第14話 お姉ちゃん、新型と相見える 1
「おいピュー太!」
「ピュー太ではない。私はピョン太」
「じゃ、ピュー太って誰よ?」
「知りませんよ!」
ずどどどーん!
窓が揺れてガタピシと音を立てる。
「また火山か?」
妹の部屋をモニタリング。異常なしを一瞬で確認してから窓を開ける。
駅向こうで煙が上がってる。
とうとう黒電話の兄ちゃんが堪忍袋を切らしたか!
「お姉ちゃん! マーゾックの気配がするわ!」
妹も窓から身を乗り出していた。
え? マーゾックの気配?
「光に所属する者は、敵の気配を敏感に感じる。……と聞きますが?」
ピョン太がジトッとした目で、こちらを見つめている。
「と、とうぜん! あたしも光の戦士ですからね! 小さい波動を感じるわ!」
「お姉ちゃん! ものすごい気配よ! 体が震えそう!」
「ものすごい気配だと、妹さんはおっしゃってますが?」
「レッドとブルーが現場に向かってることでしょう。あたし達も急ぐわよ!」
ピョン太の口をスマホのケーズルでぐるぐる巻きにしてから飛び出した。
「え? 人型?」
刺々しい鎧をまとった、3メートルほどの巨人型ネクライマーが暴れている。防御力高そうだ。
駅前広場とロータリーがぐちゃぐちゃになっている。
だからあれほど無意味なモニュメントはやめて、送迎用ロータリーかコイン駐車場を増設しろと口を酸っぱくしてヤホコメウヨクを煽っておいたのに!
「敵は1体じゃ無いニュ! 3体だニュ!」
逆テーパー型の、隠れて悪さしやすいモニュメントの後ろから、残り2体が現れた。
赤と青と黄色だ。
信号か?
「集まったようね!」
ブルーが眼鏡をクイッとあげた。男子に人気のポージングである。知ってやってるから始末が悪い。
「みんな! 変身や!」
一番遅れてやってきたレッドが指揮権を取る。
こいつはリーダー気取りの、実は鉄砲玉、もとい……切り込み隊長だから良しとしよう。使い勝手が良いし。
「みんな! 変身だニュ!」
UMAの指揮で、一斉に変身ポーズをとる3人。
あっ! こいつら、また敵前で無防備な変身を!
「ちょっと待ちなさい!」
「キューティ!マジカル・エクストリームリー!」
「だから待てと――」
「キューティ!マジカル・プリティー!」
「人の話を聞け!」
「キューティ!マジカル・スイートリー!」
「可愛い! 天使! 尊い!」
原色のリボンがあふれ出す。
しかたない。あたしはこの時の為に居るようなもの!
「マッハ・コーン!」
「しまったニュ! 勢いで逃げ損ねたニューーーーー!」
黄色に直撃。
「マッハ・ブレイド!」
五指を広げた投球フォーム。空気を切り裂いた残りの真空刃が青い鎧とぶつかり、気色悪い音を立てた。
「マッハ・インパクト!」
腰の入った回し蹴り。
重たい衝撃波が赤の胴を撃つ。二つ折りで膝を付かせた。
ムクリ。むくり。ムクリ。
おいおいおい、三色鎧が普通に立ち上がったぞ。ファイティングポーズまで取っているじゃないか。
こいつは……、今での敵と違う。
ツイン・アイに火が灯る。
動き出した。
鎧三体がヤバげなモーションに入る。
嫌な予感がした。これは変身したほうあよさげだな!
「変身! ブラックキューティ! 華麗に登場!」
超高速でリボン的な? のを展開。お着替え、もとい……変身を完了した。
「えーと、キューティ・ブラック・リフレクション!」
前方に、ダークエネルギーを加工して障壁(バリヤー)を作った。イメージは中華料理店の回るテーブルだ。
……気になった点は、意図してないのに魔方陣みたいな絵が描かれている事かな?
キューティ・ブラック・リフレ――めんどくさいから――障壁(バリヤー)はギリギリ間に合った。
正体不明の衝撃により障壁が大きく揺れる。
……今気づいたけど、この障壁を展開している間、こちらから攻撃できないのな。
妹たちの変身が終わるまでこのままキープか。
要改善!
「レッドキューティ! 過激に登場!」
「ブルーキューティ! 華麗に登場!」
「ピンクキューティ! 可愛く登場!」
よっし! 解除!
これより反撃開始!
「先生方、お願いします!」
妹たちに花道を譲った。
「みんな! この敵はいつもと違うニュ! お姉ちゃんの攻撃でも死なな……倒れなかったニュ! キューティバトンを使うニュ!」
煤けたUMAが瓦礫から這い出しつつ、的確な指示を出す。なかなか、前線部隊長として優秀じゃないか。
「キューティー・マジカル・レッドソウル!」
「キューティ・マジカル・マリンシャワー!」
「キューティー・マジカル・ピンクウォール・インパクト!」
三者三様の個人必殺技が発射された。
ちなみに、妹のキューティー・マジカル・ピンクウォール・インパクトは、先ほどあたしが見せた障壁の何倍もプリリアントでエレガンスな聖なる盾を作り、敵にぶつけるという攻守バランスのとれた必殺技である。
他の2者による必殺技、シャワーだのソウルだのは解説するだけの価値が無いので割愛させて頂く。
ピンク、レッド、ブルーの三色に輝く光が組んずほぐれつして、ネクライマーに突っ込んでいく。
三体のネクライマーの中心で技が炸裂!
「よーしやった!」
こちらにまで爆風が流れてきた。
髪の毛が持って行かれそうだ。
「あれ?」
ネクライマー健在。
「んなアホな!」
「いつもと違う敵?」
「そんな! 無傷だなんて!」
妹たちに動揺が走っている。
確かに、あの固さはやっかいだ。どうしてくれよう。
マジカルキューティー達の次なる一手はハイパー・プリンセス・デビュー・パーティだ。
それに混ぜてアブソリュート、撃つか?
「ひゃーはっはっは! 見た目だけは豪華な技だな?」
「誰だニュ?」
立駐ビルの屋上でマントをたなびかせた……中年親父が太鼓腹を抱えて笑っている。
おのれ! 見た目だけは豪華などと――痛いところを!
「お返ししてやれ! キラーアーマー!」
中年親父の命令に、重厚な動作で頷き、答えとする鎧型ネクライマー。
……知能高そうだ。
知能が高くて、固いのか。
3体のより型ネクライマーが広げた手のひらをこちらに向けている。
やばい!
ジャンプ! 妹の所へ瞬間移動!
鎧共の前面の空気が歪む。
不可視の衝撃波だ!
妹をどさくさに紛れて、もとい……必要にかられてお姫様抱っこ。良い匂い。腰を落として重心を下げる
邪なエネルギーが濁流のようにぶつかってきた。
砂利満載のダンプがぶつかってきたらこんな感じだろう。
どえりゃー衝撃だ。
だが、マジカルキューティーなら、この程度の攻撃は防げる。
足でブレーキをかけるも、軽量級の悲しさ。体ごと後ろへ持って行かれる。
10メートルばかり後ろへ後退させられたが、倒れるの者なぞこの中にいない!
……左右を確認したら、レッドとブルーはかろうじて立っていた。
えらいぞ!
「なんて力やねん!」
「おかしいわ! これって、おかしいわ!」
「お、お姉ちゃん」
「大丈夫よ。大したことない敵ね」
とは言うものの、妹は敏感に感じとっている。
こいつら、なんか今までと違う。
知能が高くて、固くて、痛いネクライマー。
素材は――、たぶん人間だ。
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