第15話 お姉ちゃん、新型と相見える 2


 ゆっくりとした動きの重量級鎧ネクライマー。構えた!


「ふむ、さすがにこの程度で倒れる事はないか」


 中年太鼓腹は眉と口をしかめ、顎に手を置いて悩んでいるポーズを取っていた。

 イヤミな様が実に絵になる。良き無能上司の典型だな!


「おい、おまえら、接近戦だ」

 適当な指示。お里が知れるよ。


 だが、鎧のネクライマーは、またも重厚な動作で頷いた。


「格闘戦やったら――」

 レッドの目の前に赤い鎧が立っていた。


「え?」

 レッドの頭は鎧の鳩尾の位置。腕がふり上がっている!


 ボチュン!


 鎧が腕を振り抜く。レッドが水平に飛ぶ。

 駅ビルの壁にぶつかって、そのまま埋もれてしまった。


 同じく隣にぶつかるブルー。


 あたしは左手でパンチを受け止めることができた。妹を片手に抱いたまま、地面を削り後退。

 駅ビルにぶつかる前にグリップを回復した。


 知能が高くて、固くて、痛くて、素早いネクライマー。


 ふむ、妹を抱いたままだと、重心が高くなってはじき飛ばされるか?


「こっのぉー!」

「手強いわね」


 レッドとブルーが壁画状態より回復した。

 二人とも、いつもと違う相手である事を認めている。そこから来る恐れがありありと見える。


 受けたダメージは、エネルギーを拡散する事によって無効とする。これがマジカルキューティの防御システム。二人の様子を見るに、相当量のエネルギーを喪失している。

 この攻撃を何度も受ければ、エネルギー切れで変身が解けるだろう。


 なら、受けなきゃ良い。


「レッド、ブルー! これ以上攻撃を受けてはいけないわ。動き回っての攻撃に切り替えて! 一撃離脱をイメージして!」

「よっしゃー!」

「それしかないわね」


 二人は勢いよく飛び出した。


「ピンクは二人の防御を! この前のネクライマー空間での戦法が有効よ!」

「わかった!」


 妹は二人の後方で適時打を放つ係。安全な位置取り!


 マジカルキューティは光と希望の美少女魔法戦士。恐怖とか、負の感情は彼女たちの力を削ぐ。恐怖が確定するまでに倒さねばならない。

 なにせ、使命感だけで戦っているただの少女なんだから。


 あたしも1匹受け持とう。


 接近すると、でかさが際だつ。

 こういう連中には――


「下段キック!」

 姿勢を低くし、膝を狙って蹴りを出す。


 狙いは正しかった。背が高いので腕が膝下まで届かないのだ。


「いける! みんな、膝を狙え!」

「おう!」


 ご機嫌で答えたのは、何も考えてなさそうなレッドだけ。

 ブルーは複雑な表情を浮かべている。勝ちたければ、戦いに美意識は持ち込むな!


 三者三様、7人が入り乱れて高速戦闘を繰り広げる事となった。


「頑張るニュ! その調子だニュ!」

 UMAが調子に乗った応援をするが、流れとしては良くない。


 マジカルキューティー達が通常技を撃ち込むも、高い防御力に阻まれる。

 鎧のネクライマーが放つ攻撃はかろうじて受け流す。


 妹の存在が大きい。適切なタイミングでバリヤーを展開している。


 レッドとブルーは、何度か鎧ネクライマーの攻撃を受けるが、浅い。

 勢いではじき飛ばされるが、転がる事は無い。全て足から着地している。


 つまり、敵に攻撃が通らない。レッドとブルーは中ダメージを蓄積させている。あたしの策で妹はノーダメージ!


 きつい事を言うようだが、マジカルキューティーの敗北は時間の問題であろう。

 ここは、あたしが一気に――


「ええい! しぶとい奴らだ! 合体しろ!」


 チョビ髭中年太鼓腹の命令なんだけど、ずいぶん苛ついている模様。そっちが優勢なんだけど……、なんか焦ってる?


 おっと、集中集中!


 鎧ネクライマーはシンクロで頷いていた。

 いけない! 当たると痛そうなエネルギーを放出した!


「キャー!」


 そそる……絹を裂く妹の悲鳴! と、湯葉を裂くようなレッドとブルーの悲鳴。

 マジカルキューティー達が吹き飛ばされた。あたしは耐えられたけどっ!


 いけない!

 全員、受け身が取れそうにない姿勢で宙を飛んでいる。コース上にはゴツゴツした瓦礫の山。


 直線飛行速度を上回る速度で地表を走り、彼女達の背後へ回り込む。

 長い髪が風圧で引っ張られ、うっとうしかったがこの長い髪は妹のお気に入りなので短くすることは叶わないことは横へ置いといて!


 妹の体をキャッチ!


 背中からコンクリ瓦礫に突っこん……剥き出しの鉄筋か……痛そうだったので、慣性の法則を書き換え着地点をずらして……突っ込んだ、妹は無事なので無問題だ!


「ゴガン!」「ズコン!」


 痛そーな音と共に、レッドとブルーが左右の瓦礫に突っ込んでいた。レッドの方、コンクリの鉄筋剥き出しの場所だったけど、たぶん大丈夫だ。彼女を信じていまスかラ!


 あたし達が怯んでいる隙に、鎧マーゾック達は目的を完了していた。


「な、なにが起こったというの?」

 未知に震える妹が、ウサギさんみたいで可愛い! クンカクンカ。


「ふひゃひゃひゃ! 勝ちだ勝ち!」

 そんな貴重な時間を台無しにする歯肉炎チョビ髭中年太鼓腹に殺意を覚える。


 鎧共は、空気をふるわせながら、紫のまぶしい光を放出していた。

 目をかばったあたしが再び視界を得たとき、非常に不細工なネクライマーが1体だけ立っていた。


 デザインラインは鎧ネクライマー。


 頭が3つ、三方に。腕が6本。腰から下に足が6本。

 これって、なにかの謎々か? 


「気持ち悪ーい」

 妹のテンションが下がった。


 あ、ワキャワキャと動き出した。これはGの動き!


「腕や顔が多いからって敵は1つよ!」

 埃っぽい姿になったブルーだ。やっぱ無事だったんだ。


 ダメージは無さそうだけど、力強さに欠けているな。


「こちらはお姉ちゃんを入れて4人!」

 おお、我らマジカルキューティの頭脳が作戦を立案したらしい。


「全方位から一度に攻撃。良いわね!」

「おう!」

「はい!」

「フフフッ!」


 わたしも入れてマジカルキューティは4人。フフフッ、あたしも光の戦士だし、4人だし。


「ノガァー!」

 鎧ネクライマーGが腕を6枚の翼のように広げ、咆吼した。


「「「キャー!」」」


 骨に来る打撃が全身を打つ。


 宅配トラックに正面衝突したらこんな感じだ。前に一度経験しているから確かな感触だ。


 気がつけば、前に倍する速度で吹き飛んでいた。

 またもや瓦礫に突っ込むマイカルキューティ。「4」つの土煙が盛大に立ち上がる。


 そう4つ。 


 妹へのカバーが間に合わなかった! この三流がーっ!

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