第5話 「R360」





 『R360』。といっても、Xboxのことではない。


 SEGAが発売した体感型アーケードゲームだ。ただ、知らない人も多いかも知れないなぁー。

 ぼくの知る限り、最高にアホなアーケードゲームだった。あれに比べれば、昨今のVRなぞ、笑止千万である。





 アーケード・ゲームは対戦格闘やカード式、クレーンゲーム等と、いまや各方面へと多様的な進化を見せているが、それ以前、体感式という名のもとに、様々な大型筐体が発売された。



 各社がいろいろな試みを展開していたし、こちらの記憶も不確かなので、その経緯を統括的に述べることは難しいが、ぼく個人の感想としては、最初に目についたのが、SEGAの『ハングオン』だった。




 これはスチール・ステージの上にバイクがあり、テレビ画面はカウルがくる場所に設置されている。プレイヤーはバイクに跨り、ハンドルを握り、ステップに足をのせ、そしてそのバイクを体重移動によって傾けてコーナリングする体感ゲームだった。


 なんにしろ、アイディアがすごい。


 ただ、惜しむらくは、このバイクを支えるスプリングが結構強く、しかも乗る人の体重によって動きが違ってくる。このゲームを、本当に跨ってプレイしていた人は全くおらず、地に足つけて、手でバイクを傾けて遊んでいた人が、ほとんどすべてだった。

 アイディアは凄いが、すんません、あんまり面白くなかったです(笑)。




 そして、このあと登場するのが『スペース・ハリアー』。シューティング・ゲームなのだが、なんと筐体が動く。小型のゴンドラ状のビークルに乗り込んで、敵を撃ちまくると、自機の動きに応じて乗っているビークルがぐいぐい傾くのだ。これは衝撃的だった。

 かなり流行ったし、テンポも良かったので人気だったと思う。シューティングはあまり得意でないので、それほどハマらなかったが。




 そして、おそらくこの『スペースハリアー』のヒットを受けて発売されたとおぼしき『アウトラン』。

 これは楽しかった。シューティングの次はドライブゲームである。

 赤いオープンカーで、海辺のロードをかっ飛ばす的な。


 もちろん小型自動車型のビークルが、ぐいぐい動く。



 筐体がミニサイズの自動車くらいあるサイズだが、ある人はこの『アウトラン』の大ファンで、筐体を買い込んで、自宅の部屋に置いたとか。その後どうしたのであろう?




 で、この筐体が自動車になっているというアイディアは、SEGAが気に入ったのか、世間のニーズか、案外発売されて、どこのアミューズメントか忘れたが、ぼくは『セガ・ラリー(おそらく2)』の豪華版をプレイしたことがある。


 これはもう、白と緑に塗られたセリカが2台どーん!と置いてあって、ステージに上って、ドアを開けて運転席に入る。正面のスクリーンにセガラリーの映像が流れ、操作は本物のステアリングとペダルだった。ギアはどうなっていたか忘れたが。


 そして当然、セリカの車体はプレイに合わせて傾いた。凄いけれど、凄すぎてあまり興奮しなかった。


 まあ、これはアーケードゲームじゃなくて、アミューズメント・パークのアトラクションだったが。企画的に『ジョイポリス』のような気がしないでもないが、はっきりとは思いだせない。




 あと、細かいところで気に入っていたのが、『ギャラクシー・フォース』。

 これはなかなか置いているところがなくて、当時は中野サンプラザの上の階にあったゲーセンに唯一あった。



 筐体は円形で、その中央に可動式ビークル。これに乗り込んで、宇宙を舞台にしたシューティングゲームをプレイする。一回200円とか、300円とかしたと思うが、なんにしろ雰囲気が良かった。


 プレイに合わせてビークルが傾き、回転する。筐体が円形だから、360度方向へ回るため、プレイ後、乗ったときとちがう方向へ降りるのが当たり前。結構場所をとる筐体だった。



 だが、このコックピットは素晴らしかった。なんとサイドスティック方式なのだ。


 通常飛行機の操縦桿は、真ん中についている。が、サイドスティク方式といって、右側面に操縦桿をつけたF16やF22などの戦闘機も存在する。そして、この『ギャラクシー・フォース』もサイドスティック方式。


 いやー、良かったです。たまの贅沢で操縦してました。雰囲気があった。ゲーム画面もド派手な宇宙空間で、フレア立ち上がる太陽表面での空中戦とか、燃えたな―、フレアに焼かれて。






 そして、次に出てくるのが、『アフターバーナー』。

 これは名作でした。


 大人気のうちに『アフターバーナーⅡ』になっていて、いつのまにかスロットルレバーがついたんですが、なにか当時のセガのアホみたいな拘りが感じられ、体感ゲームとしては最高の出来といっても過言ではないのではないでしょうか?




 ゲームはシューティング。自機はF14トムキャット。


 これが、前方からヘッドオンで迫ってくる敵機や、後方6時方向から襲いかかってオーバーシュートしてくる敵を、機銃と弾数制限のあるミサイルで撃ち落とす。ミサイルはちゃんとロックオンカーソルが出る。


 スロットルレバーでの急減速や、逆にフルスロットルからのアフターバーナー・オンによる急加速など、決まった映像しか流れないはずのシューティング・ゲームなのに自由度が高かった。



 ステージも夜間があったり、空中給油があったりと拘りの内容。演出もど派手、ミサイルは飛行機雲を吹いてばんばん飛び回るし、撃墜された敵機は大爆発を起こす。



 操縦桿をいっきに横に入れると、自機であるトムキャットがくるくるとロールするのも格好いい。



 そしてもろちん、筐体が前後左右にぐいぐい傾いた。ビークルは解放式ではなく、屋根まで覆っているため、中が薄暗くてコックピット感も満載。

 これは、ぼくは下手ながらも、結構やりました。


 なんにしろ、家の近くのゲーセンに置いてあった(笑)。個人経営のゲーセンだったが、当時はけっこう流行っていたのは、こんなもんまで設置していたから。





 『アフターバーナーⅡ』のあとをついで、ちょっと筐体が簡易になった『Gロック』(1990年)が発売される。


 全体的に洗練された感じで、プレイして楽しいゲームだった。ただ筐体が小型化していて、ちょっと寂しかった。

 ちなみに『Gロック』とは、Gによるパイロットの失神を意味する。

 そして、今回のお題である『R360』は、同年の発売だ。




 ただし、ぼくがプレイするのは、発売のちょっとあとだと思う。一度しかやってないので、記憶が曖昧だ。


 たしか、当時新宿でバイトしていて、同僚のワタルくんに「行ってみませんか?」と誘われて池袋まで出向いたのである。






 大きなゲーセンだった。

 奥に入ると、ロープで仕切られた一角があり、ロープの外で人が行列している。



 円形に仕切られた中央にその巨大な筐体が設置され、お姉さんが一人ついてプレイヤーに説明している。そいつが、究極のアーケードゲーム『R360』である。


 1プレイ500円。必ず一人、係の人がつく。見物人は近くには寄れない。


 遠目にみて、それは架台の上に固定された宇宙船カプセルに見えた。そのなかに人が入る。そしてのモーターでそのカプセルは激しく回転していた。




 『ギャラクシー・フォース』は360度、ビークルが回転する。が、『R360』は、360×360度。三次元的に全方向へ回転するのだ。


 その場所では、すでにプレイヤーたちがマシンによってシェイクされていた。

 ゲームを終えた人が、筐体の中から出てくる。ちょっと足がふらついていた。ちなみにこれ、アーケードゲームである。




 順番がきて、ロープの中に入る。人ごみの中、だれもいない空間に踏み出し、お姉さんに注意事項を聞かされる。なにかこれから絞首刑にされるような緊張感があった。



 筐体にドアはないのて、狭いすき間からコックピットに入る。外はあまり見えない。


 シートにつくと、上からバーが降ろされた。ジェットコースターについてるあれだ。そののち左右からシートベルトが伸びて、バーに差し込まれ、機械式できゅっと締められる。固定の仕方が半端ない。



 お姉さんがにこやかに言う。

「やばいと思ったら、そこの『緊急停止ボタン』を押してください」


 『緊急停止ボタン』!


 んなもんが着いているアーケード・ゲームなんて聞いたことが無い。


 『モンハン』に緊急回避という操作があるが、そもそも『緊急』の対象がちがう。



 そして、いざプレイスタート。



 は、激しい。動きに容赦がない。

 いままでの体感ゲームの、ただ揺れるだけの動きとは根本的にちがう。こいつの動きは回転だった。ぐいっと回して、戻ったりしない分、思い切り回ってくる。


 ゲーム自体はいつもの『Gロック』。だが、筐体の挙動がちがうだけで、全然別物に見える。息が苦しい。頭に血が上る。激しく振り回されて、頭が揺れる。



 アニメ『機動戦士ガンダム』の第2話で、赤い彗星シャアに攻撃されたアムロが、操縦桿を引きながらビームライフルを連射してガンダムが後ろへ半回転するシーンがある。上下ひっくり返ったアムロが叫ぶセリフが以下だ。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」



 まさにそんな感じであった。


 激しい回転を与えられ、敵機の攻撃を回避し続けて何分か、あるいは何十秒か。

 すこし余裕が出て来たのかも知れない。筐体の隙間からちらりと外を見ることができた。


 右上方に、なにかがあった。……床だった。



 短い時間のプレイだったが、へろへろだった。だが、何かの達成感もあった。なんの達成感だか不明だが。



 『R360』は体感ゲームの究極であろう。行くとこまで行ってしまった進化は、やがて絶滅へと至る。

 巨大化した恐竜が、やがて鳥類へと進化して生き残ってゆくように、大型筐体の体感ゲームは廃れてゆく。



 中にはスキーの体感ゲームや、自転車を漕ぐ体感ゲームもあったが、それはやがて特化して、ダンスや太鼓へと生き残る道を模索してゆくのだ。



 だが、ぼくは今だに忘れていない。あの『R360』の無茶な挙動を。あの無茶な企画を通し、現実に発売したセガの拘りを。


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