第3話 「バーチャファイター2」前編
「誰がここまでしてくれって、頼んだんじゃーーーい!!」(←→→P+K)
月刊ゲーメストに掲載された、「バーチャファイター2」のゲーム画面写真を見た瞬間のログ夫くんの叫びである。
なに大げさなこと言ってんだと正直思ったが、見せられたページを見て、さすがのぼくも息を呑んだ。
それはもう、ゲーム画面なんて生易しいものではなかったのである。一瞬、なにが印刷されているのか分からなかったほどだ。あの衝撃は忘れられない。
「ストⅡ」の画面がアニメ画だとするならば、「バーチャ1」の画面は記号だった。
三角を基本とするポリゴンで描かれた格闘キャラたちは、「レスラー」とか「ニンジャ」とかを模した一種の記号であったのだ。
だが、「バーチャファイター2」のゲーム画面のなかにあるもの、それは人間だった。
鍛え上げられた筋肉に包まれた格闘家たちが、激しい身のこなしで相討つ姿が、そこには切り取られていた。。あの画面を見せられたぼくは、江戸時代の人間がテレビを見せられた時くらいの衝撃を受けていた。
それほどの出来だったのだ。
「バーチャファイター2」のリリースは1994年冬。とにかく衝撃的だった。
ロケテスト開始と同時に筐体が置かれたゲーセンに赴き、ロープで仕切られた列に延々並んで順番待ちしてプレイしたものである。
モーション・キャプチャーされ、テクスチャーマッピングが施されたキャラたちは、まるで人間。それがもの凄いスピードで流麗華麗に動くのである。それもそのはず、ゲーム・プロデューサーの鈴木裕氏は、この「バーチャファイター2」を制作するにあたり、取材で中国まで出向いて、本物の八極拳を見てきたくらいであるから、その拘りが窺えるというものだ。
キャラクターが二人増え、1からいるキャラも新しい技が増えた。ステージも一新。川を流れる筏の上で戦ったり、雷鳴轟くステージで殴り合ったり。
ウルフのジャイアント・スイングの豪快さ。サラのサマーソルト・キックの鋭さ。アキラの崩撃雲身双虎掌を初めて見たときの衝撃もすごかった。
震脚と同時に打ち込まれた崩拳、一瞬で側面に回っての靠(肩による打撃)、それを喰らった相手が吹っ飛ぶまえに背後から当てる両手の掌打。まるで一撃かと思うような3連撃を3方向から一瞬で叩き込む大技は、3Dポリゴンを得て初めて表現できる芸術であった。
とにかくすべてが規格外だった。
そしてそれらをプレーしているぼくたちは、時代の最先端に立っている感触を握りしめていた。
とにかくあのころは、ゲーセンそのものが「バーチャファイター2」一色で盛り上がっていた。
一部の格ゲー・マニアが盛り上がっていたのではない。本来はゲームなんかしない真面目そうな女の子が普通に対戦台へ座って戦っていた。しかも異様に強いなんて当たり前。
あの当時は、みんながみんな「バーチャファイター2」で戦い、あのゲームで強いことが、一番格好良かった。
ゲームをしている奴が、青白い顔をした貧相な男でなく、仕事がバリバリ出来て女にもてる奴。そんな時代だったのだ。
そして、プレイヤーたちの質もぐんぐんあがっていた。
高度な空中コンボ。一瞬の間合いの攻防。ダウンしても追い打ちを逃れて立ち上がるスキル。大技をガードしてからの反撃の投げ。相手の反応が1フレーム(60分の1秒)でも遅れれば、投げをスカらせるしゃがみパンチ。それがスカれば、すかさず下段投げで引っこ抜いてくる投げキャラたち。
目で見た瞬間には、もう指が動いている。その世界だった。
では、当時の「バーチャファイター2」の攻防をいくつか紹介しよう。
まずは単純な連携ではあるが、効果の高い『コンボ池袋サラ』。
バーチャの有名プレイヤー池袋サラ氏が作ったコンボで、コマンドはPK→PK。
ただこれだけ。パンチのあとにハイキックがつながり、キックが大きなモーションなので、これをガードした相手が下手に反撃すると、そのあと最速で出てくるエルボー(→P)をくらい、ダブルジョイントパッド(→PK)に繋がれて膝蹴りで高く空中に舞ってしまう。
対処法は最後までガードなのだが、それを読まれると投げが来るという連携だ。
次が『屁こき投げ』。これも有名プレイヤーのブンブン丸氏が開発した。
コマンドはPKG←↙↓↘→P+G。
←↙↓↘→P+Gの部分は投げコマンドなので、別の投げ技に変えてもいい。ブンブン丸氏は、この屁こき投げを使用して大会で優勝。そののち新宿のゲーセンで150連勝だとか180連勝だとかいう記録を打ち立てたらしい。正確な数字を僕は知らないけど。
この技の命名者は、これまた有名プレイヤーの新宿ジャッキー氏。
なんで、投げ技の前にPKGがつくだけで、それが強いのかという理由だが、バーチャ2では、相手の打撃技に対する反撃技として、PKというものが安定してあった。
相手の技をガードできた直後にPK、すなわちパンチ、キックで反撃すると、それが確実に入ったのだ。そのため、大技をガードされたら、G、すなわちガードは定石であり、この反射行動は上級プレイヤーであればあるほど自動的に行われた。
打撃技を出す→ガードされる→すかさずこちらもガードしないと反撃をくらう。
という流れだ。
で、PKGという瞬間的で連続したボタン入力をすると、キャラクターはパンチからキック、とみせてこのキックを、膝が上がったあたりで戻してしまう。PKをGでキャンセルできるのだ。上級プレイヤーには、このPとKの出るのがちゃんと見えた。
あっと思ったときにはもう指がガードボタンを押している。
が、その瞬間には先行入力で投げコマンドが打たれている。気づいたときには、敵のウルフは「ふーん!」と吠えてこちらの両脚を掴みに来ていて、ぐるぐる3回転半回されて空に飛ばされるのだ。
ただ、この上記ふたつは、強力な連携であるが、それが「来る」ことが読めれば対処のしようがある。
このあと紹介するのは、システムのぎりぎり、対処法がほとんどない強烈なコンボだ。
(後編に続きます)
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