第16話 お姉ちゃん、新型と相見える 3
あたしは怒った!
「マジカル・アースシェイク!」
左手を地に付け、エネルギーを連結伝播。
鎧ネクライマーGの足下が陥没。バランスを崩してやった。
立ち上がりかけた鎧に「空間を渡って」零時間で接近。
ジャンプの頂点。一瞬だけ無重力状態になる位置。
真空飛び膝蹴!
顔の一つにぶち当て、脳みそを揺すってやった。
人間がベースなんでしょ?
頭は三つもあるけど、脳は一カ所。揺れれば機能に障害が発生する。
「聞こえるか! ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティをぶち込め!」
叫びながら鎧ネクライマーGの足全てを下段蹴りで薙ぎ、横たわらせる。
「みんな! 大丈夫かニュ? ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティを使うニュ!」
UMAが、マジカルキューティ達を励ます。ボロボロじゃないか、誰にやられた?
マジカルキューティ達がギコギコとした動作で立ち上がり、一生懸命エネルギーを引き出しているのを背中ではっきり感じつつ、あたしは時間稼ぎに戦法を変更した。
このまま撲殺してもいいのだが、マジカルキューティの放つ「浄化の光り」で消毒した方が良い。
なにせ闇と光りの対決なのだから。あたしは光りの戦士なのだから! マジカルキューティなのだから!
「おらおらおらおら!」
マウントして鎧ネクライマーGをタコ殴りにする。
なーに、腕が6本あろうと足が6本あろうと、背中を地面に着けている以上、有効には使えないよ!
「お姉ちゃん、どいて!」
音速を超える速度で横っ飛び。後に残ったソニックブームが、鎧ネクライマーGを地面に縫いつける。
「「「ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティ!」」」
鎧ネクライマーGに力ある浄化の光りが直撃!
派手なエフェクトと効果音。
パステルカラーの爆風が辺り一帯を制圧した。
「良くやったニュ! 姉ちゃんを巻き込めなかったのが残念――痛いニュ! 痛いニュ!」
UMAの頭頂骨内部へ指を進入させる特種な握り方を試しつつ、達成感に浸る。
みんな、埃まみれだ。妹が一番マシだ。
よきかな。
「それで勝ったつもりか? お嬢ちゃん?」
生きてたか、加齢臭歯肉炎チョビ髭中年太鼓腹。
そして、煙の中からゆっくりと立ち上がってくる、鎧ネクライマーGの姿が目に入っ手いた。
「なんでぇー?」
「直撃した、……はずなのに?」
「お姉ちゃん!」
これはどういうことか?
闇の存在、特に闇の力で生み出されたネクライマーは、特に光の浄化、つまりプリンセス・デビュー・パーティ系の効果が高いという特性を持っている。
これは道理であり理屈である。
物理的な力で押すしかないのか? 無粋なんだけど。
マジカルキューティー達の落胆が激しい。
負けを意識している。
マイナスの感情が、ダークなエネルギーとしてあたしに流れ込んでくるくらいだ。おかげで元気になれたけど。
「ひゃひゃひゃ! 必殺技を封じられた気分はどうだね?」
赤塚キャラ加齢臭歯肉炎チョビ髭中年太鼓腹の、笑い声ほど耳に辛いものはない。
「あの鎧は闇の世界の材料で出来ていない。この世界の金属だ。闇を浄化するだぁ? ただの鉄を浄化して、どうするつもりだったんだ? ひゃひゃひゃ!」
――あー、……。
狙いは良かった、と感嘆すべきか?
それ言っちゃだめだろ。と呆れるべきか?
ただの金属である鎧が盾になってたんでしょ?
鎧さえどうにかすれば普通のネクライマーと同じだ、と言ってるようなもの。
「三流だな、こいつ」
「それもドの付く三流ね」
珍しく、ブルーと意見が合致した。
滅多に無い機会に、方向性を合わせておこう。
「あと1発撃てる?」
「みんな! 行けるわね?」
レッドとピンクが、力強く頷いた。
「何とかなりそうね。でも今度を外すと変身が維持できないわ」
「なら十分ね。鎧はあたしが何とかする。時間差攻撃、できる?」
「言われるまでもないわ!」
フン! とブルーの鼻息も荒かった。
「みんな、もう一度行くわよ!」
「まかしとき!」
「わかった!」
マジカルキューティ(あたしを含んで4人)の結束が高まった。
「最後のお話は済んだかね?」
鎧ネクライマーGが腰を落としバネをためた。
くるぞ!
「では死――」
軽く手首を振る。
頭頂部薄毛赤塚キャラ加齢臭歯肉炎チョビ髭中年太鼓腹の立っていた足下が、派手に爆発した。
上司のピンチに、鎧ネクライマーGの判断が乱れた。
今だ!
「キューティ・クリスタル――」
早口で呪文を唱える。
キラキラ光る粒子が渦を巻き集合する。
「「「ハイパー・プリンセス――」」」
妹たちの技は、発動までこれより約2秒。
鎧ネクライマーGが、あたしの動きに気づき、6本足でダッシュをかけた。
真正面から、あたしに向かって。
「――GAU-8・アベンジャー!」
2秒で130発の劣化魔法弾が打ち出された。
内、80発が鎧を貫通し、向こう側のビルを破砕した。
破壊の力を根源とする弾丸である。この世界でこれを防げる金属は無い。
鎧にさえ穴を開けられれば浄化の光りは届く。
「「「――デビュー・パーティ!」」」
蜂の巣状になって崩れ落ちる直前に、浄化の輝きがネクライマーの生身を明るく照らした。
「キャシャシャーッ!」
気色悪い断末魔の叫び声。
鎧ネクライマーGは闇の力と分離・分解の後、爆発。
「やったでー!」
レッドが拳を突き上げ勝ち鬨を上げた。
爆発跡には、某肉体体育会系準公務員が3人ばかり転がっていた。
合法だの違法だのでストレスがたまった隙をマーゾックに狙われたのだろう。
「おっ! おのれー! 憶えておれよ!」
(めんどくさいので)中年マーゾックは、中途半端に短いマントを翻し、姿を消した。
「いま、あの中年が持っとる火力で襲われてしもうたら、マジカルキューティは勝てへんかったのに」
「ここは運が良かったと思うべきでしょう?」
ブルーなんだが、戦闘服はそのままで、髪やお化粧が元の姿に戻っている。
変身が自動で解けだしているのだ。
「それと、敵だったマーゾック。強かったけど、完成度が悪かったわね」
合体して腕が増えたのは良かったのだろうけど……、
弱点の頭が増えるのはいかがなものか。的が増えただけではなかろうか?
あと、足は6本も要らないでしょう? 走るのに邪魔だし。
「あの指揮官、なんか焦ってたみたいだし……、作戦も思いつきみたいだし、ネクライマーも、急いで作ったってイメージしか……」
ブルーも感づいていたか。
「マジカルキューティ。浄化の力は強力だけど、貫通力が足りないね」
この戦いではっきりした。
セレブ犬の話だと、4つある世界の内、光の勢力を駆逐した世界が3つもあるという。
マジカルキューティーは弱い。
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