第20話 山中の完全犯罪



 内装が壊滅した茶店より飛び出した。


 気づくのが遅れた。

 町はすでに爆撃を受けたようになっていた。


 鎧型ネクライマーだ!

 顔が一つに腕が六本、足は二本だ。


 学習した感出てるけど、重心が上半身に寄りすぎだね。

 バランスが悪い……ってことは?


「ひゃひゃひゃ!」


 美形揃いのマードックの中でも希少種、メタボ中年マーゾック。たぶん中間管理職。

 また高いところで笑ってるよ。


「戦いとは、こうするものだ! この町を闇に塗り替えろ!」

「いたな、そういえば」


 ってことは、こいつがサタノダークの後釜か?


「おまえらは裸にひん剥いて、弄んだ後、奴隷として売り飛ばしてやろう。ひゃひゃひゃ!」


 他の二人は良いとして、妹もか?


「やってみろコラー!」

 わき上がる殺意。今度こそ仕留めてやる。


「変身だニュ!」


 レッドが肩に掛けていた鞄から、ひょっこりと顔を出すUMA。変身の指示はこいつが出す決まりでもあるのかな?

 それより、衆人環視の中で変身するのか?


「正体ばれるよ!」

「大丈夫ニュ! 不思議な催眠光線で人民共の記憶を操作しておくニュ!」


 マーゾックを倒したら、次は光の園だな!


 三人が水晶球を高く掲げた。

 おっと、変身だったな!


「キューティ! マジカル・エクストリームリー!」

「キューティ! マジカル・プリティー!」

「キューティ! マジカル・スイートリー!」

「キューティ! マジカル・まっはこーん!」

 そしていつものように投擲兵器を始動させる。


「ニューッ!」


 阿修羅像マーゾックの足下に直撃弾! 盛大に吹き上がるアスファルトの破片。


 いつもの時間稼ぎだ。


 あたしは変身と同時にジャンプ。

 おっと忘れていた。


「キューティ! マジカル・スイートリー! ブラックキューティ! 華麗に登場! とー!」


「うわー!」


 中年マーゾックに蹴りをぶち込む。しかし、防衛本能が高いのか、予想だにできない素人っぽい動作で避けられた。


 もっとも、逃げた後でバランスを崩すのはいただけないな!

 中年マーゾックの袖を掴んで、さらに姿勢を崩してやる。


「うひぃ!」

 突き出された首根っこを押さえ込んだ。確保完了! 殺戮ターイム!



「レッドキューティ! 過激に登場!」

「ブルーキューティ! 華麗に登場!」

「ピンクキューティ! 可愛く登場!」


 ズシャリとつま先を揃えて立つ。


 ちっ! 殺す前に変身完了か!

 妹の情操教育上、目の前で首を落とす事は出来ないのだ。


「マジカルキューティ! 変身完了! 悪い子は、お尻ペンペンよ!」


 この恥ずかしい台詞は妹たちに任せる。あたしには似合わない。

 あと、ブルー、てめぇもだよ!


「いきなり新必殺技だ! 撃てるな?」


「だ、駄目だニュ! ネクライマーは、まだ動けるニュ!」

 不死身のUMAが、一丁前に戦況を読んでいる。


「動きはあたしが止めてみせる! マッハ・コーン・スペシャル!」

「ぶふー!」


 阿修羅ネクライマーに向け、中年マーゾックを投擲した。

 命中!


「今だ!」


 レッドが両手を空に向かって広げた。

「開け! ファイナル・キューティー・キャスケット!」


 キラキラした宝石箱が出現!

 ……ちょっと待て、新必殺技は2段階の手続きを踏むのかい?


 前にも増して時間掛かるのかーい!


「わたた!」


 復活した中年マーゾックが逃げた!


 妹たち3人はバトンを取り出して謎のダンス中!

 あたしの胃はキリキリと音を立て収縮のダンス中!


「ハートフル・セラピー・レインボー・エクスプロージョン!」


 1カメ、正面からチュドン!

 2カメ、真横からチュドン!

 3カメ、俯瞰でチュドン!


 3本合わさったバトンから、パステル寄りのシンボリックカラーが発射された。


 マーベル状に絡みながら直進。鎧阿修羅クライマーに直撃!

 外見以外、ここまでは前の技と同じだが?


 おっとぉ! 三色に変化するビームが、クライマーを包んで球体化した!


「オオオオオォォォゥ!」


 え? ネクライマーが浄化されていく?


 装甲を貫通したようには見えな……あ!

 装甲を貫通するんじゃなくて、全方位より浄化の光に包まれることにより、鎧の隙間から、細かい羽毛のような浄化の光が入り込んでるんだ!


 静電気で埃が……いやいやいや!

 だから、鎧や盾で防げない。この世界の物質だけでは、完全密封できないからか。


 考えたな!


 ネクライマーが完全浄化された。


 後に残ったのは……どっかで見たおじさんだな?


 比例代表の効果期間が過ぎたんで大手野党から飛び出し、正反対の方針を掲げる新進の野党に、踏み絵まで踏んで入党したはずなのに、選挙基盤を領地替えされ、あえなく落選した政治家だ!


「よーし、のこるは中年マーゾックのみ。囲め囲め! フクロにしろ!」

「ひいい!」


 間抜けなマーゾックを始末しようとしたが……、


 トン……ッ!


 新しい鎧ネクライマーが、音も無く中年の眼前に出現した。


 腕も足も頭も通常タイプ。身長2メートル無いか?。

 均整のとれた体躯なんだが……。


 女型か? 胸があって腰が細い。

 細い腰に、反りの入った刀を吊っている。

 ヘルメットが羊を彷彿されるデザインだ。

 ただし、ピンク色! 妹と被ってるだろがーっ!


 おのれ、もう一体いたのか。


 ……こいつ、できる。ピンク色だからだろうか?


 同じように感じたのだろう。妹たちも、突っ込むのを止め、用心深く位置取りを始めた。


『間抜けめ』

 おや? この羊ネクライマーは口を利くのか?


 オヤジに対して認識を同じにするマーゾックだった。親近感が沸く。


『ここは、ネクライマー・ビーが引き受ける』

「ひいぃー!」


 悲鳴を上げ、逃げ出す中年マーゾック。

いまなら一撃で殺せるのだが、羊ネクライマーに背を向ける事になる。

 ここは突撃隊長として、妹たちの様子に合わせた飛び込みタイミングを計っていたら――、


 羊ネクライマーが消えた。音も無く。


 こいつ、目的を達成したらすぐに引いた?


「ふー……」

 誰かが大きく息を吐いた。


 マジカルキューティ達は、ようやく、緊張を解く事が出来た模様。


「何だったの、あのネクライマー?」

 ブルーが消えた空間をスキャンしている。


「中年マーゾックのヘンテコネクライマーとは出来が違うな。サタノダークに変わる、新しい指揮官が赴任してきたんだろう」


 戦いは次のステージへ移動した。


 それにしても――、




 あの中年。妹を邪な目で見やがって、許せねえ!




 第4世界マーゾン空間にて。


「ここから出て行け」

 ナグールが、ゲスダム放逐を命じた。


「そ、そんなー!」

 情けない声を出すしかなかった。






 バケツをひっくり返したような雨が降っている。

 真の闇夜。山の中腹だから、マーゾン空間より暗いかもね。

 むしろ好都合だね。


 稲妻が走った。

 一瞬だけあたしを映す。

 次いで轟く雷鳴。


 あたしは闇と雨の中、一心不乱にスコップを振るっている。


 急がなければ!

 大粒の雨が顔に当たって痛いが我慢だ。


 襟首を掴んだ際、GPS発信器を仕込んでおいて良かった。

 おかげで、地上へ現れてすぐ捕らえる事が出来た。


 バカだなあ……、

 妹にあんな色目を使って、ただで棲むと思ってたの?


 また稲妻が走る。

 中年マーゾックの顔に、土を掛けた瞬間が浮かび上がった。


 ラッパのように雷鳴が鳴り響く。


 雨は、前にも増して勢いを強くしていく……。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る