥があった。ぼくはそれで、いくつかのゲームデータを失ったが、ソニーは大ごとなるまえに、しらーっと新型の1用カードを発売してくれたので、心底困りはしなかった。



 ぼくが『グランツーリスモ2』、以下『GT2』を初めてプレイするのは、当時のゲーム仲間のログ夫くんの家でだ。彼が買った『GT2』をプレイさせてもらい、すっかり気に入ってしまったからだ。


 コースはたしかタヒチだったと思う。ダートコースで、タイヤが滑るのに、マシンは扱いやすかった。


「いいでしょ」と言われ、「うん」と答えて、すぐに買った。


 ソフトを起動し、ライセンスをこなし、中古車を買う。黒いマツダRX7FDタイプ。『GT1』では曲がりすぎて扱いづらかったFDだが、さすがにコントロールに馴れて来たのか、すごく走りやすかった。


 レースに出て、金をため、パーツを買って、マシンを強化してゆく。


 が、『グランツーリスモ』というゲームは、ここからが他とちがった。

 1の時も、ぼくらゲーマーは驚いたのだが、マシンを強化すると、時として「遅くなる」のだ。


 エンジンのパワーを上げる→スピンしやすくなる。


 ブレーキの性能を上げる→コントロール不能になる。


 最高速度をあげる→坂道で止まると発進できなくなる。




 ぼくの中古のRX7も、徐々にパーツを装備して、順調にパワーアップしていったのだが、すると驚くことが起こった。


 曲がらなくなったのだ……。


 中古で手に入れたときは、綺麗に旋回していたうちのRX7が、パワーアップしたら、コーナーに入るとへろへろと頭を振って、全然曲がらなくなり、マシンがコーナリング中に泣きを入れてくるようになったのである。



 えー、と思った。どうしよう……。

 それが正直な気持ちだった。

 そこでぼくは、当時知り合いにいた、B級ライセンスを持っている車好きの人にメールで質問したのである。



 その人は、明快にマシンセッティングに関して教授してくれた。

 スプリングの基本。ダンパーの調整。スタビライザーの意味。トー角、キャンバー角。


 とくに、スプリングに関する解説が助かった。

 ぼくはフロントのスプリングを強くすれば、旋回能力があがると勘違いしていたのだが、実車ではフロント・スプリングを弱くしないと旋回しなくなるらしい。


 とりあえずメールの指示通りにマシンセッティングを変えて、走らせてみた。


 えー!っと思った。


 曲がるのだ! もう、カミソリのような切れ味で、曲がるのである。曲がる、曲がる、マジで曲がる!

 ほんと、爽快なコーナリングだった。あのヘタレな車と同一車とは思えなかった。それくらい、マシンの動きが違ったのだ。



 ぼくはそのとき、メールで教えたくれた人も凄いと思ったが、なによりこの『グランツーリスモ』というゲームが凄いと思った。


 マシン・セッティングだけで、同じ車が見違えるように変わるのだから。



 そんなときに、ゲーム仲間のログ夫くんから、「みんなでタイムアタックやりませんか?」というお誘いがきたのだった……。




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