死神と死に挑む術士
佐吉は渓流で手ぬぐいを濡らすと、汗ばんだ首筋を拭った。このところ修業に身が入らない。師匠にも叱られてばかりだ。佐吉は嫌なことを思い出して眉をひそめる……それもこれも、巫女様の館に最近現れるようになった黒い男のせいだ。
幼なじみの瑠璃が巫女に選ばれ2年。後を追った佐吉は15になる。
巫女をお守りする衛士となるべく修業に明け暮れる日々は、佐吉にとって驚きの連続だ。特に師匠の卓越した技の数々を見ると、その素晴らしさに目を奪われるのが常であった。
だが、そんな師匠でも敵わぬ者があるらしい……あの黒い男の話をすると、決まって師匠は眉をひそめ、強い口調で言うのだ。
「ならぬ。あれに手を出してはならぬ」
到底納得できるはずもないが、佐吉は師匠の重い言葉に平伏し、承知しましたと答える他なかった。
佐吉は溜息をつき、手ぬぐいを洗う手をはたと止める。上流から流れて来る木葉が、平時より異様に多い。
何が起きた?胸のうちで芽生えた問い掛けに答えはない。
嫌な予感に、佐吉の視線は川を遡ってさらに上で止まった。まさか、巫女様の館で何かが?
突然佐吉の周囲でぴんと空気が張り詰めた。耳鳴りで痛みを感じるほどの緊張感に、思わず耳を押さえた……その途端、それはふつりと糸のように切れてしまう。
佐吉は周囲を見渡した。あの感覚には覚えがある。
手ぬぐいを投げ捨て、巫女様の館を見上げる。
あれは師匠が技を見せた時感じた緊張感。佐吉の全身から汗が吹き出した。師匠はあんな風に緊張を解いたりしない。それは技の失敗を意味する。そして師匠の失敗は……。
「巫女様……瑠璃!」
2年前封印した幼馴染の名前を叫び、佐吉は駆け出した。
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