第10話 「電脳戦機バーチャロン」後編


 「電脳戦機バーチャロン」は自由度が高い。そのためプレイヤーによって個性的な戦い方をする者が多かった。


 ある夜新宿で会ったテムジン。対戦場所がライデン・ステージだった。

 CPU戦でライデンが登場するステージね。


 で、あのステージは中央に立方体の障害物があって、最初敵が見えない。


 開始と同時にそのテムジンは立方体の上に飛び乗って、微動だにしない。


 「むっ」と思った。こいつ挑戦してやがる。


 こちらも以心伝心、その立方体の上に飛び乗る。


 そこは狭いながらも正方形のステージ。当時流行のお立ち台。


 そのうえで向かい合ったぼくたちは、矢庭に近接武器を抜き放ち、斬り合いを始めた。


 斬り、ガードし、回り込み。吹っ飛ばされてステージから落ちる。すかさず立ち上がってジャンプし、ステージに復帰すると、ふたたび斬り合う。



 あの夜は、えんえんやりあった記憶がある。が、ステージセレクトがあったわけではないから、コンティニューしたかは記憶がないけど、楽しかった。バーチャロンはたまに、こういう「漢」なプレイヤーがいるから楽しい。



 が、逆のパターンもある。


 バイパーⅡで乱入して来て、延々逃げるスタイルのプレイヤー。


 金入れて入ってきて、もうスタートと同時に逃走を開始するのだ。最後の最後まで逃げ切る。それで勝てないからさらに不快になるのだが、こいつホント何しにきてやがんだと思った。


 この逃げ逃げバイパーは、一時期流行ったが、やがて廃れた。みんな相手にしなくなったのもあったが、やっている当人も面白くなかったのだろう。




 ゲーセンで、現役可動を二年以上つづけたバーチャロン。最終的には、行きつくところまで行った感がある。


 もう終盤のプレイヤーのレベルは驚異的だった。


 かく言うぼくも、下手なりに結構戦えていた。


 とくにガードリバーサルなんかを覚えると、その楽しさは倍増だった。あの高速格闘は既存のどんなゲームより、はるかに速かったと思う。




 『ガードリバーサル』。

 バーチャロンの近接格闘に仕込まれたシステムである。これは相手の近接攻撃をガードした瞬間トリガーを引くと、超高速での反撃が出るというもの。


 上級プレイヤーは、これに超小ジャンプによる相手のガード外しを組みあわせて戦っていた。


 ぼくが高田馬場で出会ったバイパー・ドライバーは、こちらがトンファーで斬り掛かっていくと、それをガードリバーサルで返してきた。


 これはたまにバイパー・ドライバーがやる手なのだが、アファームドのダブル・トンファーのひとつめ、右のスイングをガードした瞬間ガードリバーサルで返す。すると、左のトンファーが出るまえに反撃が入り、こちらがやられる。


 最初やられたときは、何かと思った。なにせ、斬っている最中に、バーン!と一撃くらって後ろに吹っ飛ばされるのだから。


 だが、この高田馬場のバイパーにそれを喰らったとき、ぼくはすでに対策ができていた。


 立ち上がり、ふたたびダブル・トンファーで斬り掛かる。


 右のトンファーをスイングしたところで、こちらはガード・キャンセル。ガードで攻撃モーションをキャンセルする技で、アファームドは一つ目と二つ目のトンファーの間で、攻撃モーションをキャンセルできた。


 そこへ相手のガードリバーサル!をこちらがガードしてリバーサル返し。吹っ飛んだのは相手!


 バイパーⅡの装甲は薄い。アファームドのトンファーを一撃でも喰らえば、HPゲージは真っ赤だ。

 こちらが一本とった。


 が、次。


 ふたたびこちらのトンファーを受けるバイパーⅡ。一つ目を振ったところでガードキャンセル。からのガードリバーサル返し……たらガードされてさらにガードリバーサルで返されて、吹っ飛んだのはこっち。


 アホか! こいつ!


 と、めちゃくちゃ楽しかったです! あっと思ったら吹っ飛ぶあの攻防。あれほどの高速戦闘は、他には絶対なかった。



 そして、そろそろ「バーチャロン2」の噂が聞こえ始めたころ、もっともレベルが高いと噂の新宿西口スポーツランドの2階に、対戦を観覧しにいったことがある。


 正直そこで展開されていたバトルは、ちょっとハイレベル過ぎて、ぼくはさすがに乱入することすらできなかった。とにかく、こいつら全員ニュータイプか?という世界である。



 たとえば、ライデンとドルカスのバトル。


 開始そうそう、左にダッシュするドルカス。対してライデンは、ドルカスが動いたのと反対方向へ機体正面を向けてレーザーを撃った。

 ライデンのレーザーは強力無比の固定武装だが、まったくホーミングしない。これを中距離以上で当てようと思ったら、射手は敵の動きを見越してレーザーを事前に撃っておく「置きレーザー」という技術が必要だった。


 が、このときの、ライデンは、完全に明後日の方向へレーザーを撃ち放っていた。


 見ていたぼくはもちろん「なぜ?」と首を傾げる。


 が、つぎの瞬間、左にダッシュしていたドルカスが高速で切り返し。右へと回り込んでいる。そしてまるで、ライデンが撃ったレーザーに吸い込まれるように当たっていったのだ。


「…………」


 さすがに開いた口が塞がらなかった。あのパイロットは、未来が見えるのか? あるいは脳波が読めるのか?




 他にもすごいプレイヤーがいた。


 近接超人のアファームド。


 アファームドの近接の超人は、トンファーなんぞ使わない。ショットガンで殴る殴る殴る。さらに殴る殴る殴る。殴って殴って殴り殺す戦闘スタイル。


 だが、敵もやられてばかりではない。一瞬のうちに背後に回り込む。


 バーチャロンは後方視点だから、敵が背後に回り込むと、画面には映らなくなる。


 そして次の瞬間死角である背後から猛烈な勢いで斬りかかってきた。

 が、アファームドの近接超人。無雑作にショットガンを持ち上げてガード。背後からの攻撃も見えるらしい。







 また、中央に設置された超大型画面には、ある対戦台のプレーが大写しにされており、そこではテムジンとバイパーⅡが近接格闘真っ最中。


 バーチャロンをプレイしたことある人は、知っていると思うが、通常のダブルロックオン状態でトリガーを引いた近接攻撃は、剣をずばっと一振りして終わる。

 いわゆる居合のモーションだ。


 が、超上級プレイヤーの近接は、モーションにガードキャンセルが全部入っているため、斬って行ったモーションでキャンセルかけると、テムジンもバイパーⅡもビームサーベルを抜いたままガードポーズをとる。そしてそのままリバーサルで切り返して行く。


 そのため、2機は抜き身のビームサーベルを手に、延々剣戟を演じる剣術スタイル。


 それは、ぼくの知っているバーチャロンの動きではなかった……。



 長い間プレイヤーに愛され、その最高性能を引き出され、極限まで研ぎ澄まされた操縦技術によって操られたバーチャロイドの戦い。

 あれこそは、まさに電脳世紀の到来であり、美しい泡沫うたかたの夢であった。




 そして、もっともレベルの高いプレイヤーが集って最強を決めた最後の全国大会。


 そのとき優勝したニュータイプ・オブ・ニュータイプが駆った機体は、あのバルバスバウであったという。



 電脳世紀、それは、一緒に戦ったほくですら、ちょっとついて行けない、ぶっ飛んだところまで行ってしまった世界だった。

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