第13話 『電脳戦記バーチャロン2 オラトリオ・タングラム』後編




 それは2008年の夏だったと思う。


 ふと立ち寄った本屋でなんとなく開いたゲーム雑誌。そこに、懐かしい『オラタン』の写真が載っていた。

 へー、いまさらなんだろう?と記事を読んでみて、ぶっ飛んだ。


『電脳戦記バーチャロン2 オラトリオ・タングラム』、Xボックス・ライブ・アーケードで発売決定。


 な、な、な、なんですとー! 


 Xボックス360は、当時我が家にありました。絶賛稼働中のハード。ふつうにネットにつながっていて、当時の友達と楽しく対戦してました。そのXボックス360で、『オラタン』が発売されるというではないですかっ! しかも激安。


 記憶では1000円以下だったのですが、調べたら1200円くらいになってますね。なんにしろ、そんなファミレスで食事するより安い値段で、あの『バーチャロン』が手に入る。

 興奮するなというほうが無理でした。


 しかも、ネット対戦対応。操作は、パッドを使ったツインスティック方式。これは、プレステで発売された『バーチャロン・マーズ』なんかとおんなじ方式で、パッドの二本のレバーをスティックかわりに使うんですが、人によっては苦手だったみたいなんです。が、ぼくは問題なく操作できてました。



 翌年の四月。発売されたら、さっそくダウンロードして、対戦しまくりました。

 あのバーチャロンが、ネットで普通に対戦できるんですよ。もう感動しましたねえ。しかも対戦相手にことかかない。そして、みんな面白いプレイヤーばかり。


 毎晩、出撃して、いろんな方々と対戦。強い人も多かったんですが、ぼくでもそこそこ勝てる感じのレベルでしたね。そして、名作ゲームの対戦は、勝っても負けても楽しい!


 ひさびさに、パッドを持つ手が興奮でぶるぶる震えるような対戦が出来ました。いやー、幸せな時間だった。



 ということで、ここから『バーチャロン2 オラトリオ・タングラム ~俺んち戦記』を開始いたします。




★第一戦  ストライカーに近接で挑む★



 あのころのぼくの、Xボックス360での戦績は、たしが勝率50%を少し超える辺りでした。つまり、勝ったり負けたりで、いちばん楽しいレベルのプレイヤー。


 使用機体は、『アファームド・ザ・バトラー』。近接戦闘専用のバーチャロイドで、センターウェポンの近接武器『ダブル・トンファー』の威力が凄まじかった。

 ぼくはロボットゲームをすると、それがガンダム物でも、『アーマード・コア』でも、とにかく斬りつけに行くので、バーチャロンでも近接戦闘用のアファームドだったわけです。


 で、当然プレイ・スタイルは、開始早々斬りに行く。アファームド・ザ・バトラーは、スタート位置ですでに敵をダブルロックオン状態。トリガーさえ引けば、音速でホバーしていって、左右のトンファーを叩きつけて吹き飛ばします。

 が、そこは相手もすべからく、手慣れたパイロット。斬りつけてくるのは百も承知で対策を立てている。



 ある日であったプレイヤーは、ぼくと同じアファームド系列の機体『アファームド・ザ・ストライカー』に乗っていました。ストライカーは、射撃能力をあげたアファームドであり、火力が高い。半面、近接攻撃武器は、アーミーナイフでちょっと威力低めに調整させていました。


 そのころのぼくは、スタートと同時にダブル・トンファーで斬り込んでおいて、様子見で近距離にて発動するクイックステップを用いて、敵機を中心に回り込み、クイックステップ近接を出して片手トンファーで斬りつけてみるというパターンを多用していました。

 初撃のダブル・トンファーはまず当たらないだろうという読みからの選択です。


 ぼくはそのストライカーにもいつものようにクイック・ステップ近接で死角に回り込み、あさっての方向へナイフを振り回している相手をぼっこぼっこに叩きのめした。


 が、たしかこのときは、回線の不具合かなにかで、切断してしまったのではないでしょうか?

 バトルは、ノーサイドになり、直後彼からメッセージが来ました。


『録画して近接攻撃の勉強をしたかったんですが、残念です』


 ↑当時の360はすでに、対戦したプレイヤーとメッセージのやり取りをしたり、プレイ画面を録画したりする機能が備わっていました。


 後日彼とは再戦し、はてさて録画はできたのだろうか? メッセージのやりとりはその一回こっきりだったが、わからないんですが、ぼくは一応自分が持っている攻撃のパターンは惜しげもなく全部彼に見せたと記憶しています。


 しかし、360版『オラタン』で対戦をはじめた初期であったこの頃から、ぼくはある事実に気づきはじめていました。彼の近接の勉強うんぬんの言葉をもらった辺りから、ぼくはそれを意識し始めたのかもしれないです。


 そう。


 ──『アファームド・ザ・バトラー』は、近接を狙っていては勝てないという事実に……。


 ぼくはそもそも、近接攻撃がやりたくて、アファームドを機体に選んだんです。初期の『電脳戦記バーチャロン』をゲーセンでプレイしているときから、とにかく近接近接近接。強引に、あるいは無理やりにでも近接攻撃にもっていくプレイスタイルでした。

 当然、逃げる相手には、手も足も出なかった。が、そんな相手にも、無理やり間合いを詰め、「卑怯者!」とばかりにトンファーを振るっていたのです。

 空振りが多かったんですが(笑)。


 ところが、です。このころになって、やっとぼくは気づくのです。

 近接攻撃専用バーチャロイドであるアファームドの近接戦闘能力は、実は大して高くないことに!


 たしかに、ダブル・トンファーのロックオン距離は異様に長い。そして、トリガーを引いてホバーしていく速度も音速。

 が、そのあと、アファームドは一度立ち止まり、そこからトンファーを1回、2回と振る。これがあまり速くない。つーか、遅い。

 ただし、そのダメージはでかい。


 ということは、です。

 慣れた相手には簡単に対処できてしまう。この攻撃をくらってくれるプレイヤーは、アファームドのトンファーに恐怖を感じており、ビビッて下手なリアクションをとる、素人プレイヤーだけということなんです。

 アファームド・ザ・バトラーのダブル・トンファーは、それほど性能がよくない。つまり、バトラーは、実は、近接が特に強いというわけではないのだ。対戦ゲームだから、当たり前だが。


 このころになって、ようやくぼくはこの事実に気付きました。


 アファームド・ザ・バトラーは、とにかく近接に持ち込む機体ではない。これは、「近接に行くぞ、近接に行くぞ」と相手にプレッシャーをかけ、敵のVアーマーを削って戦う機体なのだ、と。


 バトラーの武器は、トンファーではない。近接攻撃を出すための異様に長いダブル・ロックオン距離、そこからの音速の長距離ホバー。これを連発して相手にプレッシャーをかけ、動かして、そして、そこからむ狙うのは、ソニック・リングによりVアーマー・ゲージの削りなんです。


 ソニック・リングとは、アファームドがトンファーを外したときに飛んでいく青い光の環っかなんですが、これは敵弾を相殺してくれるので防御にもなるし、当たるとかーなーり、敵のVアーマーを削ってくれます。

 逃げる相手に勝手に当たることの多いこのソニック・リング。こいつを少し意識的に当て続けるだけで、戦闘時間の半分を超えるあたりから敵のVアーマー・ゲージのほとんどなくなり、なんと強装甲のライデンでさえ、バトラーのマシンガンで面白いくらいにHPを奪えるんです。


 ボムとソニック・リングで敵弾防御をしつつ、敵のVアーマーを削り、戦いを有利に導く。そのために必要なのが、この「近接に行く」と見せかけて相手にかけるプレッシャーです。さんざん追い回して、隙を突き、Vアーマーを削り、そこまでやって初めてこちらのダブル・トンファーを当てるチャンスが巡ってくるんです。


 それに気づいてからのぼくの勝率は、ぐんぐん上がって……とならないのが、このゲームの深いところでした。というより、そこに気づかなかったら、勝率はどんどん下がっていったことでしょう。

 それくらい、上手いやつが多かった。



 ★第2戦 そいつは絶対に脱いだ! ★



 毎晩ネットで電脳対戦していると、おんなじ奴に遭遇することが多いです。

 Xボックスのプレイヤーネームは、基本がメールアドレスなんで、意味不明な文字と数字の羅列であるから、名前で覚えたりはしないんですが、よく接敵するプレイヤーは、そのプレイ・スタイルで分かることが多かったです。


 ぼくがたまに出会うそのライデン・ライダーは、独特でした。

 彼は必ず、『脱ぐ』んです。



 『オラタン』のバーチャロンには、機体によって特殊行動を持つものが多かったです。

 テムジンやアファームドの必殺技や、フェイ・イェンのハイパー化。グリス・ボックのICBMなんかがそれですね。

 で、ライデンの場合、正式名称をなんというのかは分からないんですが、ダブル・ジャンプ中にスタート・ボタンで、装甲をすべてパージできました。

 脱衣とかキャスト・オフとかいうんでしょうか? なんにしろ全装甲を吹き飛ばし、パジャマ・ソルティック状態になれました。速度は速くなる反面、装甲がないのだから防御力は激減。おまけに、HPもほぼ無くなったと思います。


 彼は、戦闘時間の残りが少なくなると、勝っていようが負けていようが、必ず脱ぎました。

 つまり、勝つために、自分を有利に導くために、装甲をパージしているのではないんです。完っ全な『こだわり』でした。



 ある日の戦闘。

 ぼくは彼に遭遇し、ぎりぎりの攻防の末、あと一撃先に当てた方が勝つというシチュエーションにまで持ち込みました。

 ぼくはダウンした彼のライデンに対して間合いをつめ、近接戦闘にもちこみます。立ち上がったライデンに対するぼくの攻め手は、ジャンプからの近接、バトラーの『浴びせ蹴り』!

 跳躍して半回転し、踵を彼の脳天に落とす。が、彼の行動はまさかの『脱衣』でした。

 ぼくのはバトラーの踵と、吹き飛ぶ彼の装甲が交錯する。互いにあと一撃分のHP。


 ライデンのアーマー・パージに攻撃判定があって相殺されたのか? あるいはあの瞬間は無敵状態なのか? いずれにしろ、ぼくの浴びせ蹴りは不発に終わり、立ちはだかるライデン裸体の前で尻餅をつくことに……。


「うっそーん!」


 負けました。まさかの、敗北。でも、腹抱えて笑った!



 ★第3戦 ニートの洗礼★


 休日だった、ある日。ぼくは昼間っから『オラタン』に繋いでみました。


 こんな時間にネットでゲームしている人間はいないと思ったのですが、さすが『オラタン』。何人かいます。フェイ・イェン・ザ・ナイトと戦ってみました。


 ……ボコられました。



 いやもう、強い強い。鬼神のよう強さ。これが昼間っからゲームしているニートの実力かっ!


 とにかく斬る斬る斬るの連続で、反撃の糸口もつかめず、切り刻まれて終わり。こちらは敵の姿を真正面にとらえることすら困難な状況でした。

 いやー、バッカじゃないの?ってくらい強かったです。





 また別のときです。


 印象に残っているテムジンに遭遇します。彼も強かった。というより、彼は、ぼくが遭ったなかでは、破格の強さでした。


 もう勝率が90%を越えていて、対戦数も、ぼくより一桁上。


 どんな戦い方するんだろう?と思いつつ、バトル・スタート。開幕からビビりました。


 撃ち続けるんです。ずぅーーーーーーっと。


 たしかに、テムジンには、『マシンガン』という裏技があります。延々ビームを撃ち続けることができる。ですが、彼の「撃ち続ける」は、なんかレベルがちがいました。

 パン!パン!パン!という、単純な連発もあるんですが、そこからドン!という大玉も混じるし、位置も変わるし、ダッシュもまじる。

 とにかく華麗に立ち回って、延々撃ち続ける。


 しかも誤射がない。こちらはバリバリと砲火をシャワーのように浴び続け、一手も反撃できずに死ぬ。これが通常の格闘ゲームであれば、延々ガードということになるのでしょうが、バーチャロンの射撃にガードはない。

 着弾着弾着弾で、さらに着弾着弾着弾。着弾の衝撃で機体が硬直し続け、なにもさせてもらえない。


 だのに、不思議と彼の戦い方に嫌悪感は感じないんです。


 そう。おそらく、ぼくの実力がもっともっと上で、あの連撃を外して反撃に出たとすると、そのときの対処法が、彼にはさらに二段三段と用意されている。そんな余裕の連射でした。

 つまり、様子見のジャブでノックアウトされました(笑)。



 対戦ゲームでは、ときとして、あまりにも強いプレイヤーに出会い、負けた悔しさよりも、その強さに感動させられることがしばしばあります。ぼくはそのテムジンの強さに深く心を動かされました。素晴らしかった。


 ……っていっても、ただのゲームの話なんですけどね。




 ★最終戦 さらば『バーチャロン』★


 楽しかったXボックスの『電脳戦記バーチャロン2 オラトリオ・タングラム』も、このあと少しして終わりの時を迎えます。


 ある日Xボックス360の電源ボタンを押した瞬間、いつもはブーンといってグリーンの点滅を見せて起動するXボックス360が、赤い点滅とともに沈黙したのです。そして、そのまま彼は目覚めませんでした。


 『レッドアイ・デス』。赤い眼の死。そういわれたXボックス360の最後でした。


 Xボックス360には、初期出荷分に不具合があり、電源が入らなくなって故障するんです。マイクロソフト社の発表により、シリアル番号からぼくのXボックス360が、その初期出荷分で、やがて『レッドアイ・デス』になることは分かっていました。

 が、マイクロソフト社の修理保証期間はすでに終了しており、ぼくのXボックス360は、ネット上で「壊れます」と公言させているにも関わらず、その壊れる時期が遅かったため、なんの保証も受けられませんでした。


 ぼくはXボックス360を燃えないゴミの日に捨てました。おそらくXボックスを買うことは2度とないでしょう。


 さらばXボックス。さらば『電脳戦記バーチャロン』。ぼくの戦争は終わりました。












 と思ったら、え? なんですって?


 『電脳戦記バーチャロン』。PS4で発売決定なんですか?




 ……この世から、戦争の無くなる日は、来ない。




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