第2話百合の咲く丘でお姉ちゃん
パステルイエローの丘に、パステルブルーの空。パステルピンクの建物の中は、もちろんパステルクリーム。パステルの花が咲き乱れている。百合とか薔薇とか。
ここは異次元にある光の園の首都? みたいな?
真っ白なギリシャ風神殿を背後にして、戦略会議が開かれているのだ。
「なる程のう~」
白いUMAの目を白い眉に埋没させ、同じく白い顎髭を生やし、どこかの博士と助手が持ってるような杖に身体を預けている。
光の精霊界を束ねる長老なのだ。
他にも、偉そうなUMA達が雁首を揃えてこの場に集合している。評議委員とか自称している連中だ。
「とうとう、司令官クラスの大物が出てきたニュ。マジカルキューティ達の善戦に、闇の精霊界が焦っている証拠だニュ!」
いつもの白いUMA、ニュ? とかの、偽名っぽい名のりをあげた進化ツリーから外れた生き物。見るだけでSUN値が下がらないだけ小マシな精霊? を自称する疑似生命体だ。
マジカルキューティの前期メンバー3人、(妹とその他2名・変身前)が頷いている。
前回の戦いで三幹部をまとめる上司たるショタノ? サタノダーク? なる、ショタが、その姿を現した。
司令官を引きずり出した事に満足しているのだろう。
「この調子で戦いを進めば、闇の勢力を一掃出来る日は近いニュ!」
拳を握りしめるUMA。頷く光の精霊達。
こいつら、頭がお花畑で出来ているようだ。
「ちょっと質問なんだけど……」
妹の手前、遠慮がちに手を上げる。
「お姉ちゃんに発言権は無いニュ。それ以前に、闇の存在たるお姉ちゃんが、どうして光の園に入れたんだニュ?」
ここはUMA達の故郷にして本拠地、そしてマジカルキューティ達の基地でもある。
世界の平和を守るマジカルキューティの第二期生・光の使徒ブラックキューティであるあたしが居て何の不思議があろうか? いや、ない!
光の園と呼ばれるだけ有って、なかなかの存在感。今もあたしの周囲で、小さな火花が弾け続けている。
「それは光の園の拒否反応だニュ。お姉ちゃん、ここに居て身体は大丈夫ニュ?」
おもしろい冗談を言ってるUMAを無視して、質問を続ける。
「君たち光の精霊首脳部は、この戦いの勝利条件を何に設定しているのかな?」
「何に、じゃと? もちろん、闇の勢力の排除じゃ」
うむ! 駄目というか、こいつら戦いに全く向いていない種族である事が判明した。
「質問の2です。じゃ、今までどうやってマーゾックと戦っていたのかな?」
「町にマーゾックの魔獣ネクライマーが現れるじゃろ? そやつを正義の力で打ち倒すのが、光の園が生み出した伝説の戦士・マジカルキューティじゃ!」
「なるほど」
爺様の力説終了。付き合いで頷いておいたが……。
「それ駄目じゃん!」
平和を愛し暴力反対を主張するUMA共がいきり立った。平和主義者も端的になれば、こんなものでしょう。
「なんだニュ! 長老に意見する気……何でも無いニュ! 痛いから指を目に入れないでほしいニュ!」
「さすが平和主義者。光の園の生物!」
お芝居でにっこりと笑う。
「この戦い、負けるわね」
長老の目(右の方)が怪しく光る。
「その目を光らせるスキル、どうやったら入手できる?」
「イドの井戸イベントでネコソギ草を手に入れなされ。こほん! ……意見を聞こうですじゃ」
腐っても長老。あたしに無い物を持っている。
「マーゾックの本拠地はどこ? どこやらやってくるの? マーゾックの首領の名は? 能力は? マーゾックの構成員は? その規模は?」
顔に笑顔を貼り付けたまま、畳みかけるように質問をぶつける。
「本拠地は、どこかにある闇の園じゃ。そこからやってくる。首領の名は……しらん。構成員も謎じゃ。だから恐ろしいのじゃ」
長老の声が小さい。詳しい事は知らないんだ。
「あんなぁ」
レッドが手を上げた。
おや? アイデアがあるのかな?
「ほら、将来イケメンになりそうなサタノダークて子供、おったろ?」
妹が「あ、あの子ね」と、嫌な事を思い出していた。可愛く両手を合わせている。
金髪碧眼色白年下は、妹の高めストライクゾーン。
……あたしが先に堕としとくか?
もといして、
「あいつは強いわね。でも手合わせした感じだと、部隊長クラス? 軍隊で言う所の大佐かな? 会社だと部長さん? とてもじゃないけど将軍にも王にも見えないわね」
「そっかー。あれでウチのパパと同じか……。なら、大したことあらへんな」
うん、後でお父さんに謝ろうな。
レッドは、考えの浅い子、と頭の中で覚え書きをして引き出しにしまっておいた。
「あたしの話を良く聞いて考えてほしいんだけど――」
ここまで親切に戦略をティーチングして良いのか? と自問しかけた所、キラキラした目であたしを見ている可愛い妹が見えたので、続ける事にした。
「伝説の戦士マジカルキューティがマーゾックと戦い、その侵攻を挫いている。でも、あたしの目から見れば、マーゾックの邪魔をしているだけ。いわゆる受け身の戦いね」
伊達に最初から妹をストー、もとい……。観察してきたわけじゃない。この程度の分析はとっくに済ませてある。
「今までの戦いは受け身でした。なぜか、マジカルキューティの近くでばかり事件が起こっているからね」
「そう言うたらそうやね」
レッドが同意してくれた。頭は悪くない。残念な性格だけなのだ。
「マーゾック達の最終目標は、世界制覇。世界制覇のためにマジカルキューティは邪魔。ならばマジカルキューティを倒すのが先決。これが彼らの戦略でしょう」
「それなら、いままでの事、つまりマーゾックとの遭遇確率の高さに説明つくわね」
ブルーまでもが同意した。こいつ性格は暗いけど頭は良いんだ。
「そこでこちらで立てる戦略だけど、今までの専守防衛とは逆に、こちらから攻撃をかけてはどうかしら? 今まで、マーゾック三幹部の目的が、マジカルキューティー撃破を第一目標としているから、防衛できているように見えるけど……」
ここで言葉を切って、仲間であるレッドとブルーに挑発的な視線を向けておく。
「見えるけどなやの? 防衛は成功しているやろ?」
レッドが乗ってきた。こいつの戦闘力は高いが、やっぱり考えが浅いという個性(馬鹿)の持ち主。
嫌いじゃないよ! こういう性格(馬鹿)とは何故か気が合う。
「お姉さんは、こう言いたいのでしょう?」
ブルーが眼鏡を押し上げる。こいつは眼鏡っ子属性の秀才児だ。
「戦国時代の織田信長の配下に、独立軍を指揮できる武将がたくさんいたでしょ?」
いや、知らんがな。
「そんな感じで、マーゾックにもいくつかの戦闘部隊が独立して、複数の戦争ができる。もし、マーゾックが2部隊で多発同時攻撃してきたら、手の打ちようがない。こう言いたいんでしょ?」
「遠回しだけど、だいたい合ってるわね」
ちょっと褒めてやると、鼻の穴を膨らませてドヤ感を見せる。
うーん、お姉さんはこういうタイプ嫌いだなー。
……あたしは他人が増長すると腹が立つスキル持ちなので、とりあえず叩き落としておこう。
「そこまで理解できるなら、なぜそれを先に言わないの?」
あたしの一言に、ブルーは一転して不満顔になった。
「じゃ、どうすれば良いの? 批判するばかりじゃなくて、代案を持って来てよ!」
代案どころか、長年のストーカー……もとい、観察から導き出した攻略法を伝えてやろうというのだ!
「いつまでも守るべき町中で戦ってるんじゃなく、敵の地を攻める! 守るべき大事な場所からなるべく遠い所で戦わないと、いつかは人命という被害が出るわよ」
ブルー子ちゃんは、また言葉に詰まった。
頭が良いと言っても、お勉強か、せいぜい敵の分析にしか使われてなかったからね。
ってか、なんであたしがこの場を仕切らなければならないのか?
そんなんじゃ国家公務員になれないぞ! 外務省狙いなんだろ?
妹がこっちを見ている。キラキラした目でこっちを見ている。「お姉ちゃんスゴイ」と心の中で言ってる。あたしには解る!
よーし、もうしばらくはこの場を仕切らせてもらいましょう!
「目先の目標は、三幹部のアジトを暴き、その地に攻め込むこと! アジトに、上層部の情報が有る事を祈って。そうやって上へと手繰っていき、最後は敵の首領と対峙する! これよ!」
どうだとばかりに拳を握りしめ胸を張る。
身体から溢れる精気が雷光となって輝く。なんか輝きが増してきたぞ!
「だからそれは光の園の拒否反応だニュ!」
ああ! どおりで力が抜けていくと思った!
「これは、まさか!」
長老が細い目を見開いた。
「光の精霊神、ヒカリーナ様の力を感じますじゃ!」
妖精と自称するUMA共全員が、神殿に視線を向ける。
ギリシャ風神殿の中央に光の柱が立つ。やっぱ、パステルカラーの光だった。
光が消えると……神々しいばかりの女性が立っていた。
ローマの休日に出演していた頃のオードリーがエルフ化したと表現すれば良いか?
床に届く金髪。白い肌。目の色は閉じているから解らんけどたぶん碧眼。耳がとがってて長いな。
やっぱエルフか?
「光の精霊神ヒカリーナ様が顕現なされた! 千年に一度の奇跡ですじゃ!」
おおおおー。
ぷかぷか浮かんでいたシナモ風精霊共が下へ降りて土下座する。
「精霊が受肉した生物をエルフという」
「エルフ等ではありませんじゃ!」
「お姉ちゃんは口を閉じるニュ!」
ヒカリーナとか呼ばれた少女の後ろから小さい子供がぴょんと跳びだした。
ヒカリーナ様と同じ服装。彼女を小型化したらこうなったかもしれない。違っている点はカボチャパンツと太い眉だけか?
あ、背中に羽が生えている。なんて生意気な! 天使の羽が似合うのは世界広しといえど妹だけというのが現世の定説なのに!
「だれだ、この小生意気そうなツラした
「ヒカリーナ様の巫女、クレシェント様だニュ! お姉ちゃんはいつか口で滅ぶタイプだニュ!」
ヒカリーナ様は口と目を開こうとしない。代わってこましゃっくれた幼女がクッソ偉そうな態度で口を開いた。
「ヒカリーナの御前ですよー。控えるですよー」
「思いっきり濃いキャラじゃん!」
「だから黙れつってんだろうがニュ!」
「お、おう!」
いつもと違って、押しが強いUMA。
こいつの本性が垣間見えたな。
「闇を押し返す力が、ここに集いましたですよー。今こそ、マーゾックのすべてをお話しするですよー。とヒカリーナ様がおっしゃってるですよー」
このロリがヒカリーナ様の本体だったら面白いんだけどなー。
……まさかね?
「マーゾックは異次元であるマーゾン空間に存在する闇の園に住んでいるですよー。敵の首領は、闇の精霊王。その名もネガ・クライマー! マーゾン空間に浮かぶ城都プロノ=クレイマーが奴らの本拠地ですよー」
厳かなシーンなんだろうけど、精霊訛りがすべてを台無しにしている。いや、なにも訛りが悪いとか差別しているわけではないが。
「マーゾン空間の出入り口座標と、現世での方位位置は密接な関係に有るのですよー」
訛りも味があるんじゃないかな? と思えてきた。
この訛りがたまらんと言いだす者も出てくるかもしれない。
聞きようによっては、暖かみすら感じると表面上は弁明しておくとしよう。
「まずは現世での地理的要因。つまり
要は、場所が解らないと言う事か。
「町ったって、大きいぞ。うちの町。確か3万人規模だったはず」
レッドが顎に拳を置いて考え込む。矮小な脳の中で、町のおおざっぱな地図が展開されているのだろう。
ブルーも、同じく不景気なツラをしている。
「それらしい場所を探すにしても、人手が足りないわ!」
……そこは何とかなりそうな気がする。
「はっ! 大変ですよー!」
これ見よがしに、何かに気づくロリ。
「町にマーゾックが現れて暴れ出したですよー!」
……?
「なんやて!」
「くっ! 隙を突かれましたか?」
「大変! どーしょう、お姉ちゃん?」
どうしようって、迎撃するしかないだろう?
「マジカルキューティ、出動だニュ!」
どたどたと慌ただしく光の園を後にするマジカルキューティ(変身前)
もう38度線の向こうから帰って来やがったか!
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