第28話 ストーカーとの対決


 PSOでは、お友達になってギルドカードを交換すると、そいつがオンラインかどうか確認でき、そいつのいる場所に飛ぶことができる。


 恥辱王ランスは毎晩オンラインで、いざその場所に行ってみると鍵付きの部屋でアオイさんと二人してプレイしていることが多かった。


 またかよ、よくやるなと思いつつ、ふと見るとそこに、椅子に座ったレンジャーがいた。

 このころのPSOロビーでは、ボタンひとつで椅子が表示でき、キャラクターがそこに座ることができる。とはいえ、ロビーでだまって椅子に座っているレンジャーは何をしているのだろう? そういえば、前も見たことがあるぞ、このレンジャー。そのときもこいつは、椅子に座ってじっとしてた。


 が、何日かしてそのレンジャーの謎は解けた。

 正体はストーカーだったらしい。


 ストーカーについて今更説明する必要もないが、1995年のカプコンの格闘ゲーム『ヴァンパイアハンター ダークストーカーリベンジ』のころは、ストーカーという言葉は悪い意味での使われ方はしていなかった。


 ストーカーという言葉が今で言う「ストーカー」になったのは、その少しあとのテレビドラマでメディアが面白おかしく広げたためで、不思議な話だがそのあとからストーカーというものが現実社会に多数出現するようになる。

 有名な桶川のストーカー殺人事件は1999年に起きている。


 が、ぼくがストーカーの実物を初めて見たのはPSOであり、それがあのレンジャーだった。


 なんでも、恥辱王ランスの話だと、アオイさんは最初工場で一緒に働いている人とPSOをしていたらしい。

 が、だんだん彼がつきまとうようになって、仕事から帰ろうとすると工場の門のところで待ち伏せするようになったらしい。


 そこで、その話を聞いた恥辱王ランスは、アオイさんと付き合うことにし、二人っきりで部屋にこもってプレイしていたらしい。


 その様子を見ていたブルースは、「あいつら『森』でエッチでもしてるんですかね」と憤慨していたが、PSOでエッチはいくらなんでも出来ない……と思いたい。


 が、実際はストーカーを拒絶するポーズであったようで、まあ恥辱王ランスは半分本気で付き合っていた感じもするが、それで二人が出てくるところをあのレンジャーはロビーでずっと待っていたということだった。

 ちなみに、PSOではロビーに出ずともログアウトできる仕様である。


 こえー。まじでこえー。

 あそこに座ってずーっと待っていたのか、あいつ。



 そして、それから一週間も経たない夜。いきなり恥辱王ランスから携帯メールが届く。

「大変です! すぐ来てください。これからストーカーと対決します」


 なんだ?と思って接続すると、どうやら恥辱王ランスがアオイさんのストーカーと対決するらしい。指定された場所に行ってみると恥辱王ランスとアオイさん、ぼくの知らない恥辱王ランスの知り合いがずらりと並んでいる。


 やがて、そこに件のレンジャーが現れた。話題のストーカーだ。

 恥辱王ランスが前に出て、他の連中が彼の後ろに立つ。


 なにこれ?と思いながら、ぼくも恥辱王ランスの後ろに他のプレイヤーとともに並ぶ。

 まるで、サッカーのフリーキック時の壁みたいだった。


 が、当人たちにとっては重要な問題なのだろう。

 とはいえ、大勢の仲間を後ろに並べてストーカーに対峙する恥辱王ランスは、まさに虎の威を借る狐であり、わが友ながらちょっと情けない。

 

 そして、とつとつとストーカー相手に彼の行為を非難し、アオイさんの言葉を代弁するランス。

 なんか、長々と語っていたが、最後に、

「さあ、子どもの時間は終わりですよ。もう帰りなさい」と、相手に告げていた。


 まあ、相手はネットばかりではなく、リアルでもストーカー行為をしていたようだから、多少きついことも言っておいたほうが良かったのかもしれない。

 が、そのために大勢後ろに引き連れて、相手を威圧するやり方はどうかなぁ。


 その直後、アオイさんのところにはストーカー氏から携帯メールが届き、「君は君の下らない人生を歩め」みたいな言葉を投げつけられて、彼は消えたらしい。

 まあ、一安心ということか。


 ランスの後ろに並んでいた一人のプレイヤーがアオイさんに「心配しなくていいから」と声を掛けていたのが印象的だった。といっても、ぼくらネットのゲーム仲間に、リアルのアオイさんを守る力はないのだが。


 何日かして、その話をぼくから聞いたブルースは、興味深そうに耳を傾けていた。

 ストーカーとの対決の時、彼はいなかった。呼ばれなかったのが、呼ばれたけど来なかったのかは知らない。



ブルース「で、その後、どうなったんすか?」

きいちこ「さあ? 今はランスはアオイさんと一緒には潜ってないよ」


 事件が解決し、ストーカー問題が片付いたら、アオイさんは姿を見せなくなった。

 すでに恥辱王ランスは用済みということらしい。


 ブルースはからからと笑った。

 ぼくも笑った。




 こののち、PSOの新作はニンテンドー・ゲームキューブで発売される。新しい武器、新たなステージ、新システム。


 ぼくらはみんなしてこのゲームキューブ版に移行したが、なぜだろう? ドリームキャスト版のようなドキドキする感覚は薄れていた。


 さすがにやり込みすぎたのだろうか?


 そうではない気がする。ドリームキャスト版のPSOは、画期的かつ斬新ともいえる優秀なコミュニケーション・ツールであった。


 分かりやすい吹き出しチャットとか、ワードセレクト、シンボルチャット。キャラメイクもパターンが異様に豊富で、肌の色から目の色、髪型はもちろん、身長から体型までクリエイトできた。


 が、反面ゲーム自体はスカスカだった。


 絶対に出ないレアアイテムとか、ゲームバランスのおかしさとか、そしてロストという狂気の仕様。

 ぼくらはそんなスカスカのPSOの中で、ソニック・チームに文句をいいつつ、なんのかんので仲間と楽しくやっていた。


 でなけりゃ毎日何時間も繋いだりしない。ゲームしないで意味もなくおしゃべりしていた時間も異様に長かった。


 あのスカスカな部分に、ぼくらは工夫とアイディアでいろいろな物を注ぎ込んだ。スカスカだったから、いろんなものを注ぎ込むことが出来たのだ。


 あのときの『ファンタシースターオンライン』には、ぼくらのいろいろなものが詰まっていた。友情もあったし、喧嘩もあった。チートも、垢バンも、人の死まであった。


 あそこはぼくらの宝物であり、理想の世界だったのかも知れない。


 いいゲームはプレイヤーたちが作る。だが、容れ物を与えてくれたのは、あのゲームを作った開発者の人たちだった。

 ぼくはその人達に感謝の言葉を送りたい。


 あの時のぼくたちに、あの素晴らしい世界を与えてくれて、ありがとう、と。



                  《PSO編 完》    

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むかしのゲームの話をしよう 雲江斬太 @zannta

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