第3話お姉ちゃん、少年を襲う

「あ、あれは異次元の入り口、クライマー空間の入り口だニュ!」


 縁が紫? な、黒い穴? が、渦を巻いて空に浮かんでいた。でかい!

 視野の半分をマーゾン空間が占めている。


 現場のオフィス街が、マーゾン空間の浸食を受けていた。

 建物や、道路なんかが、こう、黒っぽい紫色? に変色していた。


 一般人の方々が、人生に疲れたお父さんのような顔をして、しゃがみ込んでる。夢とか希望とかを吸い取られたのだろう。


 まだ間に合う! 財布さえ無事なら、……この隙に財布を、もとい……。マーゾックさえ撃退すれば復活できる! はず!


「こ、これは今までに無い大がかりな攻撃だニュ! 本腰を入れてきたニュ!」

 汗をぬぐうUMA。その毛むくじゃらの下に、汗腺なんかあったのか?


「本腰を入れる理由が何か……」


 ゆっくりとUMAの顔がこちらに向く。

「理由はわかったニュ。マーゾックは裏切り者を許さない――痛い痛いニュ! 指が頸椎を押さえてるニュ!」


「ホーッホッホ! 現れたわねマジカルキューティの小娘ども!」

「いつも通り接敵時間だけは早いですね。秘訣を教えていただけませんか?」

「今回はちーっとばかし、ズルさせてもらったぜ!」


 カゲール、サソリンダ、ゴーランダーの三幹部が、そろって破壊活動に勤しんでいたようだ。

 いつもと違って黒っぽい戦闘服に着替えてますよ。そんなんで強くなったつもりなんですか?


「みんな! マジカルキューティに変身だニュ!」


 レッドが血のように赤い水晶球を掲げて叫ぶ。

「キューティ!マジカル・エクストリームリー!」


 ブルーが、深淵の者達が棲む海面の色に似た青い水晶球を掲げて叫ぶ。

「キューティ!マジカル・プリティー!」


 妹がブリリアントな最高級高純度の高島屋で売ってそうな水晶球を掲げて歌うように絶唱する!

「キューティ!マジカル・スイートリー!」


 三幹部は、マジカルキューティ三大の弱点、変身シークエンスが完了するまで、待ちの姿勢だ。つーか、いつでも襲いかかれる体制のまま、こっち見んな!


「いや、お姉ちゃんは変身しないのかい?」

 サソリンダが眉をハの字にしてこっちを見ている。


「変身?」

 偶然近くを歩いてたUMAの頭を鷲掴みにして――、

「マッハコーン!」 

「油断したニュー!」

 三幹部に向け投擲する。


「こっも油断していたー!」

 狙いがわずかに逸れ、ゴーランダーだけに着弾、吹き飛んだ。


「ゲゲボ」

 瓦礫のなかより、冬眠から冷めたガマガエルのような姿で這いずり出してくるゴーランダー。


「ちっ! 仕留め損ねたか! 今日は調子悪いな!」 

 さすが三幹部位置の武闘派ゴーランダー。体力ゲージだけは無駄に多い。


「な、何を食ったら、変身前にそのパワーを出せんだ?」


 その無駄に、敬意を表して答えてやろう。

「人間の動物としての特徴である、長距離移動能力と投擲能力をなめんじゃねぇわよ!」


「人類の特徴を超えてる点が問題だ、つってんだよ!」

 マーゾックってのは細かい所を拾うのが得意なフレンズなんだね。


「物は考え様。三人が変身を終えるまでお姉ちゃんは変身できません!」

 カゲールが走る。軽やかに。


「倒すなら今しか無いぜ! 全力で当たれ! 後のこたー考えるな! ふんぬ!」

 片方の鼻を押さえ、鼻血を吹き飛ばしてから突っ込んでくるゴーランダー。こっちは重戦車だな。


「言われるまでもないわ!」

 訳のわからんメカを展開しながら飛ぶのはサソリンダ。攪乱のつもりかな? こう見えて、サソリンダは二人のフォローが上手い娘なんだ。


 フフフ、過去より蓄積されてきた観測データーどおりの動きしか出来ないあんたらに、勝ち目は無いよ。

 すでに対策済みだ!


 あたしは下段に構えていた左腕を勢いよく振り上げる。

「殺さない程度に吹き飛ばしてくれよう!」


 ズバシャ!

 アスファルトが捲り上がり、破片の散弾となって三幹部を足下からズタズタに引き裂く。


「今のどうやって出したんですかー!」


「初弾と今ので、妾等が破壊した倍の面積を破壊したよね?」

 ちょっと意味が不明な台詞を吐きつつ墜落するサソリンダ。残りの二人は瓦礫に埋もれて見えなくなっている。これが噂に聞く瓦礫隠れの術か?


「今日は隙が多いようですね。何処か体の具合でも悪いのかな?」


 あ、しまった! もう一人の存在をすっかり忘れていた。

 金髪のショタ(攻略対象)だ!


 強力な破壊の気配を首筋の皮膚で察知した。防御が間に合わない!

 変身前のあたしは、普通の女の子。まともに食らっちゃーただで済まない。


 とっさに左手を盾に見立て、右拳を支えとして受けたが、吹き飛ばされてしまった。


 四車線の交差点が吹き飛び、土と岩をむき出しにしたクレーターになってしまった。

 その中心で仰向けに倒れたあたしは、起き上がれずにいる。

 痛くて声が出ない。


「おかしいニュ。お姉ちゃんはその程度でダメージを食らう生き物じゃ無いはずだニュ! も、もちろん、お姉ちゃんの高い能力を買ってこその驚きだニュ!」

 

 こいつ、人を名状しがたい生物にとらえているとしか思えないな!

 ……大幅なパワーダウン。これには、どうしても避けられなかった訳がある。


「光の園に居たんで、エネルギーだいぶ削られちゃった。足に力が入らないよー。えへ!」

「だぁぁぁ! 何でそんな事するかなーニュ!」

「妹と同じ光の戦士として、光の園イベント参加は当然の義務!」

「お姉ちゃんの命は、妹さんの下位バージョンなのかニュ?」

「なにを当然の事を!」

「そのしたり顔がむかつくニュ!」


 その時だ。待望の時がやってきた!


「レッドキューティ! 過激に登場!」

「ブルーキューティ! 華麗に登場!」

「ピンクキューティ! 可愛く登場!」


「「「マジカルキューティ! 変身完了! 悪い子は、お尻ペンペンよ!」」」


 やっと変身が終わったか。……この長い変身シーンも、何とかしないと先が暗いな。

 あと台詞、何とかならないのかな?


「後はわたし達に任せぇや!」

「なんだかんだ言って、頼りになります」

「お姉ちゃんは早く安全なところへ!」


 はいはい、今回は安全なところへ移動させてもらいましょうかね。

 

 ガチャリ。

 禍々しい装飾を施された黒色の大剣が、あたしの左耳そばに突き刺さった時のオノマトペだった。


「川に落ちた犬を叩け。たしかそんな諺が人間界にあったな」

「聞いたこと無いわねー」


 日本にゃ「川に落ちた犬は叩くな」という諺ならあるけどね。


 金髪ショタ、えーと、ショタノダーク? が、屈んであたしの顔を覗き込んでいた。


「女の子が寝転んでいるときは、そんなこと言わないの」

「ほう? じゃ、なんと言えば良いのかな?」

 唇の端をゆがめるショタ。


「こ……お……」

「ん? なんと言った?」

 良く聞き取ろうと顔を近づけてくるショタ。


 隙有り!

 黒水晶の力モロ出しの拳で、顎を打ち抜く。


 腕をショタの首に回し、ガッと引きつけ、ホッペとホッペをフニッと合わせる。

 こやつ、結構体温低いのね。

 続いて、ショタの顔をグイと引き下げ、胸でグニャる。


 すべてに優れた妹より、あたしが唯一勝っている部分。それは胸。

 サソリンダとほぼ同じ大きさを誇る。

 あとは頭を撫でつつ、指を少年のズボンの中に滑り込ませる。


「う%わ@;/。・、!」


 人間の喉では発音不可能な雄叫びを上げながら、腹筋だけでバックステップ。

 尻餅をつき、M字開脚で停止。


 顔が真っ赤。


「NuOOOOOoouo!!!」

 瞬間移動。

 姿を消した。






 フッ! 墜ちたな。


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