第6話 「ルマン24」

  


 なんかだんだん長い話ばかりになってきちゃったんで、ここらで短い話もいれよう。


 アーケード・ゲーム「ルマン24」である。1997年リリース、またもやセガである。


 黄色い筐体で、これは人気のなかったレースゲームだ(失礼)。


 だが、事実シートがふたつ並んだツイン筐体であるにもかかわらず、隣で人がやっているのに当たったことはほぼなかった。


 画面には「通信対戦可能」と文字がいつも表示されているが、通信といっても隣の人との通信対戦で、しかも内容が「ルマン二十四時間レース」を元にしたものだから、通常の通信対戦ではなく、隣のプレイヤーが同じコースを走っているという、それ以上でもそれ以下でもないものだった。


 ただぼくは、このゲームが気に入って、バイト帰りに毎日のようにプレイしていた時期があった。



 ゲーム内容は単純。レースゲームで、ステアリングとブレーキ、アクセルで操作。ギアはアップとダウンがある形式。コースは周回コース。


 ピットスタートで、発進すると、20位。ここから周回するたびタイムが加算され、自分より順位の高いアザーカーを抜いてもタイムが加算される。


 画面上部に時計があり、走行した時間が表示される。これが24時間に達するとゴール。もちろん実際の24時間ではなく、架空の24時間。ただし、もっているタイムが切れるとゲームオーバー。


 ぼくの場合はだいたい1コンティニュー。200円で24時間走り切り、クリアしていた。このとき1位だと、スペシャルステージへ行けて、なんか凄いマシンとタイマン勝負ができた。基本毎回1位でクリアしていたが、この凄いマシンには負けることも多かった。


 そんな程度の腕ではあった。



 乗っていたのはマクラーレン。こういうのはGTカーというのだろうか。一般道を走らないF1ともちがうレーシングカーである。フルカウル・ミニ四駆みたいなデザインのマシンだな。



 毎日立ち寄って、日課のようにマクラーレンでクリアし、帰って行く。一緒にやっている友達もいなかったし、それどころか隣のシートに座る人すらいなかった。

 たまに座ってもイチゲンさんのようで、画面上に1Pと表示された相手をぼくは、必ず抜き去った。ちなみにプレーは必ず左側のシート、すなわち2P側だった。




 で、このルマン。そもそもがちょっと変わったレース・システムなのだが、もうひとつ他のレースゲームと変わったところがあった。


 コーナーでステアリングを切ると、タイヤが青い炎を上げ、ドリフトするのだが、このときに思いっきりタイヤグリップを消費してしまう。

 たしかファミ通の記事か何かで、ドリフトしながら加速する方法を紹介していたが、それでもタイヤは消費してしまったのではないだろうか? ぼくは試しもしなかったから、分からないが。



 とにかくタイヤを消耗してしまうと、ちょっとステアリングを切るだけでタイヤが滑って走れない。こいういときは、ピットインするのだが、これは凄いタイムロスだ。


 あとで調べたら、ピットインしても順位は下がらなかったらしいのだが、なんにしろデメリットがあったことには変わりない。



 そこでぼくは、タイヤを消費しない走法を編み出した。漫画『F』のイルカ・ペイントからとって、勝手に「イルカ」と名付けたコーナリング方法だ。


 やり方は極めて簡単。


 ステアリングを一瞬だけ切り、その瞬間アクセルを一瞬だけ緩める。

 短いコーナーでは、一回。長いコーナーでは、複数回。

 これをやると、タイヤが火を吹かない。結果としてグリップを失わない。ぼくはこの走法を編み出しからは、一度もピットインしないで走り続けることができた。

 ただの一度もピットインせず、最初から最後までグリップ走行。タイヤが滑ることは全く無かった。



 さて、その走法を編み出してからも、ぼくは黙々と走り続けた。きっと他にやるゲームがなかったんだろう。毎日暇つぶしに走っていた。


 すると、ある日一周のラップタイムが縮み始めた。


 普通に走ると、一周1分20秒。これは普通の人のタイムである。


 それがだんだん縮み始める。イルカを使ってからは、1分15秒が基本だった。というのは、タイヤはちょっと滑らせると消費してしまうので、ドリフトさせると基本一周もたない。


 ところがある日、この1分15秒からタイムがまた縮み始めた。1分14秒、1分13秒。何秒まで縮んだのかはちょっと記憶があやふやだ。1分11秒か10秒くいらじゃないだろうか?



 ところが、ある日、いつもの新宿ではなく、お茶の水のゲーセンでこの「ルマン24」を発見してプレイしたときのことだ。



 どうやら何かの設定が違ったらしい。走り出したマクラーレンが異様に速かった。


 あっという間にラップタイムが1分10秒を切ったのを覚えている。もうこれ、絶対何かの設定がちがっていると分かった。このタイムはあり得ないのだ。

 友達に聞いたが、「さあ? そんなことあるんですかね?」程度の返事だった。あとで調べたら、そういう設定があったらしい。


 ただ、この『ルマン24』でタイムアタックの魅力を知ったのは事実だ。そしてレースゲームにおける車種の性能差という厳しい現実も(笑)。



 まあ、それでも、ゆるく楽しんだ一時期だったな。思い出のゲームではある。




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